ついでに王城沈没
「ふっはははは! というわけで貴様らの居城は人質ということでもらい受けたぞ!」
「んなああぁにがということでだおらぁあ!」
「ふんもっふ!?」
高らかに笑い宣言をしたオベロンであったが、その次の拍子にはティズのドロップキックを受けて吹き飛ばされる。
ロバートの城での焼き直しのようにきれいな放物線を描き吹き飛ぶ妖精王。
しかし、さすがはワールドスキルの保有者といったところか、通常であれば全治三週間はくだらないであろうその見事なホームランを受けながらも、モノの数秒で戻ってきて」
「ふははははは! 照れ隠しとは初なぁティターニア! よいぞ許す! その反抗心でさえも私は愛そう!ふはははは、むしろこの痛みがいい!」
「痛みがいい?……はっ!! まさか……マスター、あれは痛苦の残留!?」
「いや、ただの変態だとおもうよー」
「変態だろうが!?究極生命体だろうが関係ないわよ!!? この【自主規制】野郎!私たちの家を沈めてなんだってのよ!? あんたのお望み通りフェアリーゲームでもなんでも受けてやるってのに、こんな嫌がらせを受ける筋合いはないわよ!」
きぃきぃと珍しく正論でまくしたてるティズ。
しかし、その言葉が届いているのかいないのか? オベロンはにんまりと笑うと。
「嫌がらせ? 私が君にそんなことをするわけないだろう? 私がするのは常に合理的かつ芸術的なことだけさ」
「人の家を沈めて芸術だとかほざいてんじゃねえわよ!?」
「まぁまぁ、落ち着け。 何も沈んだのは君たちの家だけじゃあないぞ」
「なんですって?」
「今回のフェアリーゲームをするにあたって、出場者には【拠点】を借り受けることにしたのだ」
「出場者の拠点って……それってつまり……」
ふと僕は嫌な予感がし、後ろを振り返ると。
本来であれば町のどこからでも見渡せるほど巨大な城である、リルガルムの王城がきれいさっぱりと消えていた。
「あぁ、当然リルガルムの城も沈めさせてもらった……中の人込みで」
「何してるんですかあなた!?」
「よいではないか。どうせ終わったらもとに戻すし」
「中にいた人とか大丈夫なんだろうね!?」
「というか町の人たちは大パニックだよー!? どーするのー!」
「ふむ、数秒で町の隣にあれだけまがまがしい城を打ち立てた貴様らがそれを言うか……といいたいのはやまやまだがそれは置いといてだ、そこは問題はない。私のワールドスキルは事象の書き換え。 リルガルム王城が沈もうが、下々のものは以前からそうであったと納得をする! 我が妖精王の城だとて地下迷宮へと沈めたのだ! よいではないか」
「よくないわよ!? 城なんて沈めていったい何するつもりなの!? というか迷宮なんかに王城の人たちを沈めて!? フェアリーゲームの始まる前に魔物の餌なんかになってたら笑えないんだからね!?」
「そうだよー、王城の中には兵士もいるけどー、そのほとんどは非戦闘員なんだよー?」
「と、というよりも……政はどうするんですか!? く、国の中心が、沈んじゃったら……侵略……征服……め、滅亡ですよぉ!?」
問いただすように詰め寄られるオベロン。
彼女たちの意見と懸念はもっともであり、僕もそれにうなずいてオベロンへと一歩詰め寄る。
「フェアリーゲームを受けるとは言ったけど、ほかの人たちを巻き込むとは言っていないよ……オベロン」
しかし。
「心配はご無用だメイズイーターよ! 芸術を愛し、祭りを愛し、民を愛しすべてを愛するこの私が、皆が不幸になる結末を望むわけがないだろう!」
「現在進行形であんたに付きまとわれている私は不幸なんですけれど」
「きこえんなぁ!!」
「ティズのことはどうでもいいとして」
「あん?」
「いや、どうでもよくないけど、とりあえずそれは置いておいて、大丈夫っていうのはどういうことなんだい?」
「なに、簡単なことさ、フェアリーゲームとはいわば神である余が取り決めた神聖なる行事……そんな余の楽しみに水を差すような無粋なものを……余が許すわけもあるまい?」
ぞわりとおぞけが走る。
その神威はまさにヴラドと対峙したときと同じ感覚。
この世界を創生したものが一人……妖精の王オベロン……。
今現在……目前に立つこの王は……難攻不落、そしてサリアでさえも攻略ができなかったリルガルムの地下迷宮を制圧し、消滅させた人間だ。
その軽薄さや、言動から侮りがちだが……今彼が目前でして見せたように……城一つ、国一つを落とすことに羽虫をつぶすほどの労力も要しないのだ。
気が付いたら、地図から国が消えている……いや、今も僕たちが認識しないうちに、彼の怒りを買った国が消滅しているのかもしれない。
そんな得体のしれない恐怖と、神という名の理不尽な存在に僕は一瞬だけ気圧されるも。
「……何よ、そんなのウイルに勝ち目ないじゃないの!? ゲームにすらなってないじゃない。 だいたい、都合の悪い事象は全部書き換えるつもりでしょうあんた!?」
ティズは臆することなくオベロンに向かって牙をむく。
……本当に怖いもの知らずだよなぁ彼女。
「……まぁそういうな。だがそちらにも似たようなのがいるだろうに。余からしてみれば世界法則を書き換えることなく奇跡を振りまくあっちのほうが反則ではないか?」
妖精王にまで異例扱いされるシンプソンっていったい何なんだろう。
「……確かに、シンプソンの神物語があれば、ある程度はカバーができるのか……」
彼の望み通りに事が運ぶスキルと……不都合な事象は書き換えてしまうスキル。
どちらが強いなどと論じていてもそれは賭けになってしまうが……。
しかし、ゲームと名の付くものである以上は、オベロンもオベロンなりに主催者として公平なものになるように気を使ってはいる……というのは理解できた。
「まぁ、それはそれでいいけどー……肝心なことがはぐらかされてるよー!」
ふと、そんな中、しびれを切らしたかのようにシオンは声をあげ、杖を振り上げてオベロンを指し示す。
「……か……肝心なこと……ですか?」
「そうだよー! 結局ゲームの内容を私たちは何も聞かされてないよー! それに、私たちの【拠点】を借り受けたって! いったい私たちに何させるつもりなのー!」
あぁ、そういえば、なんだか口ぶりから決闘のようなものをイメージしてしまっていたが、オベロンの口からどんな内容のゲームを行うのかを聞いていなかった。
すると、オベロンはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに両手を広げ。
「ふはああああっはははっは!! ではでは貴様らに少しだけ早くフェアリーゲームの演目を発表しよう! 伝説の騎士よ、恐れずに聞け!!そして準備をするがよい、此度のフェアリーゲームの演目は!!」
ここで一度オベロンは興奮気味に間を取り、心の中ではファンファーレでもなっているのだろう。
どこか恍惚とした表情で両手を広げて宙を三回転したのち。
「人数不問!……各陣営総力を挙げての拠点制圧戦だ!!! 盛り上がるぞおぉ!」




