アッセンブル
【何を......】
「ドラゴンブレス!」
不遜なものいいに眉を顰めて言葉を返そうとする核に対し、ウィルは問答無用でドラゴンブレスを放つ。
熱風を巻き上げながら、空に炎の柱が立ち上る。
エンシェントドラゴンの吐息、鉄を溶かし泉を蒸発させるその一撃は、言うまでもなく並の魔物なら影だけを残して消滅をしてしまう、メルトウェイブにすら匹敵する一撃。
しかし。
【守れ!】
「!」
その火柱が核へと届くより早く、核は手に持ったナイフを振るい、新たに生み出した影を盾にする。
「作り出した魔物を盾に!? あんたは、その影たちの生みの親じゃなかったの?」
【!! うるさい!!】
理性すらあるか怪しい核に対し、ウィルは不快感を隠すことなくそう呟くと、核は苛立たしげに新たに三体の怪物を呼び出す。
死ぬために生まれてくる魔物達。
そんな魔物達の命を実際刈り取る人間が言えることではないのかもしれないが。
同情にすら等しい哀れみの念を抱きながらも、せめて魔王らしく、ウィルは怪物達を死による救済を決意する。
『拡散せよ!』
スキル【拡散する一撃】を起動し、放つ竜の息吹が3つに分かれ、召喚された影をすり抜け核へと向かう。
【生まれ落ちよ!】
しかし、火龍の吐息が届くまでの時間よりも、影を生み出す時間のほうが早く、ナイフを一振りすると、再びずるりと魔法陣から影の怪物がこぼれ落ち、身を挺して炎から母を護る。
──自分が生き残るためとはいえ、子供を差し出す親がいるなんて。
両親をあまり覚えていないが、ウィルの中に僅かに残る優しい両親の記憶が、マンデースレイヤーの核を敵であると認識させる。
生み出された黒い影は産声を上げることもなく炎により焼き払われ影に帰るも、瑣末ごとと言わんばかりに魔法陣よりマンデースレイヤーの核は更に影を呼び出す。
「キリがない!?」
ウィルはそう判断し、左手より『アイスエイジ』を放とうとするが。
【ふふ、ふふふふふふ、大きくなった、強くなった。なってしまった!!】
「!!」
ニヤリと笑みを浮かべた核。
刹那、ウィルの視界からマンデースレイヤーの核は姿を消し。
【これ以上はもう、やらせない……私が、私が守ってあげる!!】
背後から伸びる魔の手が、ウィルの背後に捕まるティズへと迫る。
「しまっー?」
瞬間移動ではなく魔法による自らの召喚。
完全に想定の範囲外であった攻撃にウィルは一瞬反応が遅れるが。
『次元断』
斬撃が核とウィルを引き離すように放たれる。
その一撃は、物理法則も障壁も神秘も何もかもを無視する飛翔する斬撃であり、空間を捻じ曲げながら核へと向かう。
【!!!!】
その脅威に、核はすぐさま攻撃を止めて召喚魔法陣を展開し、並び立つ建物の屋根の上に転移をして逃げる。
「ほう?」
斬撃の回避にしては大袈裟すぎる回避行動に、斬撃を放った英雄王ロバートは驚いた様に声を漏らす。
たかが斬撃であれば、これだけの回避は不要であろう。
しかし、ことロバートの一撃となれば話は変わる。
触れただけでも、掠っただけでも世界最強と言われる魔王の鎧を粉砕する。神秘も魔術も何もかもを無視した圧倒的な破壊の斬撃。
それがロバートの目の届く範囲ならば延々と繰り出されるのだ。
迷宮の壁のように真っ向から防ぐ手段を持たないのであれば、目の届かない場所まで逃げるほかない。
つまり。
ロバートの視界に届かない場所へと瞬時に逃げたマンデースレイヤーの核は、ロバートとの戦い方を心得ている、と言うことになる。
【ロバート……】
建物の影より歯軋りをするマンデースレイヤーの核。
「なるほど、その賢しさまさにティターニアそのものか。一瞬目を疑ったが……もはや今更何が起ころうとも驚かんよ。面倒だとは思うけどな。ティターニア、せめて訳を話したらどうだ?」
【黙れ!! 邪魔をするならお前も殺す!】
「性格や言動は似ても似つかないみたいだが、まぁしかしお前のことだ。そう言いながらどうせ俺の裏をかこうと必死に思考を巡らせてるんだろうが……そうやって戦いの最中に余計なことを考えてばっかりだから、不意打ちを喰らうんだぞ?」
【!!】
刹那、マンデースレイヤーの核の足元から、鮮明な死のイメージが浮かび上がる。
── 一体何が。
そんな思考がまとまるより早く。
「匂いは覚えてる。 どこに隠れていようが、人狼の鼻からは逃げきれんぞ、マンデースレイヤー!」
聞き馴染んだ最大の脅威の牙が、足元より黒い影を捉える。
『双爪迫撃!!』
あたり一体の建物を破壊しながら、巨大な二つの斬撃がマンデースレイヤーの核を飲み込む。
【ッルーーーシーー!!!?】
吹き飛ばされ、黒い影はルーシーの斬撃に全身より黒い霧の様なものを吹き出させる。
しかし、その一撃を受けながらも黒い影は活動を停止することなく、喰らいつく様に召喚陣を展開し、新たな兵士(黒い影)を生み出す。
が。
「どうやら、召喚は無尽蔵に行える様ですが」
「つ、作り出すために要した時間が短いほど、強さに差が出る、みたいですね」
召喚陣から顔を覗かせたマンデースレイヤーの首が、躍り出たサリアとカルラの一撃により宙を舞った。
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