勝利もつかの間
「あ、あはは。勝っちゃったよ」
「今回ばかりはもう本当にダメかと思ったけれど、勝ちよ勝ち‼︎ 私たちの大勝利‼︎ 今夜はドンカツね‼︎」
「……とうとう我々は神をも凌駕するようになったとは、なんとも感慨深い」
三者三様、思い思いの歓喜の声をあげ、リューキはそう高々と空にVサインを作る。
大将であるオベロンの撃破は、陣営撃破の条件ではないため、これでオベロン軍が敗退したというわけではないが、それでもオベロンの力により束ねられていた魔物の軍勢はこれにより文字通りただの烏合の衆となったのは間違いはない。
戦力は大幅にダウンし、同時に伝説の騎士の陣営はロバートのみ。
リューキに課せられた役割は見事に終了をした。
「さてとリューキ、これで任務はほぼほぼ完遂って言ったところね。オベロンがいない今、このお城にまともな護衛なんて用意されちゃいないでしょうし。 あとはクレイオートマタを送り込んで任務完了としましょう? 任務が終わったら帰ってもいいって言われてるわけだし、一足先に戻って飲んだくれましょうよ‼︎ 今日のお酒はきっと格別よ?」
「違いねぇ。 あんまり長く残ってたって、伝説の騎士やサリアみたいな万国化け物ビックリショーに巻き込まれて骨の髄までしゃぶられるだけだし。 ボコボコにされて活躍帳消しにされる前にさっさと退散しようぜ」
「賛成だ……」
エリシアの提案に残った二人は同意をし、リューキはオベロンに否定されたクレイオートマタを復活させようと手を伸ばす。
フリーダムの力が、オベロンの書き換えた事象を否定することができるならば。
オベロンにより破壊されたクレイオートマタもまた復活ができるはずだからだ。
だが。
「……あれ?」
ボロボロに崩れ去ったクレイオートマタに手を伸ばしたリューキは不思議そうな声をあげて首をかしげる。
「どうしたんだリューキ? 早くオートマタを直せ」
「そうよ、なにぽけーっとした顔してるのよ」
「いや、直そうとスキルを発動してるんだけどさ」
リューキは困ったような表情のまま、何度もスキルを発動するが。
「……返事がない、ただのつちくれのようだ」
クレイオートマタはピクリとも動くことはなく朽ち果てたままである。
ただ、チリになった状態から土塊の人形の姿へと姿が戻っていることから、間違いなくリューキのゴッズスキルによってオベロンの改変が無効化されているのは確かなのだが……。
「……どういうことだ?」
「一回オベロンに土塊にされて、中身が抜けちゃったとか?」
「あのアンデッドのおっさんが、そこのところ気がつかないとは思えないけれども」
「となると……アンデッド、もしくはあのお嬢ちゃんのどっちかに何かあったとか?」
ポツリと呟いたフットのセリフ。
嫌な予感に二人が顔を見合わせると同時に。
【―――――― ッ‼︎‼︎】
耳を劈くような獣の咆哮のようなものが響く。
「なっ……ななな、何だありゃあ‼︎?」
「ら、ライオン‼︎? 巨大なライオンなのあれ‼︎? ってか嘘、あそこわたし達の陣地の方角なんだけど‼︎?」
「あのライオン……まさか」
慌てふためくエリシアとリューキと異なり、フットだけは何か訳知り顔でそんなことを呟く。
「知ってるの? フット‼︎」
「古い文献で読んだだけだが、まさか実在していたとはな」
「な、何なんだよあのライオンは‼︎?」
「王都リルガルムの守護獣にして、かつてスロウリーオールスターズに討ち滅ぼされた災厄……その名も百獣王。 この世界最強と謳われる魔物の一体だ」
そう語るフット。
その叫び声と同時に、あたり一面に稲妻が落ちる。
それは紛れもなく、伝説の騎士陣営の絶体絶命を示唆するかのような轟音を響かせたのであった。




