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295.真祖との戦いと、魔族・ジャンヌ

「はああああああああああ!!」


シオンの絶叫を皮切りに、サリアは朧狼を構えてヴラドへと切りかかる。


最悪の展開……逃げ込んだ先で吸血鬼に襲われるというこの状況……もはや手遅れと分かっていても、サリアも僕も彼女を汚すその魔物を見逃すという選択肢は存在せず。


刺突により、回避行動すらとる間も与えずにヴラドの頭蓋を貫き殺害する。


だが。


「……ふん、甘いな」


頭蓋を貫かれ、絶命をしたにもかかわらず、ヴラドは口元を釣り上げて笑い。


ジャンヌを抱いている腕とは別の腕でサリアの腹部へと掌底を叩き込む。


「っふっ!」


しかし、そんな一撃を喰らうほど、サリアも甘くはなく、すかさず左腕でもう一本の影狼を逆手で引き抜き、その手首を切り落とす。


【裏居合・狐刀影裡ことえり


「逆手での抜刀!?」


密着した間合いから放たれる抜刀術。

その不意打ちにも近い一撃により、虚を着かれた吸血鬼はなすすべもなくその腕を切り取られ、サリアは次ぐ二の太刀でヴラドの肩口の剣を切り裂き、ジャンヌを奪う。


「貴様、我が花嫁を……」


ヴラドは怒りからか、そう恨めし気に言葉を発すると、再生した腕によりサリアへと攻撃を仕掛けようとするが。


「ヴラドおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


怒号と共にシオンの杖の先端がヴラドの喉笛を貫き爆ぜ。


「ごっ!?」


【我が怒り、我が猛り雷鳴となりて、愚かなる悪鬼にに閃光の断罪を振り下ろさん! 重ねて五連! 撃鉄を下ろせ!!】


のけぞった体に、渾身の一撃を振り下ろすが如く……シオンは高速詠唱により、術式を起動する。


杖の先に作られる魔法陣は五つ。


【チェイン! ライトニングボルト!】


その体に放たれるは、五つの稲妻……。


耳を貫くかの如き轟音が洞窟内に響き渡り、同時に視界が白く染まるほどの閃光が放たれる。


「すごい……魔力です……」


カルラは閃光からかばうように僕を抱きながら、そのシオンの魔法に呟き。


同時にほとばしる雷鳴と共にサリアは僕たちのもとに帰還する。


「マスター……すぐにシンプソンのもとに……抵抗をしていれば……まだ吸血鬼化を押さえられる可能性が!」


「無駄よ! 無駄よ! ジャンヌは自らの意思で吸血鬼になることを選んだ!」


焼け焦げ、皮膚がすべて剥がれ落ちた状態でもなお、気にする用もなく吸血鬼は高らかに笑いながらそう語り。


「黙れええええぇ!」


シオンは怒りのままに、続けて炎武のスキルを駆使して爆炎を巻き上げる。


「消えろ! 消えろ消えろ消えろおおおお!」


まるで、悪夢を打ち払うかのように、その一撃一撃に怨嗟の言葉を乗せて、シオンは吸血鬼へと炎を叩き込む。


しかし。


「効かぬと……行っておろうが!」


焼き尽くされた肉体は、痛みを感じることすらないのか、消し炭になり、焦げた肉をボロボロと崩れさせながらも、吸血鬼はシオンの顔を掴み、投げ飛ばした。


「きゃぁっ!」


「いけない!? メイク!」


迷宮の壁に激突しそうになるシオンだが、僕は慌てて性質変化をかけた迷宮の壁により、シオンの体を抱き留め衝撃を吸収させる。


衝撃吸収力を最大にまで高めたクッション性であるため、シオンへのダメージは皆無のはずだ。


「……あれだけのダメージを与えても、動きすら止められませんか」


サリアは少し困ったようにそう語り、苦虫をかみつぶしたような表情をする。


圧倒的再生力に、不死の力が強い真祖の吸血鬼。


その不死は、死んで生き返る僕のリビングウイルのような蘇生系ではなく……どのような形であっても生き続けるというタイプの不死であるため、いかに強力なダメージを与えようとも意に介すことなく戦闘を続行してくる。


となれば……。


「カルラはジャンヌを! 僕が出る!」



メイズイーターの一撃か、消滅の一撃により消滅を刺せるほかはない!


僕はそう悟り、ホークウインドを抜いて吸血鬼へと疾走のスキルを用いて駆けだす。


「ぬっ!」


流石は真祖の吸血鬼、何かを感じ取ったのか、先ほどまでの余裕のある表情を消し、僕に対し敵として認識をする。


「切り裂く!」


「やってみろ小僧が!」


速力が14しかない僕は、疾走のスキルを用いてもまだ、ヴラドの再生が終わる前に決着をつけることができず。


傷一つない姿に戻ったブラドは虚ワンの一撃を怒号とともに僕へと放つ。

その威圧感は、ただの拳が巨岩の落石のような風圧と威圧を放ち。


【見切り】


しかし、僕はその一撃を見切りのスキルを用いて冷静に見切り。


【軽業!】


体をひねってその巨腕の一撃を回避しつつ間合いへと踏み込む。


「これを回避するか!? だがこれならどうだ!」


しかし、一撃を叩きこもうと刃を振るうも、その一撃よりも早く、吸血鬼の足が大きく振り上げられ、回し蹴りのような形で僕の顔面を大槌のような一撃が鈍い風切り音を上げながら走る。


「ぐぅうっ!」


「ウイル君!?」


かろうじて空いた左手の掌でガードをするが、自分の腕から恐ろしいまでの轟音が響き渡り、左腕が一瞬にしてぺしゃんこになる。


激痛と共に肉が裂け、同時に白い骨があちらこちらから飛び出すその様は、通常であればだれでも二度とこの腕は使えなくなったということを理解するだろう。


だが。


【リビングウイル】


「ほう、確かに腕を潰したはずだが……なるほど、お前も不死か」


しかし、そのとっさの防御により、かろうじて死は免れ、僕はリビングウイルにより怪我を治すと、再度敵の懐へと走る。


「行くぞ吸血鬼!! 真っ向勝負だ!」


「面白い!だが、いかに不死であろうと、何度でもひねる潰してくれるわあぁ!」


高らかに笑い、再度拳を振り上げんと走るブラド……。


だが。


「なんてね……」


僕は誘いに乗った吸血鬼に対し口元を緩めて笑い……一度立ち止まり。


「!?」


剛力のスキルを使用し、思いっきり仕掛けた蜘蛛の糸を引く。


先ほどけられた際に発動したスキル、蜘蛛の糸を……ブラドの足の裏に巻き付けておいたのだ。


アリアドネの糸はドラゴンでさえも縛り付けることのできるほど強力な糸であり、ヴラドの足を引く程度ならばたやすかった。


「ぬおっ!?」


軸足を掬われるように引かれたブラドは、なすすべもなく体制を崩してその場に倒れる。


子供だましに近いトラップであるが、吸血鬼は面白いように引っ掛かり、もんどりうってその場に倒れる。


「なっ!? これは……いつの間に」


ダメージこそ皆無であるが、行動を一瞬だけ止められればそれでいい。


僕は飛び上がり、倒れて動きを止めたヴラドの心臓へと、杭を打ち付けるかのようにホークウインドの一撃を叩き込む。


「ぬううつ」


「腕の一本と引き換えに、アンタを仕留められるなら安いもんさ!」


驚愕の声を漏らしながら、天井を仰ぐヴラド……もはや刃は目前へと迫っており無防備なその体に僕は消滅を誇る一撃を……突き立てる……。


が……。


【水弾き】


あと少し、ほんの少しだけ時間が遅ければ、真祖の吸血鬼を消滅させることに成功するはずだった僕であったが。


不意に現れた小さな水の塊が弾け……僕はその一撃によりホークウインドは弾き飛ばされ……僕自身もその爆風に巻き込まれ弾き飛ばされ、ヴラドの消滅を逃す。


「一体何が……」


ダメージこそ皆無であれど、絶好の機会を逃してしまった僕は内心で舌打ちを打ちながら、体勢を立て直し、そう冷静に今起こったことの分析を始めるが……。


その犯人は、意外にもすぐに姿を現した。


「きゃっ!?」


小さな悲鳴が背後で上がり、僕はその声に釣られるように背後を振り返る……と。


「……主様には……触れさせませんよ」


その声は確かに、聞き覚えのある声であり。


「……嘘……」


シオンは絶望の表情を浮かべながら、言葉を漏らす。


振り返るとそこにあったのは、吹き飛ばされ、壁に打ち付けられた状態のカルラと…………角が生え、青く染まった髪をたなびかせる一人の少女の姿……。


「ほんっとう!! 最高の気分だわ! 復讐にはもってこいの、憎悪に燃え上る様な最高の気分!! あはは!! あはははははははは!」


真祖の吸血鬼となり……高らかに声を上げ不気味に笑う聖女……いいや、魔族・ジャンヌの姿がそこにはあったのであった。


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