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魔王到来


 荘厳なる威圧。 

 其は神をも打ち砕く破天の王にし。

 

 虐げられしものに救いの手を伸ばした大英雄。

 

 螺旋を描くその刃は、【不死】すらも否定し。

 その身はいかな破壊を受けようとも身じろぎ一つすることはない。

 迷宮の覇者、世界の破壊者……そして伝説の一人であるアンドリューでさえも

 その男を滅することは出来なかったと言われる。

 

 まさに、予想だにしなかった異分子……。


 本来であれば神や伝説級の存在が、束になってその進行を阻み、やっとどうにかなる程度の存在である彼が今。

 人間二人の前にふらりと現れ、怒りをあらわにしている。


 人の極致人の技。

 確かに怪物を倒すのは人の役目であろう。


 されど……【人智】を超えた【異形の王】を前には人の極致などただ蹂躙されるだけの的に過ぎない。


 もとより、世界を相手に戦う【世界喰ワールドらいのイーター】相手は世界でなければ釣り合いが取れない。


 ゆえに、まっぴら爺さんも、ルーピーも身構えることすらできない。

 ただただ驚愕をするほか、選択肢が存在しないのだ。



「シオン……無事か?」


「あ、うん! ぜんぜんへーき! サリアちゃんとカルランはやられて飛ばされちゃったけど」


「ええぇっ!? あの二人が!?」


「テレポーターでぴゅーんって」


「あぁ……また飛ばされたのね。サリアは意外とうっかりさんだからなぁ」


「フォース口調」


「あっ……ごほん……となると、あの二人、相当の手練れということか」


「うん、正直私ひとりじゃ相性が最悪なのです」


「え? 本当? はぁ~……それは参ったなぁ」


 嘆息をするような魔王の姿……まるで自らが剣をとるに値するか否かを値踏みしているかのように、じっとりと立ち尽くす二人を見つめている。

 ただそれなのに、ルーピーたちは吐き気すら伴う悪寒が全身を駆け巡る。


「……ま、まずくねーか?」 


「ここ、逃げたほうがよさそうですぞ? 我々、対人間ならばそこそこ心得はあるものの、あれだけの化け物相手取るほどの強さはありませんぞ」


「だが……逆に考えれば、いまここであれをたたいてしまえば……」


「ふむふむ……術式の準備は十二分。逃げられない範囲でテレポーターをしてしまえば」


「エリア外に追放しちまえらこっちの勝ちら……さっきの嬢ちゃん二人は急いでたからできならったが……」


「……相手がこちらの様子をうかがっている今がチャンス……んんっ! 論理的ですな!」


「となれば」


「先制あるのみ!!」



 そういうと、ルーピーは即座に、魔王に向かい槍を放つ。


 闇討ち、ふいうち……卑怯卑劣……決闘であれば罵倒の嵐にさいなまれるであろう行為。

 しかしそれが、魔王ともなれば、その行為は立派な【戦術】へと昇華される。

 

 なぜなら。


「今……何かあったか?」


 甲高い音を響かせ、放たれた槍は鎧に阻まれる。


 世に名をはせる天下の名槍……されど、魔王の鎧を傷つけることすらできず。

 魔王は、動く必要もなしと言わんばかりにただ立ち尽くし、攻撃を仕掛けたルーピーを見つめている。


「反応する必要すらねーってら」


 急所を狙った三連撃……だがそのどれもが、魔王の鎧に傷一つ負わせることができていない。


 その事実にルーピーはプライドが砕ける音が聞こえる。

 だが、もとよりこの攻撃で倒せるとは思ってなどいない……彼にできるのは足止め程度。

 相手が反応すらしてくれないという事実は予想外ではあったものの、あの場所から動かなければよいため、結果論とは言え、動く必要のない攻撃で相手の足を止めたことには変わりない。


「時間稼ぎご苦労ですぞ!! では吹き飛べ!」


「むっ?」


 足もとに展開されるのは巨大な魔方陣。 

 先ほど、サリアに放ったテレポーターとは異なる巨大な設置型魔方陣。


 気づいたとしても、逃れることなどできないほど巨大なその魔方陣を回避することは不可能。

いかに魔王といえども例外はない。


 ゆえに、まっぴら爺さんは勝利を確信しながら叫ぶ。


 「勝ちましたぞ!! テレポーター!」


 響く魔法の発動音と共に、その場にいた虫たちの鳴き声が一瞬で消える。

 その場にいたものあったものを強制的に異なる場所に転移をさせる魔法。


 走っても逃げ切れないほど巨大な円の中心に取り残された魔王は、為す術もなく場外へと飛ばされる。


 はずだった。


「どこを見ている……」


「えっ?」


 背後から響く声に、まっぴら爺さんは声を漏らす。

 先ほど目の前にて補足した人物の声がすぐ真後ろに聞こえたのだからそれは誰だって驚愕をするというものだろう。


「なんっ!?」


 慌てて再度テレポーターを放つまっぴら爺さん。


 しかし魔法陣が足もとに展開されるよりも早く。


「遅いな」

 

 魔王は今度はまっぴら爺さんの目の前に移動する。


「なっ……テレポーター!?」


「どうやら俺の方が使い手としては一枚上手のようだな」


「そん……そんな」


 何かが砕ける音がする。

 三十年間、部屋に侵入するものを即座に入り口まで転送をするという修行を続け磨き上げたテレポートの技術。

 人であるがゆえに、多才であることを捨て、スペシャリストの道を歩むことを決めたまっぴら爺さんとルーピーだからこそ、その歳月を一瞬にして踏み越えていく魔王という存在に悔しさと同時に絶望がこみ上げ。


「論理的に考えて……すごすぎますぞ」

 

 もはや崇拝にも近き感情が芽生える。


「捕まえた」

  

 だがここは戦場。

 

 呆けたまっぴら爺さんの肩に、魔王の指が触れる。


「あっ」


 テレポーターを慌て起動しようと試みるが。


【アイス・エイジ】


 呼吸一つする間もなく、一つの氷像が出来上がる。


「レオナルド!!」


 戦友のあっけない敗退に、信じられないと驚愕の声を漏らしながら、ルーピーは魔王へと走り、己の槍を放つ。

 悪あがきに近い一撃。しかしそこには最後まで戦うという戦士の意地が介在する。

 あるいは、彼の人生の中で最も鋭い一撃だったのかもしれない。

 だが。


「サリアの剣に比べると、止まって見えるな」


 人の限界を、魔王はたやすくはじく。


 音のない草原に、大げさに武器をはじかれた音が響き渡る。

 放った矛先は弧を描き、遠心力は無情にも握り締めた腕を巻き込み胴体を無防備な状態にしてしまう。


「パリィ……だと?」


 苦し紛れに恨み言を繰り出すことしかできないルーピー。

 目の前には青白く光る美しき刃が迫り。


「あぁ、そしてこれが致命の一撃だ」


 するりと、まるで骨も何もないかのように刃は差し込まれ、苦痛すら感じる間もなくルーピーは絶命をした。


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