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290.聖女の終わり


「いやああぁああああ!?」


耳をふさぎたくなるほどの悲鳴が響き渡り、私はようやくこれが現実であることを理解する。


「私たちの体に何をしたの!? そうやってずっと、私たちに汚れたものを振りまいてきたのね……魔族が! 魔族が! 磔よ、極刑……いいえ今よ! 今この場で殺してあげる!魔族は死ななきゃいけないのよ! 死ね! 死ね! 死ねええぇ!」


「やめっ……お願いやめてください!? 私です! ジャンヌです!! 覚えているでしょう、ニーナさん!」


「ひっ! 私の……私の名前を呼んだ!? 呪ったのね! 今私を呪ったのね! この魔族が! 殺してやるわ! 神の名のもとに魔族には天罰を下してやるの!」


「そんな……お願い……」


「しねええええぇ!!」


「ふっざけるなあああぁ!」


再度ナイフが振り下ろされそうになった瞬間に、私はその少女の顔面を杖で殴り飛ばす。


「もごっあが!?」


「シオン……」


「ジャンヌ!? 大丈夫ジャンヌ!」


傷が酷く、白い服は真っ赤に染まっている。


二度目に刺された肩口の傷はえぐれており、刺したナイフを回しながら引き抜いたことは明らかであった……より苦しませるために……。


「あいつ……」


「ひいぃっ!? あ、アンタも悪魔……魔族が二人!? 聖騎士……聖騎士に報告しないと!?」


顔面から血を流しながら、少女は立ち上がり逃げようとする。


ここで逃がしたら、もはやジャンヌは助からない……。


私は杖を構え、決して逃がさぬようにライトニングボルトを放とうとするが……。


「だめ……」


その発動を、ジャンヌは口から血を吐き出しながら止める。


「なんで!なんでよジャンヌ止めないで!? このままじゃ、このままじゃあなたが!」


「だめよ……だって……分かってくれるはず……分かってくれるはずなの……頑張ってきたのよ私……一生懸命みんなの為に尽くして、怪我を治して」


「知ってるよ、だけど……だけど今ここで逃がしたら」


気が付けば……少女の姿は闇夜に消えてしまい、追うことは不可能となっていた。


……この後の流れは簡単だ……ジャンヌは魔族として処刑をされてしまう。


命を助けた相手を殺そうとした奴らだ……ジャンヌを擁護するものなどいるはずがない。


……このままでは、ジャンヌが死んでしまう。


「……逃げようジャンヌ……立てる? クレイドル寺院なら、ウイル君なら助けてくれ……」


助け起こそうとした私の手を、ジャンヌは振り払う。


「ジャンヌ?」


「私は……大丈夫……けがの治療も自分でできるし……きっと、私を助けてくれる人がいるはずだから……」


「そんなのいるわけないよジャンヌ!」


「いるはずよ……いなきゃ、おかしいもの……だって、あれだけ頑張ってきたのよ……腕がなくなった人も、死にかけた人も……いろんな人を助けてきた……何人も何人も助けてきたもの……そうよ……きっと助けてくれる……みんながみんな、変わらないままなんてありえないもの……そうよ、大丈夫……私のやってきたことは……間違いなんかないんだもの……正義じゃなくても、間違ってなんていないんだから」


ジャンヌの目は、絶望にくすんでいた。


自分の頑張りが、信じていたものが崩れ落ちて……。


もはやその理想にすがることでしか、自分を保っていられないのだ。


だけど、そんな状態でなお……ジャンヌは私を気遣っている。


「ジャンヌ……一緒に逃げようよ! 今度は……今度は絶対に一人にしないから」

「あなたに……何ができるのシオン……」


その言葉が、冷たく私を貫く。


何もできるはずがない……。


逃げ続け、愚かなままで……何も変わることができなかった自分が……。


ジャンヌと一緒にいられるわけがないのだ。


だって……どうせ私はまた逃げ出すから。


「みんなの所に戻りなさいシオン……大丈夫よ、私は……みんながいるから」


ぽつりと……先ほどまで雲一つなかった夜空に雨が降る。


ジャンヌの血は止まることなく……私の手を振りほどくと、夜の街を歩いていく。


私は追うことができずに、その背中を……見えなくなるまで追い続けた。


―――――――――――――――。


【こっちか!? 探せ!】


【くそ、視界が悪い……! どこだ! 必ず見つけ出せ! 魔族を! 魔族を殺すんだ!】


【俺たちをだましていた魔族を! 火あぶりにかけろ! 極刑だ、切り刻め!】


【この街に呪いをかけたのもあいつだ! 殺せ! 殺せ! 殺せえ!】


「「「「「殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ!!」」」」


雨の中、私はクレイドル寺院への道を走っていく。


体を打つ雨は冷たく……人々の狂気に道中三度胃の中の物をまき散らしたが……。

それで私は泣きながら……クレイドル寺院への道をひた走る。


すれ違う人々は深夜だというのに殺気立ち……ジャンヌを殺すために鉈や包丁を持って街を徘徊する……だれも、ジャンヌを助けようと言い出す人はおらず……狂気は町を埋め尽くす。


二百年……変わることのなかったこの街は……結局……同じ結末を繰り返す。


「助けてよ……誰か、誰かジャンヌを助けてよ……」


懇願するような声は、雨音にかき消され。


それよりもはるかに大声で、ジャンヌを殺せと人々は語る。


お願い……誰でもいい……誰でもいいから……。


言葉にならない声で懇願を続けながら、私は夜の中を走り回ったが……。


【見つけたぞおおおぉ! 殺せえぇ!!】


そんな私をあざ笑うかのように……そんな声が町中に響き渡った。



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