芸術は、爆発だ! →結果 家消滅
「すっごーい!? 本当に一瞬でおうちができちゃったよー!」
シオンは飛び跳ねながら声をあげ。
「ぶおおおおおー! 【ビッグバーン】」
呪いさえも焼き尽くすほどの大魔法をいきなり僕たちの新居にぶちかます。
「えええええぇ!? ちょっあんっ!?ええええぇ!?」
出来上がったばかりの新居に訪れる突然の爆破。
あまりにも突然の爆破のためか、その場にいた誰もが誇らしげに魔法を放ったシオンへと驚愕の声をあげてみるも。
「すっごーい! 本当に傷一つつかないよー! わーいやったー! これでいつでも魔法の練習が……!」
当の本人は子供のようにはしゃぎながら、壊れない家に対して感動の声を漏らし……。
「こんのおばかあぁ!」
「なにしてるんですかバカシオン!」
「心臓に悪い! DEATH!」
「あいたああぁ!?」
三人の少女(うち二人は筋力18)より振り下ろされる拳骨三発の音が、快晴の青空に響き渡った。
◇
「うぅー痛いよー、まだじんじんするよ~!」
「まったく、いったいどこの世界に出来上がった新居に爆炎ぶちかますバカ野郎がいるってのよ!」
「えへへーここにいる―!」
「……もう一発行っとこうかしら?」
「ごめんなさい!」
悪びれる様子のないシオン……まぁ、迷宮の壁が破壊されないものというルールを重々承知しているゆえの行動なのはわかるし、彼女にとっては祝砲のつもりだったのかもしれない。
事実傷一つついていないのだが。
「それでも心臓に悪い……」
特に、前の家を焼き討ちで失っている身としてはなおさらだ。
「でもでも! すっごい丈夫だよね! あとはこれを空に浮かべれば!」
「浮かばせなくていいんだからね!?」
「えー!? ちょびっとだけ! さきっちょ、先っちょだけだから!」
「どういう状況ですかそれ!?」
新居ができて興奮しているのか、シオンは頭にたんこぶを三つ作りながら意味不明な言葉ではしゃいでおり、僕はそんな姿にあきれながらも再度自分の居城の頑健さに感服をする。
シオンの言う通り、これならばいかにヴラドといえども攻め落とすことはできないだろう……。
「ま、マスター……その、浮かせる浮かせないはいいとして、な、中に入ってもよろしいでしょうか!!」
「え? あぁ……そうだね、入ってみようか」
「---!!」
瞬間、いつも険しい表情をしているサリアの顔が、お菓子をもらった子供のように明るくなる。
いつもであれば、シオンを正座させてくどくどとお説教をしているところなのだが……今回ばかりはサリアもお説教よりも自分の家の優先度が勝ったらしい。
「シオン、中では?」
「爆発しません! いい子にしてます!」
「よろしい、じゃあ中に入ろうか」
「わーい!」
「わーい! です!」
シオンに対するお説教はほどほどに、僕は指を鳴らして門を開くと、サリアたちはもはや興奮冷めやらないといった様子で、口元を緩ませつつ、自分たちの城の中へと入ろうと歩を進めると……。
――――ミシリ……。
「みしり?」
なにやら不穏な音が響き渡り、皆が皆入口の一歩手前で足を止め首をかしげると。
――――――――――――――――――――――!!
強大な地揺れと同時に轟音が響き渡る。
「なっ!?」
「んああああああ!?」
それをも超える絶叫をティズとサリアはあげる。
無理もない、なぜならその地揺れと同時に……目前の僕たちの城が、文字通り沈んで行ってしまっているからだ。
破壊されることのない頑健な城は、その姿を揺るがすことなく大地へとゆっくりと沈んでいき、僕たちはその光景を指をくわえてみていることしかできなかった。
「そんな……家が、私たちの家が」
二度目の家の消失には、5分とかからなかった。
ブリューゲルに家を焼かれたときはさほどショックはなかった僕たちであったが、此度の沈下はあまりにも唐突であり、僕たちはしばらくの間、大穴の空いた空洞をぽかんと見つめたまま、誰一人言葉を発することなく……ただただ家のあった場所を力なく見つめていることしかできなかった。
そんな中。
「ふっはあああははははははは!! 一夜城とはこれまさに感服! 人生を楽しんでいるなあメイズイーター!!」
「その声は……」
茫然自失としている僕たちの前に、ふと耳障りな笑い声が響き渡り、僕たちはその方に目を向けると。
そこには当然というか、わかり切っていたというか、オベロンが浮いており。
「オベロン……あんた何しに来たのよ」
あきれ顔のティズは、もはや先ほどのようにオベロンに対し騒ぎ立てる気力もないといった様子でそうため息交じりに漏らすと。
「なあに! ちょっといいお城だったのでね!ちょっくら沈めさせてもらったよ! さあ、ゲームをしよう!」
オベロンは悪びれた様子もなく……僕たちにそう宣言するのであった。
◇
十分前……。
「うーむ……フーム」
オベロンは悩んでいた。
「困った、困ったぞ……由々しき事態だ」
その悩みの原因は、彼が妖精女王ティターニアを取り戻すために宣言をしたフェアリーゲームによるものだ。
彼は当初、メイズイーターと己の一対一のフェアリーゲームを想定しており、決闘形式で物事を進めるつもりでいた。
「決闘はいい。会場さえ整えれば、人々の熱狂を一身に浴びながら最高のパーティーを開くことができる。そのための会場は、半ば強引であったがきちんとアンドリュー氏からも借り受けたし、なにより出演者は伝説の騎士・フォースオブウイルだ……。血沸き肉躍るリルガルム史上最大のお祭りになることは間違いはない……はずだったのに……まさか、まさか三つ巴の勢力戦になってしまうとは」
オベロンはふよふよとリルガルムの町を見下ろしながら青空を飛び、頭を悩ませる。
正直、ティターニアを取り戻せればそれでいい彼にとって、リルガルム国王軍の参戦はまったくもって想定外だ。
当然、その状況をカバーするための案もなく、会場を借り受けられる期間も決まっているため早急にゲームの演目を決めなければならない。
「困った……実に困ったぞ」
焦れば焦るほどアイデアは枯れた泉のごとく潤いを失っていき、オベロンは頭を抱えながら自らの頭をかきむしる……と。
「ん?」
ふと王都リルガルムから外れた場所……しかも自らがアンドリューから借り受けた迷宮のその真上付近に……突如として城ができた。
その荘厳さたるや、見るだけで己のインスピレーションを刺激するかのごとき造形であり。
それはまさに悪意と自己顕示欲にまみれた魔王城。
形の常識も関係なく、とげとげしいその排他的な出で立ちは、まさに邪念の塊であり、下々の民を守るべく建つはずの城の基本的概念をことごとく塗りつぶす……そんな欲望まみれた自己中心的思考の権化。
それが目前に現れたのだ。
「なんとも面妖な」
その突然の出来事に対しオベロンは一瞬だけフェアリーゲームのことを忘れ、遠目よりそのまがまがしき魔王城を眺める……と。
次の瞬間……その城は爆破された。
「……なんと!?」
赤々と光り輝き、あたりにはた迷惑にも爆音を響かせ燃え盛る居城。
欲望の塊が、爆炎により照らされ、まるで世界の終わり……いや始まりを見ているかのような美しさをオベロンに暴力的にたたきつける。
その時オベロンに、電流走る。
「芸術は……そうか、爆発だ!!」
こうして、フェアリーゲームの演目が……決定し、オベロンは意気揚々と魔王場へと飛んでいくのであった。




