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タクシー襲撃

【労働者殺すべし!!】


「ホワッツ!!? 何だってんダ一体!!?」


黒い陰の強襲は、まさに青天の霹靂に近い前兆のない突然の出来事であり。


馬車に衝突をした黒い影は、鋭い刃物の一閃にて馬車を両断する。


「ホーリィシット!! 俺のタクシーガッ!!」


宙を舞う馬車の天井を見ながら、アヴドゥルは驚愕しながらも、冷静に状況を判断し、馬車を引く馬に鞭を入れる。


「なっなっ!? なになにーー!!? なんなのーー!?」


突然の出来事にシオンは場所の中ですっころびながら叫ぶ。


「あ、アブドゥルさん!! 一体何があったんですか!?!?」


状況がわからず、すっぱりと切れた馬車から身を乗り出してリリムがアヴドゥルに問うが、アブドゥルは首を振る。


「わからねーヨ!? なんか黒いモヤが出たと思ったら、次の瞬間このザッパーだヨ!」


「魔物? いや、でもこんな強力な魔物リルガルムの近くに出るはず


「話は後だお嬢ちゃん!! しっかり捕まってないと舌噛むぜ!! 全速力であのやべーやつを振り切る!」



ざっくりと切れた馬車の天井から身を乗り出し、リリムは馬車の背後にうごめくそれを見る。


黒いモヤの様な、しかし人影にも見える陰の様なモヤ。


空気に残ったその臭いから、これはヤバいものであるとリリムは察する。


「シオンさん!!迎撃!!」


馬に鞭を入れる音が響くのとほぼ同時に、リリムは転がるシオンにそう叫ぶと。


「おっけー!」


シオンもすぐに状況を理解し、杖を構える。


「気をつけロ嬢ちゃん!! あいつハ相当やべエ!」


「ふおー!!? な、なんかやばいやつきてるーー!?」


屋根を切り取るだけでは飽き足らない様に、全速力の馬車を追いかける黒いモヤ。


アブドゥルのタクシーはリルガルム全土でも最速を誇る馬車であり、おおよそ現代の移動手段ではこの馬車を超えるスピードを出せるものはいない。


だと言うのに。


「アブドゥルさん!! 後ろ! 追いつかれてきてます!」


「シット!! この俺がスピードで負けるだト!?」


「迎撃行くよー! 最初から核撃ぶっぱなすから! しっかりつかまってて二人ともーー!」


そう言うとシオンは迫り来るモヤの中心を捉えると、杖を構えて炎武を起動する。


【吹っ飛べ! メルトウエィブ!!】


第十三階位魔法メルトウェイブ。


人が、なんのスキルも遺伝も無しに習得ができる魔法の中で、最高火力を誇る、核撃魔法。


迷宮最下層、アンドリューすらもこの一撃を正面から防ぎ切ることはできず、魔力による対抗策を持たないものにとっては防ぎようもない理不尽な力の暴力。


しかし。


【カーーーーツ!!!】


黒いモヤはそう声を上げると、核の炎は一瞬にして消え去る。


「うそぉ!!?」


それはただの咆哮、魔力もスキルも持たないただの雄叫びが、シオンのメルトウェイブの熱量を上回ったと言うことであり。


そんなあり得ない事実にシオンはらしくもない声をあげて驚く。


「シオンさんのメルトウエィブがあんなに簡単に」


「ちょ!?いつもなら対抗心燃やす所だけど、あいつやばすぎて悔しいって感情すら浮かばないんだけど!?本格的にやばいよあいつー!!?」


「ちくしょうメ! なんだってんだヨあの化け物ハ、俺たちが何したってんダ!!」


「このままじゃ追いつかれます!! アヴドゥルさん! 降りて迎撃するので、アヴドゥルさんだけでも逃げてください!」


リリムはそう良い、馬車から飛び降りようとするが。


「それだけは許さねエぜお嬢さん!! お前、アヴドゥルのタクシーを知らねえナ!! 俺のタクシーは、どんな絶望も乗り越えて、目的地まで客を送り届けるんダ。客だけ捨てて自分だけ逃げ出したらそれはもう、アブドゥルのタクシーとは言わねえんだヨ!! そうなるくらいなら、死んじまった方がマシ、ってやつだゼ!!」


額に汗を滲ませながらアブドゥルはそういうと、果敢に馬の手綱を引きながら、馬の速度を上げていく。


「アブドゥルさん……」


そんなアブドゥルの姿と覚悟にリリムは頷くと、稲妻を連打するシオンの隣に立つ。


「稲妻のピンポイント射撃も全然通用しない多少時間ら稼げるけど、このままじゃリルガルムに着くまで保たないよー!?……本格的にピンチだよー!? リリムっち!」


「シオンさん、フェアリーゲームで披露した変身はできないんですか?」


「で、出来るけど時間がかかるのー!?」


「そう、だったら私が時間を稼ぎますから、シオンさんは変身したら最大火力を叩き込んで!」


「!! わ、わかったよ!」


一体どうやって?


と心の中でシオンは思案したが、リリムの自信がありそうな表情にシオンは方法は問わずに魔法の手を止め、魔人化の術式を起動する。


術式を起動し始めたシオンに、リリムは一つ頷くと。

顔を叩いて気合いを入れる。


(相手はメルトウェイブすら弾く強敵。私の持ち合わせてるエンチャントじゃとても歯が立たない、だったら)


背負っていたリュックを下ろし、リリムはバックに取り付けられたダイアルを回す。


探索 野営 戦闘。


と書かれた三つのダイアルを探索から戦闘へと変えると。


バックは大口を開け、中から銃やナイフと言ったものが溢れる様に姿を現す。


どれもこれもがクリハバタイ商店が誇る一級品の武器であり、心配性なトチノキがリリムに持たせている護身用。


過剰防衛だと呆れていたリリムではあったが、今日ばかりはこの品揃えに感謝をしつつ。


迷わずにバックの底でゴロゴロと転がっている、手のひら代の大きさのものを取り出す。


「クリハバタイ商店特性…...聖なるパイナップル爆弾」


パイナップルの様な見た目から作られたその爆弾は、クリハバタイ商店が全技術を結集させて作った殲滅兵器であり、店主トチノキが本気で迷宮の壁を壊そうと開発した対迷宮兵器の一つである。


結局、迷宮の壁を壊すことこそできなかったものの。


その威力はトチノキとリリムが太鼓判を押すほどの一級品であり。

メルトウェイブに換算するとその威力は……。



「えい!」


【!!!!!!!!!】


ざっと七発分に相当する。


轟音と共に、リルガルムへと続く交易路は、核の炎に包まれた。


◾️


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