お布施クレイドル!
「取り敢えず、冷静に状況を判断しましょう」
シンプソンの遺体とオベロンの遺体をクレイドル寺院に並べて、サリアは冷静にそう切り出す。
「そ、そうですね。分身体と言うなら、ど、どこかに本体が潜伏していると言うことです。おそらくそこが指揮系統。核を叩けば、こ、この事件は終わるはずです」
「でも、シンプソンとオベロンはどうするの? マンデースレイヤーがオベロンを蘇生できそうな人間を殺して回ってるなら、今頃他の僧侶はみんな……」
恐ろしい大惨事に僕は血の気が引くが、サリアは首を振ってその心配はないでしょうと呟く。
「オベロンもシンプソンも、独自で番外階位レベルの蘇生魔法を有しています。それが発動しないと言うことはおそらく、マンデースレイヤーには蘇生を阻害する能力があると言うこと。クレイドル特性の生命保険が発動していないところを見ると、マスタークラスの僧侶でも恐らくはシンプソンとオベロンを蘇生させることは難しいはずです」
「な、なるほど」
僕はホッと胸を撫で下ろすが、何もまだ解決したわけでは無い。
「ま,マンデースレイヤーはシンプソンさんを殺したと言う目的を達成した後も、私たちを襲いました。え、えと、もし、オベロンさんが絶対に生き返らないのであれば、私たちを襲う必要もないはずです。だ、だって言うのに、わ、私たちを待ち伏せして襲ったと言うことは。私たちが、永遠の日曜日を続けるために当たって障害になると判断したからじゃないでしょうか?」
恐る恐る、と言った様に私見をのべるカルラに、サリアはこくりと頷く。
「ええ。カルラのいう通りここで詰みであるならばマンデースレイヤーは消滅をしているはず。まだ、日曜日を終わらせる可能性が有る存在がいるという事です。その者にオベロンを蘇生させ、オベロンに日曜日を終えさせればあるいは……」
「だけど問題は、その誰かがわからないって事だよね」
うーんと、僕たちは同時に首を傾げる。
そもそも、シンプソンはその性格から忘れられかけているが、
女神クレイドルの加護を一身に受けた正直常識とかルールとかを超越した存在。
そんな人物に比肩する様な術者がこのリルガルムにいれば、すぐにでも思い当たるはずなのだが、誰も心当たりがないと言わんばかりに首を傾げる。
「シンプソンの生命保険が阻害されてるって事は、女神クレイドルほ魔法が阻害されてるってことだよね? そんなの、それこそ、クレイドル様ぐらいしか……」
「ダーーーーーリーーーーーンンンン!!!」
そう僕らが頭を悩ませていると、不意にクレイドル寺院にそんな、恋愛脳に毒された少女の様な甘い声が響く。
「!?」
敵襲かとサリアは朧狼と陽狼に手をかけるも、それが20代前後の女性であるとわかると、慌てて刀から手を離す。
「ど、どなたでしょう?」
「分からないけど、シンプソンの知り合いかな?……あのー」
パタパタとかけてくる少女に僕とカルラは首を傾げ、声をかけようとするが、少女は僕たちなんて目に入らないと言わんばかりにシンプソンの元へと真っ直ぐ駆けていくと。
「うっわ本当に死んじゃってる!!? かわいそうなダーリン!!? 消滅はしてないみたいだけど、呪いで魔法が発動しなくなっちゃってるのね!!? 酷い!? 酷すぎるわこんな仕打ち!! あれ、でもよく考えたら、死んで動けないなら、逃げ出さないからチャンスじゃん!? 今のうちに沢山キスしちゃおー!」
シンプソンの亡骸に抱きつき、泣き出したかと思えばいきなり死体の全身にキスを始める謎の女性。
「「「……」」」
対象がシンプソンであること、奇怪な行動。
その全てに僕たちはポカンと口を開けて見守ることしかできず。
「え、えと、あの。ど、どどどちら様ですか?」
勇気を振り絞ったカルラが、恐る恐る謎の女性にそう尋ねると。
「見てわからない!!? 妻よ!!!」
女性はそんな衝撃的な発言をかます。
「シンプソン結婚してたの!!?」
「当たり前じゃない!! こんなにイケメンで頭のいいダーリンが独身なわけないでしょうに!! 失礼よあんた達! わたしのダーリンに謝って! ほら、ごめんなさい!!!」
「え? あ、えと、ごめんなさい」
勢いに乗せられて思わず謝ってしまう。
何だろう、すごいティズと似たものを感じる。
「分かればいいのよ。それよりも、一体何があったのウィル?」
「え、えと、話せば長くなるんですが……あれ? と言うか何で僕の名前……」
「あぁそっか。この姿で貴方達と会うの初めてだったわね」
「?? それは一体どう言う……」
どう言う意味? と言い終わるよりも早く、女性は両手を広げ背中から白い羽を生やす。
神々しい、それはこの世界に生きる者なら一度は見たことのある神話の1ページに酷似しており。
「わたしはクレイドル! アルティメットでパーフェクトなみんなの女神様!! 尊敬した? 感動した? だったら、お布施クレイドル!!」
そんな、神話が音を立てて崩れる様な親父ギャグを披露したをのであった。




