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312.穿ち大穴

船の上、占領され落下をする船の上で、サリアとカルラは迫りくる吸血鬼を粉砕し、両断し、殲滅する。


「鮮やかな手際よ」


その光景を見つめ、ヴラドはそう語る。


「これだけ細切れにすれば、再生に時間がかかりましょう?」


サリアはそういうと、朧と陽炎にこびりついた血をふるい落とし、落下する船の上、カルラと共に吸血鬼と対峙する。


「そうだな、それでどうするつもりだ? 真祖の吸血鬼、不死なるものを切り刻み、無限煉獄苦痛の輪廻を巡礼させて……悟りでも開かせるつもりなのか?」


「そんなことで悟りを開けるのであれば、私はとっくに開けていますよ」


苦痛に対しては一家言持ちのカルラは、その言葉に少しばかり不機嫌そうに唇を尖らせて否定をし、同時にサリアは胸当てを脱ぎ捨て。


「……時間稼ぎにしかならないことは分かっている。 お前を圧倒しても決着がつかないことを……だがそれでいい」


「ほう? 何を待っているのか知らないが、思い通りになると思っているのか?」


真祖の吸血鬼は心底面白いといったような口調で笑い、同時にその牙を剥きだしにして一歩、二人に向かい踏み込もうと筋を一本動かすが。


「!?」


その瞬間に両の腕が吹き飛ぶ。


「先ほどと同じと思っていると痛い目を見るぞ」


「あぁ、もう十分激痛だ」


サリアの言葉に、ヴラドはそう笑い、同時に両腕を再生してそのままサリアへと突進をする。


「はああぁ!」


オーバードライブを付与したことにより、速力も何もかもが向上したサリア。


その速度は目で追うことも、刃を見切ることもかなわず。


「せいやああぁ!」


そこに同格の忍による拳打の嵐が織り交ぜられればもはやその体はひたすらに蹂躙をされることしかかなわなくなる。


無数の激痛、無数の死が何度もヴラドを襲い続けるが。


しかし問題はない。


見えないのならば触感で理解すればいい。


捉えられないのならば何度でも経験すればいい。


肉をこそぎ落とされ、骨を断たれ……何十何百通りの太刀筋と拳の殴打を経験し、死の中でそれをすべて分析する。


早さも、強さも何もかもがこの男の前には通用しない。


最後には勝つ。


それが、この男が世界の創成の時代から行い、続けてきた絶対の真理だからである。


 彼にはそれが許されている。


故に、彼女たちに赦されているのは最初から、無駄なあがきでしかないのだ。


「見えたぞ、サムライ」


2532通りの太刀筋の中で、唯一同じ攻撃パターンであった上段から降り下ろされた刃を、ヴラドは煙を上げながら再生をするその左腕でつかみとり、反撃の為に右腕を振り上げるが。


「サリアさん!」


その援護にと、カルラがそのヴラドの首を飛ばそうと手刀を走らせるが。


「それも見えている!」


ヴラドは右腕を振るい、血で作られた槍を飛ばしてカルラを狙撃する。


「きゃっ」


サリアを救うことに意識を裂きすぎていたのだろう、不意な反撃にカルラは対応することができず、その肩に槍を受け、そのまま船へとつなぎとめられる。


「がっあっ……っつっ!?」


「むっ、心の臓を狙ったがうまくよけたか」


「隙だらけだぞ!! ヴラド!」


しかし、その一瞬の隙を突き、サリアは自由になっている影狼を振るいその顔面を両断しようと走らせるが。


「その太刀筋も先と同じだ」


その一撃を、ヴラドはその牙をもって噛み付き受け止める。


「なっ……」


「ふんっ」


「きゃっ!?」


首を大きく振るい、投げ飛ばすことにより、朧狼と影狼は宙を舞い、船から落ちていく。


「ぐっ」


丸腰になったサリアだが、態勢をすぐに立て直すと、ヴラドの顔面に強大な脚力をもってして放つ足刀を打ち込むが。


「間抜け! 其の程度の動き。 忍の真似事にもならぬわ!」


身をひるがえしたやすく足刀をよけるとヴラドはサリアの腹部にその拳を放つ。


「うっあっ……」


オーバードライブ、身体強化をもってしても骨身に響く拳。


世界創成の時より積み重ねられたレベル……そして吸血鬼として生物の限界を超えたステータスを保有する彼だからこそ放たれるその一撃に、何かが割れる様な音が二つ体の中で響き……同時にサリアの視界は一度暗転をする。


「どうした!? 先代剣聖にはまだ届かぬか! まだ、剣の極致へはたどり着かぬか!?」


「何を……」


懐かしき父の名により、サリアは暗転した視界を取り戻し反応するが。


既に目前には拳が迫っていた。


速力と威力は体重を乗せた渾身の一撃であり、その背後では意識をかりとったのちに八つ裂きにしようと用意された血の槍の数々。

サリアは直感で理解する。


受ければ必死……頭蓋が砕け、同時にその身も四散する。


だが、その【結果】だけ理解していても。


「―――――――ッ!!?」


どう動こうが、回避が間に合わないと無情にも己のスキルは【答え】を導き出す。


だが。


「随分と好き勝手やってくれてるね……吸血鬼」


首の鳴る音が聞こえた。


そしてどうじに……青白く光る一閃が走り、サリアへと迫るかいなを切り落とす。


「むっ!?」


突然の来訪者に、ヴラドはすぐさま新たなる敵を捕らえようと視線を移すが。


その顔面を英雄は掴む。


「……貴様」


「メイズイーターレベル4……トラップイーター……セット」


感じる悪寒……体に

異変を感じたブラドは、すぐさまに顔を掴むウイルの手に噛み付こうと口を開くが。


「ふっ!」


それよりも早くウイルの蹴りがヴラドを襲う。


「ぐっ」


サリアよりも、カルラよりも軽い蹴りではあるが、不意な一撃によりヴラドは吹き飛ばされるが。


「その程度の蹴りで倒れんわ! 小僧!」


殺すまでには至らず、ヴラドはすぐさまとびかかろうと体勢を立て直すが。


【その大地を穿ち削る!】


ウイルはヴラドの顔面にセットした罠を起動する。


「穿ち大穴(ピット)!!」


瞬間、ヴラドの顔面に大穴が空く。


「……がっ!?がうああああああああああああ!!」


それは魔法でも、力でもなく、あたかも最初からそこにあったかのように自然と穴が開き。


ヴラドは経験をしたこともない激痛……こそぎ落とされたわけでも、貫かれたわけでもない。一瞬にしてその身の一部が消失するという感覚に絶叫を上げた。


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