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黒の武術の頂点VS緑の暴力の頂点


「あ、マキナちゃんがいるということは、こ、ここは拠点前ってことですね?」


「そうだけどお姉ちゃん後ろ後ろ!!?」


 おそらくテレポーターか何かで飛ばされてきたのか、カルラは全く状況が読み込めていないようであり、マキナは慌ててカルラに状況を伝えようとするがもはや遅い。

 暴風のような拳が、怪物が、カルラもろとも破壊をしようと振り下ろされ。


「え?」


 投げ飛ばされる。


 それこそ、すぽーんとかいう効果音すら響きそうなほど軽快に、アルフレッドは天高く投げ飛ばされたのだ。


「うえええええええええぇ!?」


 ありえない光景に私も、マキナも声を上げ、ローハンでさえ下あごが外れ草原に転がる。

 

「あれ? す、すごいパンチでしたので、すごい上まで飛んでっちゃいました……もしかしてあれアルフさんですか?

 しかし、それだけのことをしたというのにとうのカルラは今ようやく自分が何を投げ飛ばしたのかを理解したといった様子だ。


「いや、アルフで正解だけどカルラお姉ちゃんなにしたの? アルフがスポーンて」


「へ? あれはその、ちょっと相手の力を上に向けるように変換させてくいっと」


「あーごめん、何言ってるかわからないけどとりあえずジュードー的な何かだってことはわかった」


 マキナは早々に理解をあきらめたようだ。


「ちっ! 神様の次は忍の嬢ちゃんか! やり辛えったらありゃしねえぜ!」


 上空に飛ばされたアルフは、中空で体勢を立て直しカルラたちに向かう。

 その腕にはさらに魔力が込められており、速度を上げながらカルラへと真正面へと拳を放つ。

 しかし。


「ええと、お、応用なんですけれども、こうやって一回からぶらせてから引っ張ると、くるっと体が反対向きになるので、あとは受け身も取れないので後頭部からグイっと」


 腕をかわし、引っ張るカルラ。

 発言の通りあのアルフは簡単に後頭部をさらけ出し、そのまま後頭部を叩きつけられる。


 おしとやかな顔をしてやっていることがほとほとえげつない。

 さすが忍者。


「わぁ……忍者ってみんなこうなのお姉ちゃん?」


「え? あぁはい……に、忍者なら近接戦闘は基本ですので……え、えと。何か変でした?」


「いやまぁ、ほとほとお姉ちゃんたちって人間離れ通り越して化け物すらも超越してるなって思って」


「そそそ、そんな!?」



「やるじゃあねえか……嬢ちゃん。 だけど効かねえなあ」


 めり込んだ地面より這い上がるアルフ。

 打ち抜かれた肩も、痛々しく抉り取られていた額もそこには存在しない。

 レベルアップにより体の傷は修正され、呪いにより下げられたステータスも、今では気にならないと言わんばかりに従来の化け物じみた力を取り戻している。

 それでもなお、いまだに成長を続けているというのが驚きであるが。

 確かにアルフレッドからは恐ろしいまでの魔力があふれ出しており、私は思わず息をのんでしまう。


「化け物と化け物の戦いですねぇ。手を貸さなくていいんですか?」


「まぁそうですね……マキナ様だけであれば正直切り札切った方が早いんですけど。幸か不幸か、カルラ様が降ってきていただいたので」


「いや、カルラさんも確かに化け物ですけど、相手は無限に成長を続ける化け物ですよ?」


「ええ、ですが勝負は五分といったところだと思いますよ?」


「五分?」


 ローハンの言葉に首をかしげると。


「悪いが嬢ちゃん! 死んでもらうぜ!」


 にらみ合っていた二人の戦いが再び動き出す。

 怒号を上げて拳を放つアルフ。


 投げ技を警戒してか、身を縮めコンパクトに放たれたストレートは、投げる余地を与えない。


 通常体を縮めるようなポージングであれば拳に体重が乗らず、ダメージが出ないのであるが。

 しかしそれもレベルが計測不能値まで上がっているアルフが放つのであれば話は別だ。


 しかし。


「……っ……」


 カルラさんはその拳を正面から受け止める。


「確かに……アルフのレベルは絶対的。ですが、それでも彼は一度剣聖に敗北をしている」


「……そ、それはそうですが」


「彼に足りないもの、それは……スキルです」



【影打】


 捕まえた腕を引き、無防備となった胸に放たれる掌てい。


 鈍い音と共にアルフは吹き飛ばされる。


 中空に舞い散る血液が……その攻撃が有効打であったことを告げていた。


「は、はやくウイル君の所に戻らなきゃいけないんです! も、申し訳ございませんが、全力でつぶさせていただきますよ!」


 そういうと、カルラは少し破れた黒衣の服を手でつかむと破り去る。

 さらしがまかれた胸に、生傷だらけの全身。


 傷一つないアルフの体とはまるで対照的なその姿は。

 

 技が、力が、武の全てがその体に刻み付けられていることを物語っている。


 その傷だらけの体はただただ美しかった。


「いつも思うんですけど、どうして忍って脱げば脱ぐほど強くなるんですか?」


「さぁ? ミユキおねえちゃ……昔聞いた話では、太古の昔からそう決まっているらしいですよ? なんでも鉄の時代中期にもパンツをかぶった裸の英雄がいたとかいないとか。きっとそれも忍者ですね」


「変態ですね」


「ええ、変態だそうです」


「はぁ……」


 微妙な空気が私とローハンの間に流れる。

 そこはかとなく「そりゃ滅ぶわ」というローハンの心の声が聞こえてくるような気がして、私はいたたまれなくなったが、そっと気が付かないふりをした。


「へっ! 燃えてくるじゃねえか!! 嬢ちゃん!」


 口からこぼれる血を腕で拭いながら、アルフは楽し気に笑う。

 それは初めて全力でぶつかり合える相手を見つけた……怪物の孤独が癒された瞬間。


「独りぼっちは寂しいですからね……お相手しましょう!」

 その気持ちを理解できるとカルラは語り……同時にアルフのもとへと一足で踏み込む。


「手加減抜きだ!! 全力でぶっ飛ばす!」


「こちらこそ!! その首いただきます!」


 怒号と共に撃ち込まれる互いの拳……。


 ストリートファイトと呼ぶにはあまりにも猛々しい、一円の得にもならないが無駄に暑苦しい武と才の戦いがここに始まった。


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