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283. リューキ達の奴隷解放

「えー、とりあえず皆さまご無事で何よりでございますはい」


「何がご無事で何よりよこのくそ神父! 七面倒くさいもん押し付けた上に、なんであんな奴らの為に私たちがわざわざトゥルーヴァンパイアと戦わなきゃいけないってのよ!? ふざけんじゃないわよぶっ飛ばすわよ!」


「もうすでに何度もぶっ飛ばされて通常の人間なら四回ぐらい死んでるぐらいの大けがを負っていますがそこは私は大人なのでスルーして本題に入ってもいいですかねマスターウイル」


「なるほどね、君がこの状況になってもそれだけ冷静ってことは、この話には何か裏があるってことだね」


「ええ、それはそうですよ」


シンプソンはティズに頭を何度も蹴り飛ばされながらも、にこにこと笑いながら僕たちにそう語りかける。


「……なるほど、何か様子が変だと思いましたが、あの会話の中にも随分と仕込みを仕込んでいたというわけですね」


「伊達にあんちょこ片手にブロードウエイを決め込んだりしませんよ。皆様の為に神父頑張ったんです、お金の為に」


「やれやれ、そのアンデッドって奴は随分な策士のようですね」


「ええ、クライアントしても、軍師としても尊敬に値する人物ですね、何より払いがいい」


「すっごーい、シンプソンさっきから会話がつながってるみたいで、お金の話しかしてないよー」


シオンはあきれ気味に熟睡をするマキナをソファの上に寝かせてそうため息を漏らす。


「シンプソン様、えと。 そろそろ本題を話したほうがいいのでは」


ジャンヌはおろおろしながらシンプソンにそういうと、シンプソンはそうですねとつぶやいてソファに腰を掛け、僕たちもそれにつられるように思い思いの場所に腰を掛ける。


「さて、どこから話しましょうか」


「君がどうしてアンデッドの仲間になっているのかと、鉱物の下見に行ったリューキたちがどうして奴隷解放なんてしてるのかをまず教えて欲しいかな」


「やあやあ、それについてはじゃあ僕からお話させてもらおうかなぁ」


僕の問いかけに、シンプソンが口を開こうとすると、表の扉が開き、聞きなれた声が響く。


振り返るとそこには、手を振りながらやってくる胡散臭い白髪の男、ドリーがいた。


「ドリー……なんで君だけ?」


「僕はれっきとした頭脳労働担当だからねぇ、長い道を歩くなんてことはできないのさ。 というわけでこの街にのこって、君たちをサポートするように頼まれたということさ、もちろん、君たちの選んだ選択肢の助けという意味だけどねぇ」


よっこいしょなんて言いながら、背中に積んである荷物を下ろし、ドリーはそういうと。


僕の隣に座ってにかりと笑う。


「まったく、もしやとは思いますが、こんな面倒くさいことに私たちが巻き込まれたのは」


「もちろん、こんな芸術的なリュートの音色のような策を練れるのは、恐らくどの世界を探したってこの僕ドリーにしかできない芸当だろぅ? さぁ、感動して僕を尊敬してくれてもいいんだよ?」


「とりあえず一発殴っていいですか?」


「それはご勘弁を、頭脳労働担当なので」


サリアの拳をずずいっと両手で控えさせ、ドリーはにこにこと笑いながらその話を続ける。


「そ、それで……リューキさん達がエルダーリッチ―と手を組むことになったいきさつ……ですけど」


「あぁ、それはだね、たまたまリューキたちが侵入した洞窟にエルダーリッチーがいてねぇ、返り討ちにしたところ交渉をもちかけられたのさ」


「なにそれー……」


「まぁ不幸が重なった結果だねぇ。 僕たちも驚いたけど、その交渉内容が意外と真面目な話で、僕たちも聞き入ってしまったのさ」


「……交渉の内容とは? まさかエルダーリッチーがこの街の奴隷たちを解放したいと願い出たわけではありませんでしょうし」


「そうだねー……エルダーリッチーの目的と願いは、あくまでこの街への復讐だったよ」


「復讐、ですか……その、いったいどのような事情が」


「まぁ、簡単に言うと、彼はこの街で迫害されて死んでいった怨念の代弁者なのさ」


その言葉に、僕たちは臓腑が握りつぶされるような嫌悪感にさいなまれる。


「……やっぱり」


しかし、その中でシオンだけは、その答えに対してそんな言葉を漏らす。


「やっぱり? 何か知ってたの?」


「え、あ、いや。 確信があったわけじゃないんだけどね……外の戦場にあった死体……アンデッドも味方の人も……その、~人間~以外の人たちの遺体しかなかったから。


「…………なぜこのタイミングでかはわからないけどねぇ、とりあえずこの街でエルダーリッチーは復讐の為に挙兵をした……なんでリューキに助けを求めたのかはわからないけど、彼の人を見る目は一流だね……何せ、リューキはこの世界の人間とは根本的に考え方が違う……外の世界の人間なのだからね」


「だけど、リューキは復讐には加担しなかった」


「あぁ、復讐なんて興味はないと一蹴してたよ。 あの光景はなかなかに滑稽だったよぉ」


「だが、リューキたちは協力をしたと」


「そうだね……この街の真実を知らされたリューキは復讐には手を貸さないといった。

だけど……そんなふざけたもんがあるなら、そいつらだけは救い出す……そう言ったのさ」


「エルダーリッチーの目的は復讐のはずですが? 逆にそれだとなぜリューキに協力を?」


サリアの言葉に僕は確かにとうなずく。 これではリューキたちが得をして、エルダーリッチーには何の得もない。


だが。


「まぁ、簡単に言ってしまえば……この戦いで一番のネックになるシンプソンを前線から退けるっていうのが大きな交渉カードだったね……エルダーリッチーの怨念たちも、もともと同胞を助け出したいって思いはあったみたいだし、アンデッドは動く死体ではあるけど、怨念事態に迷いがあると士気にも当然影響をする」


「助けようとしていた同胞たちと殺し合っていたわけですからね」


「そういう事さ……」


なんてむごいことを……。


僕は心の中でそう思うが、その感情は僕が吐き出していいものではないと思い、口を閉ざす。


「なるほど、そうしてリッチーはシンプソンの撤退を、貴方達は奴隷の解放を条件に手を結んだというわけですね……何でしょう、交渉という割にはあなた達に得は何もないと思いますけれども」


「もちろん謝礼はたんまりさ、エルダーリッチーは墓荒しが生業だからねー、金銀財宝ざっくざく」


「……到底金銀財宝に見合うほどのものではないと思いますが……彼らはクレイドル教会という大きな敵を作ることになるわけですし」


それだけでなくとも、アンデッドの見方をした冒険者なんて……評判を落とすどころの話ではない。


だが。


「それがリューキの魅力だから……勇者だからね、困ってる人がいるってわかると、どうしようもないのさ……」


何でもないというふうにドリーは笑う。


「尊い……」


そんな話を聞き、ジャンヌはほろりと涙を流してそんなことをつぶやき。


「ばっかじゃなかですかねぇ……」


シンプソンは鼻をほじりながらそんな感想を漏らす。


「はっはっは、確かにバカだねぇあの子は……だけどそれぐらいの大馬鹿じゃなきゃ、転生勇者なんて大それた名前は名乗らないでしょうよぉ」


「まぁそれもそうですね……おかげでその分の報酬は私に舞い込んでくるわけですし! 何より私は~何もしないこと~をすればいいだけですからねぇ! あっはっは! 最高!」


神父のテンションが高いと思ったらそういう事か……。


戦いに参加しないだけで、金がもらえる。


シンプソンからしてみればそれ以上の幸福なことはないだろう。


相変わらずのシンプソンの扱いやすさにため息が漏れそうになるが……まぁ今回ばかりはそれがうまく回ったのだから良しとしよう。


「それで、僕たちはまんまと君たちが奴隷を解放する時間を作るための囮になったというわけだ」


「そこのところは申し訳ないと思ってるよ……だが、リリム嬢は奴隷の受け入れ先から、奴隷たちの逃走ルートづくりを反日で形成し、そこからさらにシンプソンへの交渉等を取り付けたんだ……あちこちに飛んでいて捕まらない君たちを探す時間がなかったんだ」


「まぁそこのところは気にしないわよ……戦いというよりも完全にストレス発散になってたからね、この子たちの場合」


「うおー! あと三回ぐらいはやりたいよー!」


シオンは元気よく腕をぐるぐるとまわしてご機嫌である。


「まぁ、これで僕たちがたどってきた道は大方説明ができたかなぁ」


「ええ、ありがとうございます……色々と突っ込みたいところはありますが、まぁそれは置いておくとして。 それで、これからどうする予定なのですか? ドリー」


現状をとりあえず把握したサリアは飲み込んだようにコクリとうなずいたのち……瞳を少し鋭くし、ドリーを問いただすと。


「そうだねぇ、とりあえずこれからの話だけど……君たちに選択を迫るつもりだよぉ」


ドリーは不敵な笑みを浮かべてそうつぶやいたのだった。


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