白紙の運命
聖剣より放たれる拡大された斬撃【次元断】
あまたの怪物を屠り、戦場では堅牢なる城砦を両断し、海を割ったとすら噂される一撃。
そんな斬撃を、ロバートは魔眼始祖の目を発動して放つ。
かつて武神不知火が保有したと言われるワールドスキル。
その魔眼はあらゆる魔法、神秘、事象改編の真理を見抜き、無力化をすることができる、正真正銘神殺しの魔眼。
この目を前に障壁は意味をなさず、不死の魔法は発動しない。
つまりは、魔法が蔓延るこの世界において彼の斬撃は、あらゆる防御、あらゆる神秘、あらゆる干渉を無効化しながら放たれる……防御不可能にして蘇生不可能の必殺の一撃。
まごうことなきスロウリーオールスターズが誇る最強の一閃。
だが。
「メイク!!」
そんな一撃必殺の斬撃を、魔王は呼び出した迷宮の壁により容易く防ぎ切る。
「迷宮の壁か……」
絶対に防ぐことのできない斬撃と、絶対に壊すことのできない迷宮の壁。
両者の激突はあっさりと迷宮の壁が勝利をし、隙を晒したロバート王に、ボロボロと崩れ落ちる迷宮の壁の向こう側から魔王は最大の一撃を叩き込む。
「螺旋剣」
ポツリとつぶやかれた先には魔王のみが持つことを許された魔剣、螺旋剣ホイッパー。
ポツリとつぶやかれた先には魔王のみが持つことを許された魔剣、螺旋剣ホイッパーが唸りを上げながら喉元にくらい掴んと牙を剥いている。
「っ、聖剣よ!!」
あの一撃は、間違いなく自分に届く。
そう判断し、ロバートは返す刃で次元断を放つ。
魔力消費は激しく、無茶な連続攻撃により身体は悲鳴を上げるが、それでもこの一撃を本気で相殺をしなければ、自分の敗北が確定するとロバートは確信する。
【ホイッパー!!】
【次元断!!】
螺旋を描く魔王の斬撃と、直線を描く英雄王の斬撃。
純粋な斬撃のぶつかり合いならば、螺旋剣の斬撃は魔力を帯びている分、始祖の目に軍配が上がる。
そのためロバートの一閃は螺旋剣を切り裂き、その先に立つ魔王に致命傷を与える
はずだった……。
「裂けろ」
短い言葉と同時に、放たれた螺旋剣の斬撃が五つに分かれる。
かつての部下、ルーピーが誇った武芸の極地【別れ槍】
なぜそれを魔王が使えるのかは分からないが、間違いなくその技により螺旋剣の斬撃は増殖し。
【テレポーター!】
続けて無詠唱で放たれる転移魔法。
発動と同時に増えた斬撃のうち三つが姿を消し、ロバートの背後、上空、剣を持たない左側の視覚から姿を現す。
「!!? これは、ルーピーとレオの!?」
どこで覚えたのか。
そんな疑問など浮かべる暇などない。
放った次元断は二つの螺旋剣の斬撃に相殺され、残された三つの斬撃は、無防備な自らにせまっている。
エンシェントドラゴンゾンビを一突きで屠る伝説の一撃。
当然、ただの人間でしかないロバートにそれを防ぐだけの障壁も防具もなく。
ただただロバート王は、螺旋剣の生み出した斬撃の嵐に飲み込まれるしかない。
(なるほど)
ロバートは静かに何度も繰り返されてきたこの流れを理解する。
クレイドルは言った。この戦いでメイズイーターは勝利を収めると。
そしてその結末を変えるために、クレイドルは力を貸しにきたと。
はじめはただの戯言だとロバートは思っていた。
しかし、確かに衰えた自分の力ではこの斬撃三つを防ぎ切ることはできなかっただろう。
つまり、こここそが運命の分かれ道。
アンドリューを助けるため、定まった不都合な運命を切り開くため、勝利の女神は自分に力を貸したのだ。
ならばあとはいつも通り。
【神 龍 斬】
小癪な女神の導きを導に、己の剣で運命を切り開くのみ。
「なっ!?」
ロバートは剣を振り下ろした体勢から、無理やりに逆袈裟に剣を振り上げ、体を回転させながら迫る螺旋剣の斬撃を相殺する。
次元断という本来ならばタメを必要とする大技を、一呼吸の内に二度、さらに続けて螺旋剣の斬撃三つを一振りで消し去った。
それは、到底人間業とは思えない無茶苦茶な剣戟。
技巧や力ではなく、ロバートは文字通り無茶をして敗北の運命を塗り替えた。
「なんて無茶苦茶な」
無理に可動させられ、とてつもない負荷をかけられた関節や臓器は損傷し、ロバートは口から一筋の血を流すが……それでも戦闘は十分に続行可能であり。
「悪いなメイズイーター……確かに今まで通りなら、お前の勝ちだったよ……だが、勝利の女神はこちらに微笑んだ」
剣を構えてロバートは姿勢を低くする。
「っ!?」
フォースはその殺気に螺旋剣を構えるが。
「この勝負、勝たせてもらう!!」
放たれた矢のような速力で距離を詰めたロバートは、エクス迎撃するように振り下ろされた螺旋剣に、エクスカリバーの一撃を叩き込む。
聖剣と魔剣。
相対する剣の激突は暴風となって場内に縦横無尽の亀裂を走らせる。
互いが互いに引けを取らぬ名剣。
本来ならば互角故に互いに打ち砕かれる運命であったが。
「っなんて気迫!?」
「当然だ!! 我は、いや、俺は絶対にアンドリューを取り戻す!! 負けるわけには、いかない!!!」
鍔迫り合いの中、ロバートの瞳に生気が宿り、白く染まった白髪は黒く、みるみる肉体すら全盛を取り戻していく。
ミシリ、と螺旋剣にヒビが入る。
「螺旋剣が……!?」
年老いた狂王はすでにそこにはおらず、クレイドルの加護により全盛を取り戻した英雄王がついに魔王の前に立ちはだかる。
「俺は、スロウリーオールスターズリーダー!!! 英雄王ロバートだ!!!」
一喝と同時に聖剣は歓喜するように光り輝き、その鋭さを釣り上げる。
まるで持ち主の想いに応えるように、聖剣も限界を超えて自らに食らいつく魔剣を砕く。
結果。
技量の差、経験の差、そして、勝利への渇望。
その全てが上回るロバートの一閃が、螺旋剣の刀身を砕く。
「これが、英雄王!!?」
魔王は砕かれた螺旋剣を捨て、新たに剣を引き抜こうとするが。
「遅い!!!!」
その刹那の好機をロバートは逃すはずもなく、全身の筋肉を断裂させながら、無茶苦茶な一閃を魔王へと叩き込む。
「な!?」
【鬼 神 斬】
ロバートの持つ剣戟の中で最も威力の高い技。
防御不可能、一撃必殺を歌う鬼神の刃は魔王の鎧を両断する。
これにより、長い長い時間のループに囚われていた魔王の鎧はようやく役目を終える。
未来が、白紙に戻った瞬間であった。




