王様の休日出勤
「ダーリンが死んだ!!!!!」
日曜日が続き、人々が歓喜と歓楽に溺れる王都リルガルム。
その中心に立つリルガルム王城にて、女神クレイドルの叫び声が響き渡る。
「「「なんだ、いつもの事か」」」
一瞬、女神の絶叫に日曜日を満喫していたロバート王達は何事かと視線を向けるが、絶叫の内容に呆れた様にため息を漏らして再びルーシー、レオンハルト、イエティたち四名は再び白熱したトランプ対決に戻ろうとするが。
「ちっがーう!!」
トランプの山札にダイブをし、クレイドルはジタバタと暴れ、勝負をめちゃくちゃにする。
「あぁ!!? 後少しで私の勝ちでしたのに!?」
「あーあー。全くなんだってんだよクレイドル、まーたご自慢の駄々っ子か?」
「ウッホホホ、彼女の癇癪は今に始まった事じゃないでしょうルーシー? へそ曲げられても面倒なので、素直に聞いてあげるのが吉ですよ」
「かまってちゃんはいつになっても変わらんな。仕方ない、話せ。聞いてやる」
構ってくれない腹いせに暴れ回る童女の様な振る舞いだが、もう慣れっこな四人は特に気を悪くする様子もなく、ため息をついてクレイドルの話を聞くことにした。
「だから! ダーリンが死んじゃったのよ!」
「それはわかったっての。だけどシンプソンが死ぬなんていつもの事だろうに。お前だって金が儲かるっていつもならほくそ笑んでるだろ?」
クレイドルとシンプソンの間に結ばれた契約魔法生命保険。
シンプソンが死亡した際に、金貨一枚と引き換えにノーリスクで生き返らせると言う破格の契約であり、人の恨みを買いやすく、なんだかんだシンプソンは死にやすいため、女神のお小遣い稼ぎにも利用されているウインウインの契約である。
しかし、今回ばかりは事情が異なるらしい。
「私の生命保険が発動してないの!!本当にダーリンが死んじゃったのよ!!」
「なんだと?」
その言葉に、ロバートは一瞬眉を顰めてトランプを床に置く。
こんなのでもクレイドルは大神であり、世界のことわりの全てを司る存在だ。
フェアリーゲームの様な異例や、オベロンの様なイレギュラーならば大抵のことは対抗することも可能だが、ことシンプソンに関してのことはえこひいき甚だしいインチキ魔法を使っているクレイドル。
特に生命保険においては、神々が如何なる権能を用いても覆すことのできない程心血を注いでいる魔法であり、そんな魔法が発動しないと言うことは、クレイドルの権能すら上回るとんでもない事態が起こっていると言うことに他ならない。
「アンデッド化したとか?」
「それはないわ。ダーリンにはこっそり対アンデッド駆逐魔法ストロングRIPを常に発動してるから、噛みつこうものならアンデッドの方が一瞬で灰になるもの」
「うっほほ、エコ贔屓もここまで来ると呪いですね」
「そして、そんな呪いを打ち破ってシンプソンのやつを殺した奴がいると。はぁ、また面倒ごとか……レオンハルト」
イエティの言葉にロバートはため息を一つ漏らして、隣で座るレオンハルトの名前を呼ぶと。
「はっ! すぐに騎士団をクレイドル寺院に向かわせ、事実確認と現場検証を。ついでに不審な者がいないか、警備のものを街に向かわせます」
「私も行くわ! ダーリンに何が起こったか知りたいし、遺体の損傷が酷いようだったら修繕しないと!!」
「あぁ、それとイエティはアルフレッドのところへ……あー、ティターニアも呼んできてくれ」
「ウッホホホ、アルフはともかくティターニアはどうですかねぇ? 色々とショックを受けてる様子でしたし」
「使い物になりそうならで構わん。 ルーシーは俺と来い。オベロンのバカがまた何かしでかした可能性があるからな……」
「了解だ」
短く、的確にロバートはそう指示を出すと、エクスカリバーを持って重い腰をゆっくりと持ち上げる。
「業腹だが日曜出勤だ…...せっかくの休日を台無しにしたアホを見つけ出して、さっさと休みの続きをするぞ」
ロバートの言葉に、仲間たちは何も言うことなく頷き立ち上がる。
かつての輝きを取り戻したロバートに対して、誰も意を唱えることなどあり得なかった。
こうして、終わらない日曜日事件に対し、スロウリーオールスターズが介入をすることになったのであった。




