絶対生物アルフレッド
進化とは、どこまでも果てしないもの。
成長とは、己の限界を超えること。
では、無限の成長とはどういうことか? その答えが彼、無限頑強のアルフレッドである。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
怒声が響く。
成長への歓喜か、それとも自らを鼓舞する咆哮か。
幾星霜の年月を経て行われる生物の進化。
もし仮に、進化を音で表現をするとしたのならば……きっとこのような産声に近き絶叫になるのだろう。
この世界を作り、黄金の時代を生きて早二千年。
私は……その時初めて進化を体験した。
歴史の表舞台に記されることのなかったワールドスキル【ジャイアントグロウス】
その真価をこの時私たちは目の当たりにしたのだ。
「はぁ……これはまずいですねぇ……とうとう人間の形を捨てて、カルラ様を最も妥当しやすい形へと成長をしましたか」
アルフレッドという皮を破り、脱皮をするかのように表れたその存在は、ドワーフという種族の壁を越えた異形の化け物。その手には巨大な爪をもち、背中には翼が生えている。
関節は自由に外すことができるのか、グネグネと触手のようにうねりながら、カルラの前にて威嚇をするように全身の体からレイピアのような鋭さを持つ角のようなとげを生やす。
私の知識としては構造は爬虫類に近しいが、体から湯気が出ているところを見ると恒温動物であり、ぎりぎりまだ哺乳類の枠組みに収まっているといったところだろう。
まさに怪物という名称がふさわしいアルフレッドであるが。
「GSAAAAAAAAAAA!」
「あらら、なんだか敵を倒すことだけに注力しすぎて言葉を忘れてしまったようですねぇ。追い詰められたネズミは猫をも喰らうと言いますが。人間ああはなりたくないものですねぇ。銅貨一枚分の得にもならないというのに……というかあれもとに戻るんですかね? ローハンさん」
「さぁ」
「大丈夫大丈夫。 アルフあれになるの二回目のはずだから」
私の懸念に対し、マキナは一人落ち着き払いながらそう呟く。
「二回目とは穏やかではないですねえ。しかし先の戦争ではあんな化け物が現れたなんて記録なかったはずですし記憶にもないですが」
「まぁ、マキナも見たのは初めてなのよね。だけど確かにルーシーとやりあったときは、アルフは間違いなくあの姿になったって話よ? 問答無用でぶった切られたって話だけど」
「……ルーシー、あんな化け物もぶった切ってたんですねぇ……さすがというべきでしょうか」
「まぁ、ルーシーはロリコンだったけど最強なのは間違いなかったからね。作戦は成功しないし、呪われているかのように運は悪かったけど。メイズマスターはメイズイーターにしか倒せないなんてルールがなければ、あのワンちゃん一匹ですべてが冗談抜きで片付いちゃうんだから、アルフの敗北はノーカウントにしてもいいと思うのよね。正直今のアルフにはロバートもオベロンもきっと勝てないもん」
「ふむふむ……ところで皆さんやけに落ち着いていますが、そうなるとあの化け物相当やばいってことになりませんかねぇ? 何か策があるのですか? ローハンさん」
この世界でただ一人、最強と呼ばれた男のみが倒すことができた怪物。
口ではそういっておきながらローハンもマキナも特に何か行動を起こす様子もなく、鎮座している。
マキナは捕まえた虫を眺めながら、ローハンに至ってはクレイオートマタに入れさせたお茶をすすってる始末。
差し出されたものは無料なので私もいただいてはいるが……しかしながら彼らには余裕すら見て取れる。
何か策があるのか? などと愚門であるのだろうが、私はあえてローハンに問うが。
「え? 何言ってるんですか、マキナさんが突破された時点でカルラ様が敗北したらすべてが終わりです。 ハリケーン相手に策を弄しても意味がないように、ただ私は天に運を任せて祈るだけですよ。まぁ、合わせる顔無いんで負けたらそのまま成仏するつもりなので……あははっははは、あーっはははははははは!! 何のために800年以上地下にこもってたのかなあぁ!」
現実逃避しているだけだった。そして少し壊れかけていた。
「神の加護がありますように……」
そんな二人に、私はそんな言葉をかけることしかできず。
ローハンの狂ったような高笑いを聞きながら、カルラとアルフレッドの戦いに視線を戻す。
宙に舞うアルフレッドは、自分の体の感覚を確かめるように腕を動かし。
カルラは相手の出方をうかがう様に拳を構えて静観をしている。
あの化け物を前に、汗一つかかずに対峙する。
一体どれほどの死地をくぐればそんなことができるのか……私には想像すらできない。
「……いいぎぎぎ……いぐ……イグ……ゾ」
一応言語野は残っているようで、雑音のような音に混ざって言語が響き、背中に翼を生やしたアルフレッドはそのまま急降下をしてくる。 一応鳥なのだろうか? 進化ということはいずれあのような怪物がこの世界を飛び回る可能性もあるということなのだろうが、鳥類図鑑にあのような存在が追加される日が来れば、間違いなく鳥類図鑑の売り上げが落ちることだろう。
うっかり図鑑でこのような名状しがたきものを掲載すれば、それを運悪く目の当たりにした子供たちの安眠を二週間は妨げることになるのは間違いない。というよりもしばらく私も眠れそうにない……一緒に夜トイレに行ってくれる人を探さなければ。
「GAAAAAAAAAAAAAAAA!」
膂力は変わらず……鋭さと、破壊力のみが倍増した突進。
関節が取り外せるため腕をとることも、投げ技を放つこともできない。
かといって殴り飛ばそうにもその体はとげでおおわれており、言うまでもないが……おおよそ、素手で打倒するような存在ではない。
「懐かしいですね……とげがあれば安心。そう思っていた時期が、私にもありました!!」
だからこそ、そのとげの塊のような化け物を真正面から殴り飛ばしたカルラはきっとバカなのだろうと私は思った。




