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アンチマテリアルライフルと幼女


「なっ……なんだこりゃあ!?」

 

 アルフレッドの体に入り込む呪い。

 レベルアップをすると体力や傷、毒や麻痺が完治するので、無限にレベルアップを続けるアルフには本来毒は効かない。

 しかし呪いはその身をむしばむ物ではなく人の身に付きまとうもの。恨みが晴らされない間は何をしようが離れるものではないため、コストやリスクは高いが強大な敵と長時間をかけて戦う場合には必ずと言っていいほど利用される。


「墓荒らしの呪い……脳筋アルフは自分の身体能力にかこつけて状態異常の対策は何もしてないからな、効果てきめんってやつだ……そしてここにあるのが」


 少女の傍らから、とてもではないが見た目十歳程度の少女には似つかわしくない重低音と金属音が響き渡る。 その手に握られているのは過去に見たことのある対物アンチマテリアルライフルなるもの。


「皆様ご存知ロシア製対物ライフルOSC-96.口径12,7、全長1746mm、重量12,9㎏にして有効射程2,000m。正直、この世の中で幼女と最も不釣り合いな銃だと思うけどマキナは特別なのよね! モニター前のマキナ同じぐらいの幼女や、運動不足気味のオタクヌスたちは間違っても引き金引いちゃだめだぞ、肩吹き飛ぶからね! 幼女が対物ライフルってロマンがあるけど、ロマンには危険がつきものだから! だから私で我慢して!」


「何を一人でぶつぶつ言ってるんですかねぇ、マキナさん」


「多分、観客の人たちに向けてメッセージを送ってるんだと思いますよ?」


「音は拾ってないはずじゃ?」


「まぁ、楽しそうだからよいではないですか……変に機嫌を損ねたら、銃口がこちらに向きかねませんよ? 神というものにとっては、この戦争でさえも遊びでしかないのですから」


「物騒ですねぇ……というか対物ライフルってそもそも大人でも担いで撃つものじゃないですけどね」


「そうなんですねぇ、鉄の時代のことはさっぱりです」


 やれやれとため息を私はついて、マキナの雄姿を見守る。 

 瞳を輝かせながらスコープをのぞき込むマキナの姿を見ると、どこか楽しそうで。

 迷宮に閉じこもっているよりかは断然もいいだろうと私は一人思案をした。


 同時に。


「そのお世辞にも綺麗とは言えない顔吹っ飛ばしてやるぜぃ!」


 デウスエクスマキナは引き金を引く。


 発砲音はまるで雷が落ちたかと見間違うほどの轟音であり、火薬の香りを私は胸いっぱいに吸い込んだ。


 まっすぐに走る弾丸は高速。 一応気を使っているのか……クレイオートマタに致命傷を与えることなく、適度に腕や首をこそぎ落しながら目標へとまっすぐ走り。


「!?」


 アルフレッドのこめかみを打ち抜き抉り取る。


「外したか―……アルフ野生だからな―。勘がいい獣は苦手だな」

 

 落ちる薬莢。

 それを見送り、マキナは第二射撃へと姿勢を移す。


 呪いにより動きが緩慢になり、攻撃は通用するようになった。

 アンチマテリアルライフルの破壊力をもってしても、頭蓋を砕くことは出来ないが、それでもかすっただけでも遠方から視認できるほどの出血。

 剣も槍も通さない神話の怪物相手に、銃という鉄の時代の遺物が有効となったのを確認するにはそれだけで十分であった。


「人形邪魔! ローハンどかして!」


「仰せの通りに、女神様」


 ローハンの手の一振りにより、オートマタはただの土くれへと姿を変える。

 戦場には二人。  


 狩人と獣のみ。

 

 戸惑うように血をぬぐう獣に対し。


「ゆうちょうだな! アルフレッド!」


 マキナは容赦も加減もなくその第二弾をアルフへと放つ。


 再度響く轟音に、反動によりマキナの足が大地を踏みしめるように食い込む。


 放たれた魔弾は起動を逸らすことなくまっすぐとアルフレッドへと走り。


「どおおおりゃあ!」

 

 アルフレッドはその弾を拳で殴りつける。

 

 通常であれば体の方が吹き飛ばされるだろう。

 しかしながら、呪いを受けてもなお、ジャイアントグロウスにより常人の数倍の身体能力が維持されているのか、放たれた弾は拳によりはじかれる。

 

「化け物かあいつ……あ、化け物か」


 マキナはその様子にあきれたような声を漏らしながら。


「じゃあ今度はこれはどうだ?」


 銃弾を同時に二発放つ。


 同時……という言い方は銃という構造を知るものであれば正確ではないが。

 ことめちゃくちゃはちゃめちゃ全てを許された神であればその常識は通用しない。


 早打ちという言葉がある様に、同時にしか思えない速度で銃弾を放とうが、弾丸が発射される口が一つしかないのだから、同時というのは不可能なことだ。

  

 だが、デウスエクスマキナはその同時を成し遂げる。


 神のスキルを使用した時空の屈折。

 

 時間をゆがませ、一度目に放った銃弾と、二度目に放った銃弾を同時に放つ業である。

 時間への干渉は許されたものにしかできず、デウスエクスマキナはその許された存在。

 

 マキナ曰く、少し時間をつねって同じところで放つだけ……らしいが常人にはその感覚を理解することは不可能だろう。


 轟音は重なり膨らむように青空の下に響き渡る。

 長く日の光と青空の下にいたせいか、ここが迷宮の中だということを忘れてしまいそうになるが、あたりに響く反響音がその幻想から目覚めさせてくれる。


 大地に沈み込み、体重が足りずに背後へとスライドしていくマキナ。


 されどその姿勢は変わらずに、マキナは楽しそうに最後の弾丸を放つためにスコープから目を離さない。

 

 ガンパウダーの香り、銃身から陽炎をまといながら排出される薬莢 。


 それにしても……気持ちよさそうだ。


「とった!」


 興奮気味に叫ぶマキナ。


 見れば放たれた弾丸は片方はアルフレッドの腕に阻まれるも、もう一つは間違いなくアルフレッドの左肩を抉り取っている。


 裸の忍と同じレベルの耐久力を誇るシャーマン戦車すら打ち抜く弾丸を前には、墓荒らしの呪いを受けたアルフは形無しのようで、片膝をつき動きを止める。



「とどめぇ!」


 最後に放たれる対物ライフルの一撃は、目標に向かいまっすぐに走る。


 このままいけば容易にアルフレッドを粉微塵にし、スロウリーオールスターズが一人を陥落させるだろう。

 だが。


「あっやばっ!」


 銃弾が放たれると同時に、マキナはそう呟く。


 視線をアルフレッドへと向けるとそこには一本の斧がマキナへと向かいまっすぐに飛んでくるのが見えた。

 

 それはアルフレッドがもっている武器兼拘束具である、レベルを無限に吸い取り続ける魔斧。

 苦し紛れかもしれないが、アルフはそれを最後に放たれた弾丸にあわせてマキナへと放ったのだ。


 銃弾と投擲、どちらが早いかなどという質問は無意味であろうが。

 しかしながらあえて言わせてもらえば、今回ばかりは投擲に軍配が上がった。


「嘘でしょう!?」


 声を上げたのはローハン。

 つまりは完全にこの一撃は予想外だったようであり。

 マキナは対物ライフルを捨て回避をする。


 両断される対物ライフル。


 真っ二つになった銃身はそのままに、斧は遥か後方へ飛んでいき、迷宮の壁で作られた魔王の城へと衝突し……突き刺さる。


「……迷宮の壁に、傷……つけましたねえ」


 圧倒的破壊。

 呪いにより力を制御されてなおこの膂力。


「ちっ……一斉掃射!」


 回避をしたマキナの命令により、呼び出されたのは無数の銃器。

 ストッピングパワーを重視したマシンガンを中心に、銃弾の雨を一斉にアルフレッドへと放つ。

 だが……。


「だめですマキナさん! タイムリミットです!」


 呪いの効果で一時的に力は衰えた。

 しかし衰えたところでアルフレッドは成長をしてしまう。


 衰えた力を補って余りあるほどの成長。ローハンの策では、対物ライフル五発分を打ち切るまでが、アルフレッドを打倒できる時間の限界であると判断をしていた。


 ゆえにそれが過ぎれば、銃弾など彼にとっては小雨に等しく。


「ふん!


 神の力をその身に宿す怪物に、軍師でさえも息をのむ。

 銃弾をものともせず、腕の傷はめきめきと元に戻っていく。


 勝てるわけがない。


 そんな言葉が脳裏をよぎる。

 されど。


「面白いねぇ!」

 

  マキナはアサルトライフルを手に、敵へと特攻を仕掛けた。


「ちょっ!? マキナさん貴方!」


 我を忘れて、というよりかは子供の無邪気さ……このゲーム、マキナが殺されてしまえばウイルたちの勝機が失われるという事実を失念しているというよりかはそもそもそんな作戦は念頭にないといった様子。


 ローハンは止めようと魔法を放とうとするが、それよりも早くアルフレッドはマキナへと突進を仕掛ける。


 速度も、膂力も何もかもが暴風のようで、大地をめくれ上げながらアルフは拳を振るう。


 勝敗は火を見るよりも明らか。

 拳が触れた瞬間に、マキナは形すら残らずに崩壊をする。


「だめです! 間に合わない!」

 

 声を上げる私。 ローハンは何か呪文のようなものを放ったが……アルフレッドの前にはそよ風程度にも及ばない。


 止まることのない拳に、正面からそれを受け止めるマキナ。


 しかし。


 一つ稲光のようなものが走り……イレギュラーが戦場に舞い降りる。


「あいたたた……え、えと、ここは……」


 衝突の間に割って入る様に、突如現れる黒衣の少女。


 カルラであった。


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