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マッピラ爺さんとルーピーウイーヒック


「そうなの? となるとウイル君の仲間でウイル君のことが好きじゃないのってサリアちゃんだけってことになるね」


「へ?」


「私は、仕方がなかったとはいえウイル君と結婚出来て幸せだし。カルランもウイル君のこと好きだもんね」


 話を振られたカルラは、頬を赤く染める。


「え、えと。ですが私はその……おそばに居られればそれで……あくまで影なので」


「でも好きだよねー?」


「え、えと……はい、とても」


「ティズちんは言うまでもなくウイル君が好きだし。リリムっちもウイル君が大好きなのはみんな知ってるし」


「というか隠すつもりないですよね、リリムさんの場合は」


「おしとやかに見えるけどオオカミだからねー」


「ウイル君も、まんざらでもないって感じですものね」


 カラカラと笑うシオンに、サリアはよろりと眩暈を覚えるようによろめく。


「こうやって改めて考えてみると、皆さんウイル君のこと大好きなんですね」


「そりゃーそうだよー。ウイル君はかっこいーし」


「優しいですし」


「困ってる人はほっとけないお人よしでほんわかしてるのに」


「守ってもらうと……すごいドキドキしちゃうんです。格好良すぎて」


「分かるよー!! でもサリアちゃんはウイル君のこと好きじゃないんだよね」


 にこりと笑うシオン。


 その笑顔にサリアは顔を赤くし、泣き出しそうな表情になる。


「え、そのいや……尊敬していますし、高潔だと思います。思いますがその、恋愛感情など……そもそも、それがどういう物かというのも私にはわかりませんし、何より……私のような、粗忽な女に好かれても……マスターは困るでしょう」


 しゅんと、サリアは項垂れ、シオンとカルラはお互い顔を見合わせる。

 

 その表情はどこからどう見ても恋する乙女のそれ以外の何物でもなかったが……。


「そんな難しい言葉言われてもわかんないよー? ウイル君が好きなの? それともそうじゃないの? どっちかじゃない?」


 シオンはわざと意地悪をサリアにいうと、サリアは顔を真っ赤にして口ごもる。

 

 建前や飾り気のないストレートなシオンの質問。

 しかしだからこそサリアは追い詰められる。


 好きだというのは簡単だ。

 尊敬もあこがれも、好きという言葉でまとめられる。


 以前までのサリアであれば、恐らく容易に好きですと答えていただろう。


 だが。


 その言葉を出すには……今のサリアはウイルという少年に焦がれすぎていた。


 たとえ、尊敬の意味の好きだとしても、あこがれとしての好きだとしても。


 どんな形でさえ、好きだと口にしてしまえば……もはや自分の感情が抑えられなくなってしまうから。


「私は……違います……」


 色恋沙汰は剣を鈍らせる。


 心の弱さ、未熟さによりアンドリューに敗北した彼女は、主を思うがゆえにこれ以上弱くなるわけにはいかない。


 だからこそサリアは、頑なに自分の心を否定していた。


 それならそれでいい。


 ヒューイのように思いを胸の奥にしまい、隠し通すことができるなら、空気の読めないシオンだとしても無理やりにその思いを暴露するような真似はしないだろう。


 だが、サリアの場合、サリアちゃんポイントだったり、王城での激昂、先ほどのようにローハンに嫉妬してみたりだとか。


 全然隠せていないのである。


 ウイルの奇跡の朴念仁具合により、その感情がウイルに伝わってはいないだけで、はたから見れば全然恋心など隠せておらず、すでに色恋沙汰により剣は鈍っているし、おまけにウイルのことになると回りが見えなくなるというおまけもついてきているのだから始末に置けない。


 だからこそシオンもカルラもリリムもこっそりシンプソンさえも、【じれったい】という思いを抱えていた。

 

「どうなの? 好きなの? 嫌いなの?」


「はぐぅ!?」


 シオンは究極の二択を迫る。


 ただの質問であり、誤魔化そうと思えばいくらでも誤魔化せるようなものではあるが、こと真面目一辺倒なサリアにとっては逃れようのない究極の質問であり、サリアはとうとう追い詰められる。


「どうなんですか?」


 シオンの目配せにより、カルラもその真意を悟ったのかシオンに援護弾を送る。


「あ、あうう」


 迫りくる二つの視線。


 それによりサリアは―――おおよそ彼女には最も似つかわしくない例えだが―――小動物のように小さくなる。


「さぁ、観念するんだよー」


 とどめと言わんばかりにサリアに詰め寄るシオン。


「わ、私は……」


 目をぎゅっと瞑り、サリアはそっと言葉を漏らす。

 絞り出すようなか細い声……そして……。


「敵陣のど真ん中での女子トーク! マッピラ、ゴメンですぞ!」


 そんな三人に、空気を読めずに声をかけるしゃがれた声が響き渡り。


「!?」


 同時に足もとに魔法陣が展開される。


【マッピラ・ポメンダ・パヨウナラ!!】


放たれた魔法はテレポーター。

 このフィールドより離れた場合強制的に敗北となるこのゲーム。

 その魔法の強大さを理解していない三人ではなく。


「シオン!」


「きゃっ」


 サリアはシオンを抱えて三人は魔法の発動よりも早く魔法陣より脱出をする。


 空を切った魔法陣……ほとばしる閃光に驚いたようにはねたバッタが魔法の発動と同時に姿を消した。


「……くっ、この呪文は……マッピラ爺さんですか!」

 リルガルムの迷宮に潜ったものであれば一度は利用をするであろう奇人、マッピラ爺さん。


 第一階層の決まった部屋にのみ出現するその老人は、訪れた冒険者を迷宮の入り口前へと飛ばしてしまうという不思議な老人である。


 最初に出くわした時は肩を落とすものが多いが、慣れ親しむと帰還の手段として重宝をされている老人だ。(メイズイーター2巻参照)


「随分とナンセンスなあだ名、ごめんですなぁ! これだから迷宮に閉じこもっていたいというのに……」


「というか、喋れたんだね……おじいちゃん」


「そもそも人だったんですか、貴方」


「辛辣な評価!? 私、ただ迷宮で一人静かに暮らしていただけだというのにこの評価、本当にマッピラゴメンですぞ! それにおじいちゃんではないですぞ! 私の名前は、レオナルド! またの名を【マスターテレポーター・レオ!】リルガルム王国騎士団先代副団長ですぞ!」


「「「は?」」」


 あまりの肩書に全員が声を漏らした。

 

「その反応、信じておりませんな! おりませんよねー! レオンハルトやヒューイに比べたら変人奇人の類ですからなー私……ですが純然たる事実ですぞ? それに」


「ひっく」


「!?」


 背後から酔っ払いのしゃっくりのような声が聞こえ。


「シオン!」


 どこからともなく現れた男の剣戟が、シオンへと走る。


「きゃっ!?」


 響き渡る金属音。


 かろうじてではあるが、サリアの朧狼が背後から走る槍を受け止めた。


「ひっく……うぃー? とめやらったな? こら、みためよりも、豪傑らな」


 赤いマントに、赤い目、そして赤い顔。

 

 明らかに酒に酔っている男は、よろけながら間合いを取ると、左手に持っていた酒瓶を口に含みそんな感想を漏らす。

 

「る、ルーピー・ウイーヒック……? なぜここに」

 

 エルキドゥの酒場に通うものの中で、彼の存在を知らないものはいない。


 日がな一日酒場にて飲んだくれてはガドックに店の外につまみ出される問題児冒険者……ルーピーウイーヒック。もはやエンキドゥの酒場で見たことのない人間はいないほどの有名人である。


 なぜこの男とマッピラ爺さんがここにいるのか……その謎にサリアは困惑をするが。

 

 一合だけ打ち合ったサリアが感じたことは。


 先の一撃はまごうことなき……達人の一刺しであったことだ。


「ルーピー、奇襲なんだからしゃっくりは我慢してほしいところですなあ」


「しかたねぇらろ、レオ、出るもんはでちまうんらからよ」


「全く、酒に飲んだくれて……先代王国騎士団長らしい戦いを披露してほしいものですぞ! 酒が原因で敗北などまっぴらごめんですからな!」


「そこのろころは安心すろよ……俺の槍が、鈍ったことがあったか?」


 きらりと、赤い槍の矛先が不気味に光り輝いた。

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