マンデースレイヤーvs サリア&カルラ
「マスター!! しゃがんで!」
サリアの声と同時に、僕は咄嗟に身を屈める。
と、シンプソンの形をした何かの顔に、サリアの朧狼が突き刺さり、弾けるように礼拝堂に撒き散らさされる。
「ご無事ですか?」
「うん。 サリアのおかげで助かったよ。ありがとう」
「わ、わわわわ!!? え、えと、これ、一体どうなってるんですかー!?」
「マンデースレイヤーが、シンプソンに化けて待ち伏せをしていました」
「ま、待伏せに騙し討ちなんて、なんて卑怯な! 許せません!!」
君も良く似たようなことしてるじゃん……と言う言葉が喉元まででかかったが、今はそれどころではないので剣を構えて飛び散ったマンデースレイヤーをみる。
サリアの一撃をまともに受けてなお立ち上がる怪物なんて、正直想像すらしたくなかったが、
飛び散った泥の塊は、僕の願いを嘲笑うかのように元の形へと戻っていってしまう。
「ちっ、やはりこの程度では……ですが、マスター! トドメを指します、下がって!!!!」
サリアはそう叫ぶと、今度は陽狼を引き抜き、飛び散った泥が元へと戻る前に、奥義を叩き込む。
【双爪迫撃!!!】
迷いも、油断もない、必殺を狙う神速の連撃。
その剣閃は、今の僕では……いや、剣聖の名を冠するものでなければ誰一人見切ることも反応すら許されない神域の剣。
だが。
【また邪魔をスルカ!! エルフの小娘!!!】
「なっ!!?」
汚泥は言葉を発し、腕を伸ばすと指でつまむようにサリアの朧狼と陽狼を受け止める。
「なっ!!!!?」
爆発に近しい暴風が礼拝堂の瓦礫を吹き飛ばし、斬撃の余波が汚泥の体を滅茶苦茶に切り刻む。
しかし、その全ては汚泥にとってかすり傷程度にしかなっておらず、それは汚泥の両手の親指と人差し指、たった4本の指で、サリアの剣術の威力のほとんどが殺されてしまったと言う事実をまざまざと物語っている。
【ほぅ、剣を止めても斬撃は通るか。なるほど、これは確かに人間業ではない、我が敗北したのも頷ける】
冷静に体を修復しながら汚泥は悠長に語る。
サリアの剣を、奥義を見た後に見せるこの余裕は。
圧倒的な強者であることを確信している。
そんな様子だ。
「!!!!っ オーバー!!」
瞬時に、サリアはオーバードライブを起動する。
まだ相手が余裕を見せているうちに、全力を叩きつけようと言う判断なのだろうが。
それはつまり、不意打ちをしなければ勝つことはできないとサリアがこの一瞬で判断をしたことに他ならず。
【させんよ】
その意図すらお見通しと言わんばかりに、汚泥は刀から両手を離すと。
魔法の起動よりも早くサリアの腹を蹴り上げる。
「ぁっ!!!!!!?」
サリアの口から、大きく息が吐き出される。
カルラの一撃を受けても、表情一つ歪める事がなかったサリアが……苦悶の表情を浮かべて天井に叩きつけられ。
【これで終わりではない。月曜日への恨みを知れ!!】
落下をする無防備なサリアに、汚泥は追撃を仕掛ける。
だが。
「カルラ!!!」
僕の合図にカルラが爆ぜる。
「火界呪!! 炎界弾!!!」
サリアに放たれる拳を、カルラは全霊の拳を持って打ち砕く。
【ぬぅ!!?】
不意打ちに近い真下からの強襲。
サリアにばかり気を取られていた汚泥は、その一撃を咄嗟に防ぐ。
触れれば全身焼き尽くされるカルラの一撃。
【なかなかやる、だが、軽い!!】
しかし、後からはなった筈の汚泥の拳が、カルラの拳の勢いを完全に押し殺す。
「そんな!!?」
驚愕に僕は声を漏らすと、汚泥は勝利を確信して今度はカルラに拳を振り上げる。
【まずはお前からだ小娘! 月曜日を望むものに明日は無い!!】
放たれる拳は、サリアすら受け止められなかった強大な一撃。
いかにカルラとて、その一撃を受ければ戦闘不能は免れない。
だが。
「まだです!!」
振り下ろされる拳はカルラの体を捉え、衣服を切り裂くが。
空を切る。
【!!!??】
変わり身の術。
幻影魔法により相手に偽物を攻撃させ、その隙に背後を取る忍びの技。
まんまと汚泥はそれに引っかかり。
「手加減しません!!!」
無防備な背後に、カルラは短パンとサラシだけの姿。
つまりは、忍びとして最大の火力を出せる状態で奥義を放つ。
「この一撃は不変にして万化。我が身は風! 我が身は炎! 我が身は影! 形なく揺るぎなし、故に不動也!」
【ぬぅ!!?】
豪ッ、とカルラの背後に鬼の形相をした存在の幻影が映り、カルラの姿がモヤのかかったようにゆらぎ。
次の瞬間、同時に八人のカルラが姿を現す。
【ただの幻影!! 本体は一つだろうよく見ればそんな攻撃簡単に……簡単に……何だと?】
「「「「「「「「残念! 全員本物です!」」」」」」」」
驚愕するように声を上げる汚泥に、八人のカルラは八者八様の笑みを浮かべると、全方向から人体急所を撃ち抜く。
顎 人中 心臓 肺 頸椎 水月 鳩尾 肝臓
その全てに同時に打撃が入り、破裂音を響かせながら汚泥は上空に蹴り上げられ。
「止めです!」
最後に現れた九人目のカルラが、回転をしながら踵落としを脳天に叩き込む。
【九界撃・迦楼羅!】
鈍い音が響き、汚泥はカルラの連撃をまともに受けて礼拝堂に叩きつけられる。
間違いなく、カルラの持ちうる最大の攻撃だった。
しかし。
【まだだあぁ!!】
汚泥はダメージを負った様子はあるものの、霧散することなくカルラへ反撃を繰り出そうと構える。
しかし。
「オーバードライブ!!」
カルラに気を取られ、無防備を晒した汚泥に向かってサリアはオーバードライブを発動し。
【!!?貴様っまだ!?】
再生の間に合わない体に、全力の一撃をぶつける。
「黒龍断頭奥義!!」
【!!!!!!!】
「黒牙滅破斬!!!」
荒々しく抜き放たれる朧の一閃。
それは、断ち切るためではなく切り刻むために放たれた暴力的な一撃。
【ぬああああああああ、この程度で!!!!!】
無数の黒閃が走り、朧狼の斬撃が受け止めようと汚泥は腕を伸ばすが。
「散れ」
伸ばされた汚泥の腕ごと、サリアは両断し霧散させる。
ボロボロと崩れていく汚泥。
体を再生しようと地理になった汚泥は形を形成し直そうとするが、顔の表面だけを再生したところで、力尽きるように動きが止まる。
【ふっふふふふふふ、まぁいい。目的は達した。お前達、勝ったと思うなよ】
敗北を悟ったのか、不敵な笑みを浮かべてマンデースレイヤーはそう最後の言葉を漏らすと。
そのままチリとなって消えていく。
結局、何もできずに僕は見ていることしかできなかった。
全力を出したカルラとサリアが二人がかりでようやく倒せるような相手。
サリアが勝てなかったと言うだけのことはあり、僕はとんでも無い敵がいたものだと、ほっと胸を撫で下ろすと。
「馬鹿な」
チリとなって消えた汚泥をみながら、サリアは驚愕したような声を上げる。
「どうしたの?」
狼狽するサリアに僕は問いかけると、サリアは苦虫を噛み潰したような表情で。
「この汚泥……核がありません」
「核がないって、それじゃあ!?」
「はい。おそらくこれは本体では無い。核から作り出された、分身の一人です」
そんな絶望的な事実に、僕とカルラはしばらく言葉を発することが出来なかった。




