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ローハン VS レオンハルト

「ふむ、人の噂とはなかなかあてになりませんね、存外思慮のある人間だったようです」


 ハリマオの戦術により、栄えある魔王軍。 クレイオートマタが止められた事実に軍師であるローハンは意外そうな声を漏らす。


 彼の見立てでは、王国騎士団が用いる兵法では10分程度で沈められると踏んでおり、経験と根性論だけが取り柄のハリマオが率いる部隊であれば、対抗策も講じられずに壊滅すると踏んでいたのだが、彼の予想は大幅に外れた。


「……勝てないと踏んで足止めを選択しますか。 なるほど、見えていないのではなく、見えていることに気づいていない方でしたか」


 ローハンは一人そんな感想を漏らしつつも、見事に自らが作り上げたクレイオートマタを止めた人物を称賛する。


 確かに彼は凡庸だ。

 しかし、凡庸に戦い、凡庸に経験を積んできた人間こそ、兵士の生存率を大きく上げる要因になる。


 なぜなら、凡庸であるがゆえに、凡庸な兵士にとってはどんな行動が最善であるかを熟知しているからだ。


「……トンボに追いつこうと飛ぶ蝶は力尽きる……ですか」


 そういう意味では、ハリマオの存在はローハンにとっては好ましくないと判断する。


 このゲームは将軍に目が行きがちだが、将軍よりも兵士の采配が大きく勝敗を分ける。

 それを理解しているからこそ、兵士の生存率を飛躍的に高めるハリマオの存在は今のうちにつぶしておきたいと考え。


「私が手を出しますか」


 そう手を伸ばし、魔法を放とうと呪文を唱えようと口を開く……が。


【獅子王剣……】


「!!」


背後から響く声は低く。 その声にローハンは魔法を中断し、代わりに防護結界を頭上に展開する。


【牙王!!】



 走る刃は正義の一閃……その究極にまで研ぎ澄まされた一撃は、一瞬防護結界に阻まれるが、すぐさまその結界を砕きローハンを両断する。


「ちっ逃げられたか」


 舌打ちを漏らすレオンハルト。


 その言葉と同時に両断したはずのローハンの姿は消え、代わりに背後からローハンが姿を現す。


「思ったよりも早かったですねぇ……レオンハルト様。 ナーガ・ラージャの討伐は見事でしたよ……さすがは王国騎士団を率いるものです」


「ふん、褒められた気はしませんね……こっちはペット一匹に、兵士の半分は持っていかれてしまったのですから。 流石は伝説の騎士といったところですか」


レオンハルトの言葉に、ローハンはにやりと口元を緩める。


「魔王さまはこの世界を救済する救世主だ……メイズマスターなどという小さな器に収まるお方ではないのですよ」


 ねっとりとした言葉……その悪魔のようなささやきにレオンハルトは毛を逆立たせる。


 敵意も殺気もない……しかしその耳ざわりの良い言葉から感じる異様な不気味さが、レオンハルトに警鐘を鳴らす。


「メイズマスターシステムは……神が作り上げたシステム……世界を左右する大いなる存在だが……貴方は、それすらも小さいと?」


「ええ……ここはあくまで、突き詰めればセンゲンダイの一つに他ならない。フォース様は……その先を行くお方だ」


 センゲンダイ……その言葉にレオンハルトは瞳をぎらつかせる。


「その言葉を知るということは、貴方は一体……」


「何、夢破れた魔王……かつてのフォースオブウイルに仕えた敗北者……ローハン・H・ジャッジメント。 しがないエルダーリッチ―でございます」

 仰々しく頭を垂れるローハン。


 その光景にレオンハルトは瞳を静かに閉じる。


「問おう……ローハン殿」


「なんでしょう?」


「伝説の騎士……フォース殿は、いったいどこまで行くのでしょうか?」


 先を行く……メイズマスターというシステムのさらに奥。

 ただの人間が行きつくことなどできるはずもないその境地へ至る未来。

 それを予言する男に対し、レオンハルトは最大の敬意を払ってその質問をする。


 その様子に、ローハンは一度口元を緩めると。


「無論……どこまでも」


 同時に全身より人の骨の指で作られた魔弾を全弾掃射した。


「そうですか」


 不意打ち……というにはあまりにもわかりやすい魔弾。


 それにレオンハルトは眉をひそめることもなく、剣を抜き横一閃に振るう。


「獅子王剣……沙晩無サバンナ


 空気と剣の摩擦により生まれる高温の熱風は、魔弾をはじくのではなく融解させ炎上させる。


 魔弾には大地に落ちた時毒の瘴気を発生させる魔法がかかっていたのだが、レオンハルトはそれを見切り焼き尽くしたのだ。


「さすがは……王国最強の騎士」


 ローハンはその判断能力に一つ納得したような声を漏らすが。


「気を抜くと、一瞬ですよ?」


 レオンハルトは剣を正中線に構えなおすと、その獅子の脚力により間合いを一足で埋める。


「早い……!?」


 魔術師であるローハンにとって、その速度はテレポーターの魔法にも近く神速の縮地。

 サリアやカルラのそれに比べれば数段劣る脚力に頼ったそれではあるが。


 ローハンにとっては絶望的なまでの身体能力の差であった。


「一閃!!」


 乱れることのない真っすぐな太刀筋。


 ローハンはその刃を魔術障壁を用いて防ぎ、その隙に幻術を仕掛け逃れようとするが。


「逃がしません!!」


魔術障壁を砕き、幻術を切り裂いてすぐにレオンハルトは開いた左腕を伸ばし、空を掴む。


「ぐっ!?」


 そこにあったのはローハンの顔であり、わしづかみにされたローハンはもがくようにレオンハルトの腕の中で暴れるが、その力の差は歴然でありレオンハルトがそれだけの実力差を持つ相手に逃走を許すことはあり得なかった。


「二度目はさすがに通じませんよ、ローハン様」


レオンハルトはそう呟き、剣をローハンの首元に突き付ける。

このまま首を撥ねればゲームセット。


「私の部下を襲っている魔物を操っているのは貴方ですね……そしてあなたを殺せば、魔物は止まる」


 その言葉に、いままで落ち着きはらっていたローハンの体がピクリと反応をする。


 それは明確にイエスと発言しており、レオンハルトはにこりと笑って。


「感謝します」


 そのまま首に刃を突き立てる。


 ぼとりと落ちる首。

 

 しかし。


「ふふふっ……私はアンデッドであると同時に人形遣いですよ? レオンハルト様」


 落ちた首は笑い、同時に土塊へと変容する。


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