帰り道
「し、死んじゃったんですか?」
恐る恐る、リリムはそうシオンに尋ねると、シオンはんーんと首を横に振る。
「私の中に入っただけ。これからたくさん力を貸してくれる、頼れるパートナーになったんだよ。ほら、ジャンヌが呼び出したレヴィアタンと同じ感じ!」
「そ、それはまた。とんでもない力を手に入れたって事ですよね?」
「どうだろー? 悪魔によっては能力はまちまちだしー。この子、そんな戦い向けって感じの力は持ってないような気がするんだよねー? まぁでもお友達だからそんなこと気にしなーい気にしない! 謎かけ面白かったし! 一緒にいて楽しければそれでOKなのだー!」
「ふふ、シオンさんって、本当に友達を作るのが上手ですよね」
「そうかなー? そうだといいなー?」
シオンは照れ臭そうに笑うと、リリムはそれに釣られてそうですよと笑う。
「色々と予想外のことばかりでしたが……取り敢えずこれで、坑道の脅威は去ったと言うことで間違いないですね。ありがとうございますシオンさん」
「これで依頼達成だねー!」
「はい!」
色々不安はありましたけど……と言う言葉は飲み込んで、リリムはシオンとハイタッチをする。
こうして、シオンとリリムの行動探索は終了をしたのであった。
◾️
「「かんぱーい!」」
帰りの馬車、アヴドゥルのタクシーに揺られながらシオンとリリムは蜂蜜酒の入ったジョッキを打ち鳴らす。
「いやー、すぐに終わって良かったよー。一日二日は覚悟してたからねぇー。これでウィルくん達に怪しまれることなく準備が出来るよー」
上機嫌なシオンに、リリムは考える様な素振りを見せる。
「ですが、本当に良いんですかシオンさん? 魔族はいなかったとは言え、本物の悪魔の討伐なんて相当な難易度の依頼です。その報酬が、その、あんなものでいいなんて」
「いいのいいの。私じゃとてもじゃないけど用意できないし、リリムっち以外には頼めないから。それに、今回の依頼はわたしにもメリットがあったから気にしない気にしない! その代わり、すっごくいい物期待してるからね!」
子供の様に足をパタパタとさせながら笑うシオン。
出来上がりを想像して楽しんでいるのだろう、少し恥ずかしそうに、だけどとても幸せそうに笑うシオンを、リリムは少しだけ羨ましく思いながら頬を緩める。
「まぁ、いつかわたしにも必要になる日が来るので、練習とさせていただきますよ」
「あはは、そうなるといいね!」
嫌味も毒気もなく、シオンは心よりそういうと、ジョッキの蜂蜜酒を飲み干して口についた泡を拭う。
そんな彼女の応援にリリムは少し嬉しそうにはにかむと、いつもは行商人でごった返す大通りへと視線を戻す。
「話は変わりますが、神様って本当に凄いですよね。初め聞いた時は眉唾物でしたが、本当に日曜日が何日も続いてます。こんなにがらがらな大通りなんて、見るの初めてですよ」
「保管庫の食べ物は食べても無くならないし、お財布の中身はいくら使っても減らないし! 本当に夢みたいな毎日だよー。こんな時に働いてるのなんて、リリムっちぐらいじゃないの?」
「仕方ないじゃないですか。働くの好きなんですから」
あっけらかんと言い放つリリムに、シオンは苦笑を漏らす。
(こんな状態で、恋愛までしっかりとこなしているのだから凄いけど、この熱意を全部ウィルくんに注いだら、きっとウィルくん2日も保たないんだろうけどなぁ、でも仕事とウィルくん同じぐらい好きなんだろうし……うぅーもどかしい)
「まぁ、それも青春だからね。お姉さんは何も言わないことにするよー」
「なんですか? 急にお姉さんになって?蜂蜜酒、度が強かったですか?」
「んーん、なんでもない。リリムっちとかサリアちゃんとかカルランが本腰入れるまで、私は今のうちにウィル君のお嫁さんポジションを満喫しちゃおうって思っただけだよー」
「くぅっ、これがお嫁さんの余裕ですか。いいですよ、いつか私だってその場所に辿り着いて見せるんですから!」
はははと、笑い合いながらシオンとリリムはお酒を再び酌み交わそうとする。
と。
【仕事の話、月曜日の香り、仕事に呪われた労働者、殺すべし!!】
何処からか現れた怪物の凶刃が、アヴドゥルのタクシーを襲撃した。




