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【兵士】と【将軍】

「拠点制圧戦?」


「おいおい、予想通り過ぎて退屈ではないかメイズイーター!もっと面白い反応して見せぬか」


「反応云々はどうでもいいでしょう、それで拠点制圧戦とはいったい?」


僕の反応が気に召さなかったのか、オベロンは退屈気にそういうと、まあいいと呟き続きを話し始める。


「ルールは簡単だ、貴様たちの作り上げた要塞……そしてリルガルム城、ついでに我が妖精国の我が居城をすべて迷宮へと移動させた」


「地下迷宮に? 迷宮は消滅したはずじゃ」


「なかったことになっているだけだ、戻そうと思えば余の力で戻すことができる」


「そ、それで……戻した迷宮に、お城を沈めて、どどっ……どうするおつもりですか?」


「決まってる、それぞれが互いの城を攻め落とすのだよ、全兵力を用いてな」


「……攻め落とす?」


「あぁ、互いが互いに同じ程度の領土を所有し、持ちうる限りの作戦、兵力を用いてぶつかり合い、城に設置してあるクリスタルを破壊されれば脱落……最後まで残っていた陣営の勝利となる。 どうだ、シンプルかつ面白い内容であろう!」



確かに、ルールとしてはシンプルであるが。


「そんな広大な空間、迷宮のどこにあるっていうんだい?」


リルガルム王国の兵力は、知っているだけでも一万は超えているはず、それも冒険者ギルドやらなにやらを勘定に入れるとなると、とてもじゃないが迷宮に収まる量ではないと思うのだが……。


「案ずるな、場所は迷宮四階層の一室、無限の荒野にて行う」


「……無限の荒野?」


聞いたことのない単語に、僕は首をかしげると、隣にいたサリアが耳打ちをしてくる。


「無限の荒野とは、迷宮四階層にあるルームトラップの一つです。中に入ると、無限に広がる荒野があるのみというシンプルなトラップですが……その実態は魔力で作られたただただ広大な空間で、アンドリューが魔法の実験に使っているとのうわさもあります」


「そんな空間があるんだ」


「ええ、あんまり奥まで進んでしまうと、出口がわからなくなってしまいますが……逆にそれさえ覚えていれば何の脅威でもないものです。迷宮に挑むものが、扉の場所を記録せずに部屋の中を探索することのほうが稀ですしね」


「なるほどね」


サリアの言葉に、僕は一つ納得をし、話の続きを聞く。


「その広大な場所で戦争ゲームをしようってことだね、オベロン」


「そういうことだ」


「それはいいわ。 大量の死人が出て、シンプソンは大儲けね」


「安心しろティターニア! これはゲームさ。誰も死なない」


「殺傷は反則負けとか言い出すつもり? ここの筋肉エルフは、手加減してても首が飛ぶわよ?」


「そーだそーだ―!」


「ティズ、シオン。あとで話があります」


「「はい、ごめんなさい」」


「そんなナンセンスはするわけなかろう。流血や悲鳴は、観客を高ぶらせるものだしな」


「じゃあどうするの?」


「私のワールドスキルは事象の書き換え、ゆえに、死亡と消滅の概念を書き換える」


概念を書き換えるという言葉に、僕は首をひねる。


どうにも僕には理解が及ばない感覚であり、それはサリアたちも同じようで、みな一様に同じ角度に首を傾ける。


「まぁ、スキルによるものとだけ思ってくれればいい。 余の力で、死亡、もしくは消滅したものは強制的に迷宮の外へと排出されるようにする。蘇生をありにすると決着がつかなくなるからな」


「命は一つ……その意見には賛成だね」


シンプソンや僕のリビングウイルの力は、ほかの人間と比べてフェアじゃないため、そのルールには納得をする。


「あぁ、それと、職業についてのルールを追加しよう」


「ルールの追加?」


「マスタークラスの人間がクリスタルを強襲するというルールになってしまっては、制圧戦の意味がない。戦争の醍醐味は歩兵をいかに将が守るかだ……ゆえに、レベル5以上の存在は全て【将軍】という扱いにし、クリスタルおよび拠点への侵入を不可ということにしよう。当然、防衛のために城に罠を仕掛ける等もだめだ」


「将軍……というと」


「兵士は、城へ向かい、将軍は兵を率いて進軍および防衛をする。将軍は兵士を倒すことはできるし、将軍同士つぶしあうこともできる……だけど、肝心の城攻めは兵士しかできないから……将軍はいかに兵士を守り城まで導くかが肝になってくるというわけだね?」


「さすがは、聡明だなメイズイーター」


「ふぅん、あんたにしては考えて物作ってるのね?」


「おぉティズ!? そんな称賛の声をかけてくれるとは! もしやこれが婚約!?」


「違うっつーの」


ティズはもはや突っ込む気力も失せたといわんばかりに冷ややかな目でオベロンを見やる。


その態度に、さすがのオベロンも傷ついたのではとちらりと顔を見てみるが、恍惚の表情を浮かべているため僕はこれ以上かかわりあいたくない気持ちでいっぱいになった。


「先ほどの存在……という表現で気になったのですが。 人、以外の存在も兵士に参列させてもよいという考えでよろしいでしょうか?」


その言葉に、オベロンはにやりと口を緩ませると。


「その通りだ、流石はルーシーの弟子だな。 この戦い、余にとっては当然のことながら不利になる故、そうさせてもらった。そも、余の国には兵はいない、民を戦わせるわけにもいかないし、そも妖精とはもともと余以外は戦えるようには作っていない……芸術は凶器足りえぬからな」


「その考えはよくわかりませんが……そうなるとあなたはいったい何を兵士に使うつもりで?」


「決まっている。 この迷宮をせっかく借り受けたのだ……この迷宮の魔物を使おうと思っている」


兵士の基準はレベル5未満の存在……。


レベル5未満といえば、迷宮二階層のハッピーラビットや、三階層の機械兵器、アタックドック等々が匹敵する。王都襲撃の際に現れた魔物たちが6以上のものが多かったことを考えると、アンフェアな戦いにはならなそうである。


「ちなみに、公平を期すためにそちらの魔物の使用も許可しよう、迷宮は試合までおよび試合中も常時開放する」


「あんた以外に誰が魔物を手なずけるってのよ」


「まぁだろうな」


にやりと笑うオベロンに、ティズはぐぬぬと歯ぎしりをする。


「ふむ、それで将軍というのは何人まで設定可能なのですか? 無制限にしてしまえば、明らかに我々が不利です」


しかしサリアはいたって冷静にそう問い返すと。


「ふむ、確かにそうだな……総力戦とはいえ、公平を期すためには人数も制限が必要になるか……であれば将軍は10人とし、兵士もこの王都リルガルムの兵力すべてを限度としよう。迷宮のすべての魔物……というのもナンセンスだからな」


「兵力すべてというと?」


「おおよそ、リルガルムの常備軍は一万人といわれています」


「……一万人って……僕たちの陣営には、そんな兵力どこにも」


迷宮協会は隠密には優れているが戦い向きではないし、そもそも人数も千人に満たない組織だ……黒騎士隊は、確かに一万人程度はいるかもしれないが、せっかく平和に暮らせるようになったのに、ゲームとはいえすぐにまた戦場に送り出すなんてマネはしたくない。


「猶予は一週間! 迷宮内は試合中も試合外も出入りは自由だ。ただし、迷宮の外に出た瞬間に、プレイヤーは戦闘に参加する権利を失う! 試合開始後に外から迷宮に入ることも不可能にする!マップを確認するもよし、英気を養うもよし! この一週間は自由に行動してもよい……ルールは以上だ! ちなみに、映像放映用魔道功績により、試合の様子は随時放映するつもりだからな、血沸き肉踊り、観客の期待に応えるよい試合をしようぞ!」



「あっ!? こら!! 肝心のどうすればいいかが何も!?」


「ふはははははははは」


「こらー! 待ちやがれってのよこらー!」


結局、言いたいことだけを言いきると、オベロンは高笑いを浮かべてその場から去っていく。


ティズは相変わらずキーキーと抗議を申し立てていたが、やはりあの手の神様という種族は話を聞かないものが多いらしく、僕とカルラは肩を並べてその後姿を黙って見つめ。


サリアは、こっそりとオベロンに向かって炎熱魔法を放とうとしているシオンを止めていた。


「……まったく……面倒なことになったもんだねぇ」


「……あの人、暗殺したほうが早くないですか? ウイル君」


「だーめ」


色々と情報が多すぎて、突っ込みどころも満載でもはや何から手を付けていいかわからない状態であったが。


僕はとりあえず、カルラの呟いた言葉に、乾いた突っ込みを入れるところから始めるのであった。

               


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