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開幕のフェアリーゲーム


          【一週間後――――】


「レディースえーんど!ジェントルメーーーーン!! 長らくお待たせいたしましたぜこの野郎!! いかれたゲーム会場にようこそ!司会進行役、クリハバタイ商店店長トチノキだ! よろしくな!」


【【【――――――――――――――――!!】】】】


会場に歓声が響き渡り、その真ん中で巨大な映像用魔術鉱石が光り輝き、迷宮内部の映像を映し出す。


ここは迷宮があった場所のすぐ真上……迷宮がなかったことにされたのち、オベロンの力でただの草生い茂る荒れ野と変わっていたこの場所であったが、モノの一週間でそこには巨大な闘技場が建てられており、観客席には所狭しと観客たちが詰め寄せ歓声を上げる。


「随分と人が集まったもんだねこりゃ」

歓声が響き渡る中、僕は鎧をかぶったままそう呟き、選手控室からその様子をうかがう。


外は熱気で満ち溢れており、人々は国の最重要機関がなくなったというのに、この娯楽に酔いしれる。


「……何言ってんのよあんた、あそこにいるほとんどの人間が、あんた目当てに来てるって自覚がないのかしら?」


「え? 僕」 


「此度の戦いは伝説の騎士が初めて表舞台に姿を現し公式に皆に姿を披露する戦いですからね……マスターは古今東西のギルドや国よりその力を認められています……ゆえに、マスターの力量を見極めようと……あわよくばそれをもとにつながりを持とうとする者達並びに、スロウリーオールスターズを超える新たなる伝説を一目見ようと、世界中から人が集まったのですよ」


サリアの言葉に、僕は大げさな……と思って控室を見回すが。


リューキ達の反応を見るにどうにもその言葉に偽りはないようだ。


「でも……クレイドル教に喧嘩を売ったのは事実なのに」


「その点は問題ございませぬ魔王さま……シンプソン引いては主神クレイドルの計らいにより……あなた様は正式にクレイドル教会により【魔王】として認められ、活動を全面的に支持すると発表がなされています」


「魔王を支持するって……」


僕はその不思議な文言に一瞬耳を疑う。

フェアリーゲームやメイズマスターの問題についていろいろとてんやわんやしていた間に、クレイドル教がそんなことをやっていたなんて……。


「まぁ仕方がないことでしょう! 実質、あの一件でクレイドル教はあなたを魔王として認め、さらには半ば強制的ですが親睦の証を立ててしまったのですから、教会側も精いっぱいの言い訳として【魔王の行いは神に認められた正義であり、すべてを受け入れるクレイドル教は魔王の正しき行いと実績を評価しここに彼と同盟を結び、活動を全面的に支援する】なんて発表をしたんです……あ、ちなみに元から交流があった私が親善大使に任命されて、お金もがっぽがっぽなんですけどね! 予算が三桁増えましたよ!」


「すべてを受け入れるクレイドル教ねー……本当によく回る舌だよねー……油がよく乗ってるから燃やすには最適だよー」


シオンはその発表を知っていたらしく、笑顔を作りながらも青筋を浮かべてそんな毒を吐く。 まぁ当然か……。


「結局、世界を敵に回すって僕の行動も……無駄に終わっちゃったみたいだね」


敵対し離反するつもりが、気が付けばクレイドル教の一員として世界に発表をされてしまったということだ……目的とは真逆の結果に終わったことに、僕は少し彼らを甘く見ていたことを反省する。


しかし。


「いえいえ、ウイルさんの目的は達成されていますよ……むしろ最善の結果といってもいいはずです、神父頑張りました!」


シンプソンはどこか誇らしげに胸を張る。


「どういうことだい?僕の目的が達成されているっていうのは」


「あなたの目的は、シオンさんがもう悪でなくて済む世界を望んだのですよね。 魔王は魔族を統べるもの、つまりは全ての魔族は魔王の傘下の存在ということになっていますから、これでクレイドル教も、その他各国も魔族を完全なる悪と断ずることはできなくなるはずですよ!」


その言葉に、エリシアはピクリと反応をし。


「本当にそういう物なの? 今まであれだけ魔族を敵視してきたっていうのに、そんな簡単に魔族って存在の認識は変わるものなのかしら?」


「まぁ、しばらくは恐怖の対象にはなるでしょうが、伝説の騎士、魔王フォースがあのクレイドルに認められたのだから安易に迫害をするわけにはいかなくなるということですよ……クークラックスの出来事は皆に知れ渡っていますからね……同じ轍を踏むような行為意は避けるでしょう」


「……そう、一応僕のやったことにも意味はあったんだね」


「それ以上の功績です。形はどうであれ、人々の認識をあなたはたった一日で劇的に変化刺させたのですから!! いやはや、ウイルさんがあらかじめ伝説の騎士として英雄視されていて良かったですよ! ガチの魔王だったら今頃世界は大混乱ですよ?」


シンプソンの言葉に僕は笑う。


「……確かにね……ありがとうシンプソン、いい方向に話をもっていってくれて」


僕は隣で幸せそうに微笑むシオンを一度見やり、同時にうまい方向にかじ取りをしてくれたシンプソンに感謝の言葉を述べる。


「いえいえ、礼には及びませんよ! お金の匂いがする選択を取ったまでです。この世のすべてはお金、私の【黄金嗅覚EX+++】が、あなたを助ければお金になるとささやいているのですよ……」


「つまりは、今回のことも、お金がもうかりそうだから手を貸してくれたってわけね……やけに今回は聞き分けがいいからおかしいとは思ってたけど」


僕との会話を聞いていたティズは、僕の頭の中からひょっこりと顔を出し、そう呟く。


「……おやティズさん。あなたもいるとは意外ですね、ここは参加者以外は入れないはずですが」


「なに言ってんのよ!? 私も参加するに決まってんでしょ!」


「あら、戦力としてはあなたの存在だけでハンデのような気もしますが」


「力量でいうならあんたも私も変わんないでしょうに!」


シンプソンの言葉に、ティズは相変わらず牙をむきだしてかみつくが、僕はその首根っこを捕まえて落ち着かせる。 試合前に余計な体力は使わないでいただきたい。


「……おー!みんな元気だなー! マキナも元気なら負けないぞ!! 早くマキナスペシャルを叩き込んでやるんだ!! ぶおーーー!」


その陰から、楽しそうに声を弾ませながら腕を回すマキナは、ことの重大さをしているのか……どこか気楽な表情で落ち着きなく走り回っている。


「あぁ、マキナさん。大会が始まったらでいいんですが、あとでお話よろしいですか?」


「お?ナンパか? マキナセクシーだからな! 仕方ないな!」


「犯罪の匂いがします! マスター! 滅殺の許可を!」


「ちょっと!?あなたが言うとシャレにならないんですよサリアさん!?」


ぎゃーぎゃーと試合前だというのに緊張感のない控室。


本来であれば、みんなを落ち着かせる役割のリリムにもこの場で一緒に戦ってほしい……というのは心からの本音なのだが。


現在リリムは大会運営という形でこのコロシアム状の観客席の案内や、運営管理に必死になっているところであり、とてもじゃないが本線に参加するというわけにはいかない。

そもそも大会主催者側からこの大会への参加を表明するのはフェアではないし、何よりも観客たちの期待を大きくそぐことには変わらない……リリムはおそらくそこまでも天秤にかけて僕たちの協力を拒んだのだろう。


まぁ、今回ばかりはリリムを巻き込むのは気が引けるため、元から勘定には入れていなかったのだが……。


「……サリア、シオン、カルラ、ティズ、ローハン、リューキ、エリシア、フッド……それにナーガラージャ……集まってくれてありがとう……今回の戦いははっきり言って僕たちにかなり分が悪いゲームになる……だからどうか力を貸してくれ」


その言葉に……定まった返答はなく。


ただ、思い思いの返事を、僕の仲間たちは心強く返すのであった。


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