真実を求めるゲーム
「サリア殿!? おやめを!」
辺りの大気を震え上がらせるほどの殺気を放ちロバートへと向かうサリアに対し、レオンハルトは驚愕の声を漏らして剣を抜き相対しようとするが。
「邪魔だ!」
剣を打ち合うこともなくその腹部に居合にて引き抜かれた神速の剣線を受け、吹き飛ばされる。
もはやマスタークラスだとて相手になるはずもない。
ロバートのセリフはサリアの逆鱗を逆なでした挙句に引きはがしたほどの怒りにふれ。
峰うちだったとはいえ、友であったはずのレオンハルトでさえも打ち据え。
返す刃でロバートの首を狙う。
微動だにしないロバート……その姿にサリアは戸惑うことも躊躇うこともなく、怒りに身を任せてその刃を振り下ろす……が。
「だめです! サリアさん!」
振り下ろされた二刀の刃を、カルラが素手で受け止める。
ザクリという音がし、カルラの手から血が噴出するが。
それでも朧狼と影狼はカルラの腕を両断することはなく、しっかりとその両の腕に受け止められて動きを止めていた。
「何をしているのですカルラ」
いつもの優しいサリアの姿はどこにもなく、自分に歯向かうカルラを射殺すような眼光でにらみつけた後、あまつさえカルラにもサリアは殺気を放ってそう問いかける。
「……今、あの人を殺そうとしましたねサリアさん!? むやみに人を殺すのはウイル君が望むことでは……」
「あの男は!? マスターを……ウイルを人柱と言ったんですよ!? レオンハルトもだ!! ウイルが死ぬと分かっていて……伝説の騎士だなどと祭り上げて!?マスターを殺そうと画策していたんです! そのようなこと許されていいはずがない!! この者にマスターは殺されようとしていた……そして、あまつさえ人柱だなどと!」
「発言を撤回するつもりはない……」
激昂し吠えるサリアに対し、ロバートはカルラの後ろでそう火に油を注ぐかのように言葉を投げかけ、サリアはその言葉にさらに額に青筋を浮かべる。
「貴様……貴様ぁ!! 誰が、誰が人柱か!! ウイルの優しさにつけ込んで……利用した……貴様が、どれだけ偉いというのだロバート!」
もはや我を忘れてというレベルではなく、サリアは一瞬唇を噛み。
「……オーバードライブ……」
「!?」
その一線を超えようとする……が。
「沈黙の口縫い!!」
背後から呪文が走り、一筋の意図のような光がサリアの魔法を打ち消し霧散させる。
「!? カウンタースペル」
「……ちょっと、サリアちゃん何考えてるの!? その魔法は……その力は、仲間に向けていいものじゃないでしょーに」
「シオンまで……一体何を考えているのです……なぜあなたまで私を止めるのです!? だっておかしいじゃないですか……マスターは、マスターはこの国の為に頑張って……たくさんの人を救ってきたのです。 私も、シオンもカルラもそうでしょう……だというのに結果が人柱です……この男の目的に……利用され続けてきたのですよ!? 悔しくないのですか! 怒らないのですか!!」
「とはいってもねぇ……」
怒り狂うサリアに対し、シオンは一度ため息を漏らすと。
「ウイル君はどうするの? サリアちゃんのスーパー殺戮ショーを開幕する? オーケーなら私は真空空間に人を投入する実験くらいはできるほど怒ってるけどー」
「私も、素手で人の開きを作ることに挑戦したいと思うくらいには激昂してます」
「うん、とりあえず三人とも下がる方向でお願い」
冗談めかしてはいるものの、カルラもシオンも相当頭に来ているのだろう。
笑顔の裏には今まで見たことのない程の殺気が見え隠れしている。
なので、話がややこしくなる前に僕は一度三人を下げさせることにし、一人ロバートとオベロンの元へと向かう。
「さてと、話がややこしくなっちゃったけど……これだけばらされちゃったんだ、全部話してもらってもいいかな?」
「……ふふっ、少年よ、随分と冷静じゃあないか。 私としては衝撃の事実にここでパーティーの一つや群像劇ぐらいは見れるかもと思ったのだが」
「確かに、一人だけだったらそうなってたかもね……だけど僕の周りには、僕以上に怒ってくれる人が多すぎて、いっつも起こるタイミングを逃しちゃうんだよね」
「ふむ……まぁあれだけの淑女があれほど激昂したのだ……無理もないか」
「そういうこと……それに、なんとなくレオンハルトたちが隠し事をしていることには気付いてたから、言うほど裏切られたっていう感触はしないよ……僕みたいなお人よしが疑問に思えるほどなんだ……ようは君たちは、僕たちが逃げたければ逃げられるようにしておいた……そう言うことだろう?」
僕はそうロバート王に問いかけると、ロバートは一度鼻を鳴らして答える。
どうやら、悪ぶってはいるものの、中身はお人よしのようだ。
「……さて、それで僕が聞きたいのは、君の目的だロバート……」
「……どういうことかな?」
「とぼけるなよ……オベロンの話を聞く限り……君はメイズマスターを支援していることになる。 だが、実際に先代メイズマスターの手から世界を救ったのも君たちだ……となると、君たちは世界を滅ぼそうとしているわけでもないし……君たちはあくまで世界を救うために動いているということになる」
「気が変わったのかもしれんぞ?」
「それはないね」
「なぜ?」
「そんな奴に、レオンハルトは忠義を示さない」
「ほう?」
「当然、初対面に近い君たちはこれっぽっちも信用はしていないよ……出会いも最悪だし、第一印象だって悪すぎる。 これ以上ないってくらいに最悪な出会い方をしたよ、僕たちは。だけどレオンハルトは別だ、彼は僕の友達だ」
「ふふふ、私は意外と気に入ったぞ? 少年!」
「ありがとうオベロン……さて、そうなると君たちの目的だが……何かこの世界を守るために、メイズマスターに協力に近い形で動いていることになる。わざわざメイズエンドの完成を速めることが、それにつながるというなら……君たちはこのシステムに相対する為に動いている可能性がある……そう言うことだろう?」
「ほう……」
オベロンは一人にやりと口元を釣り上げ、それに対し。
「何も話すことはない」
ロバートはうなずくことはなくそうつぶやくが……それで構わない。
「なぁオベロン」
「なんだ?」
「フェアリーゲームに勝ったら、負かした相手に何を聞かせてもいいんだろう?」
「まぁな、ちなみに私が勝ったらティズを貰う」
自分勝手な言い分であるが、それでもいいだろう……ティズを助けてもらったのは変わりないのだからその不遜さや傲慢さも目をつぶれるし……奔放さで言えばうちのシオンの方が万倍も自由奔放に生きている。
「オーケーだオベロン」
「ちょっ!? ウイルアンタ何言って……」
「その代わり、僕が勝ったらティズの記憶を貰う」
「いいだろう、当然の権利だ……さっそくゲームを!」
「いいやまだだよオベロン……プレイヤーはもう一組いる」
「!?」
驚愕の表情を見せるのはオベロンだけではなく、この言葉の意味を察したのか、ロバートは一度驚愕の表情を見せこちらに向き直る……だがもう遅い。
ここまで勝手を通されてきたのだ……これぐらいの無理は押し通る。
「ロバート! 僕、魔王フォースオブウイルは……この王都リルガルムに対し! フェアリーゲームを申し込む!! 君たちが勝てば僕は君たちの掌の上で踊り続けよう……だけど、僕が勝ったら……教えてもらうよ……君たちの目的……って奴をね!」
「GOOOOD!!」
その言葉に、オベロンは高らかに歓喜の声をもらしたのであった。




