マキナvs百獣王
咆哮が響き、同時に迷宮に災厄が降り立つ。
「え、やばいぞあれ。 マキナ今からあのデカブツと魔物相手にするの? ていうか兵士が居なくなったから魔王軍詰んでね? やばくね?」
マキナレプリカはそう冷や汗を垂らしながらも、目前のレオンハルトに向かいそうつぶやく。
無数に生み出される銃弾。
たしかに昔、人は銃によって獣を屠り世界の頂点に上り詰めた。
だが、目の前に迫る怪物が、人の作り上げた道具など意味もなさないほどの恐怖であることは火を見るより明らかである。
いかに無数の銃を揃えようと、ハリケーンを討ち亡ぼすことができないように。
目前に迫る災害は、魔王城を飲み込みゲームを終了させるにたる力を持っていた。
「ま、まぁ私デウスエクスマキナだし‼︎ ローハンに最後まで頑張るっていっちゃったから最後まで頑張るけど……」
そう呟きながらマキナは魔獣に向ける銃口を最低限度に減らし、残った全能力を全て目前に迫る百獣王へと向ける。
それは、一言で表すならば銃の壁。
歴史に残る銃が全て百獣王の前に並び、行く手を阻むように立ちふさがる。
【……これは、マキナ様。あなたでしたか】
その息を飲むような光景を前にしても、百獣王は冷静にそうつぶやく。
その声は騎士団長レオンハルトのものであり、マキナは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「ちょっと、マキナレプリカでも神様なんですけど、少し見下ろしすぎだぞ。というかレオンハルト、なんだその姿……魔狼王フェンリルの魂なんかと融合しちゃったら元に戻れないじゃないか‼︎」
【確かに、通常であればこの姿になったのちに元に戻ることは不可能でしょう。ですがこれはゲーム、終わったのちに全ては元に戻るという確約のあるお遊びです。ですからこの奥の手をつかったとて問題はありません】
「生意気な猫め、いや犬? どっちでも良いけど。 百獣王‼︎ あんたのせいでマキナたち大ピンチなんですけど‼︎ ゲームのルール上勝ち目なくなったんだけど」
【えぇ、これからどのような結果になろうと、兵士を失ったあなた方に勝機はありません。
我らの兵士もかなり減らされましたが、しかしクリスタルを破壊するのに力も魔力も必要はない。 ここであなたを倒せば我々の勝利です。武力で敵を叩きのめすのは騎士の矜持に反する。マキナ様怪我をする前にリタイアをしてください】
「むっかーー‼︎? ちょっとその上から目線腹が立ったぞ、みんな時々マキナが神様だって忘れてるだろ。 適当に頑張ってリタイアするつもりだったけれど徹底抗戦だ‼︎『撃方始め――ッ‼︎』」
怒りと轟音と共に放たれる無数の銃弾。
アンチマテリアルライフル・ライトマシンガン・マグナムetc
45口径から20mmタングステン弾……歴史に残るありとあらゆる鉛玉が轟音と共に掃射され、獣へと走る。
だが。
【―――――ッッ‼︎‼︎‼︎】
咆哮により、銃弾の雨は塵と化す。
「クーー‼︎? 弱体化してたとはいえ、アルフを追い詰めたアンチマテリアルライフルも塵にしちゃうとか、正直スロウリーオールスターズどうやってあれ倒したのかほとほと疑問なのよね‼︎? しかも魔狼王の魂だけでもやばいのに、レオンハルトも融合してるしで神でも匙投げたい……いやでも徹底抗戦だし‼︎ 負けないし‼︎ とやー‼︎」
しかし、それにひるむことなくマキナは空間を広げ、中から巨大な筒状の鉄の塊をのぞかせる。
「覗くは10式戦車120mm滑腔砲20機‼︎ おまけにおまけに深海からサルベージした45口径46cm三連装砲四基‼︎ 戦車と戦艦のダブルアタックとかミッドウエー海戦でもお目にかかれないオーバーキルだけど、相手が災厄なら関係ないのよね‼︎ てーーッ‼︎‼︎」
耳を劈くほどの轟音と共に放たれる戦車と戦艦の主砲。
100㎜の鉄板を容易に貫通し破壊するその一撃は、並みの城なら一撃で粉砕するほどの大破壊。
獣など恐るるに足らず……そう言わんばかりに砲弾は全て百獣王の体へと着弾する。
だが。
【……流石に、応えますね】
その獣は威風堂々とその場に在り続ける。
「嘘つけー‼︎ どこの世界に戦艦の主砲を受けてピンピンしてるライオンいるの‼︎? そのちょっとした気遣いが私を傷つけたわ‼︎」
癇癪を起こすように地団駄をふむマキナ。
【いえいえ、効いたのは確かです。その砲撃を延々と続けられれば流石の私も敵いません】
「戦艦の主砲がそんなにポンポン撃てるわけないだろ〜‼︎ 再装填にどれだけ時間かかると思ってるの‼︎」
【そうですか……それでは心苦しいですが。 これで終いにさせていただきます】
その巨体が動き、同時に巨大な前足が目の前の銃の壁を一振りで吹き飛ばす。
「うぎゃーー‼︎ これすっごいアンティークなんだけど‼︎? っていうかせっかく復活させたヤマトの主砲があぁ‼︎?」
バラバラと落下をする銃と共に、マキナも一緒に叫びながら落ちていく。
【安心してくださいマキナ様。 この戦いが終わったら全て元にもどりますので】
「あ、そっか。 それならマキナ安心……」
【ええ、ですからここで終りです‼︎】
ローハンを殺害したように、マキナを咀嚼しようとそれは大口を開けて落下するマキナへと迫る。
勝負は決した。
マキナにはこの獣を止める武力も魔力も持ち得ない。
だが。
「くっそー……悔しいけど限界なのよね‼︎ 奥の手の、今週のビックリドッキリカモーン‼︎」
マキナはあらかじめウイルに命令されていた通りに召喚の魔法を使用する。
【ぬうぉ‼︎?】
同時に、迫り来る百獣王は【何か】にその体を吹き飛ばされ、大地に横倒しになる。
「というわけでマキナはお役御免なのよね、バイバイ」
揺れる大地に、到着をした切り札にマキナは満足したように鼻を鳴らすとリタイアを宣言し、迷宮から脱出をする。
【い、一体何が……】
残された百獣王は、何が起こったのか分からずその身を起き上がらせて、自らを吹き飛ばした存在を確認し、息を飲む。
そこに立っていたのは。
「ふはーーーっはっはっははははは‼︎ 待ってたわ、待ってたわよ‼︎ なんだかすごい長い期間待たされた気分だったけど、満を辞して威風堂々と登場よ‼︎ 私さえ来ればこの戦い勝ったも同前よ‼︎ 世界中の人間がこのビーストテイマーティズ様の前に恐れおののきひれ伏す時がようやくきたのよ‼︎ そう思うでしょ? ポチ太郎‼︎」
「―――――ッ‼︎♪」
【バカな……あれは……獣王、だと‼︎?】
迷宮二階層に潜む全ての獣を統べる王、獣王ポチ太郎と。
その鼻先で腕組みをしながら高らかに笑う、ティズであった。




