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274.聖王都防衛戦


「襲撃に備えろぉ! 準備を怠るな急げ急げ!」


「バリケードが足りないぞ! 急いで補強するんだよ!」


「……昼間とは違って、みんな殺気立ってるわねぇ」


穏やかなる街並み広がる聖都クークラックス。


しかし、夜の姿はまるで未だにこの地域だけ戦場であるかの如く怒声が上がり。


人々が武器を手に取りせわしなく南門前を縦横無尽に駆け回る。


「……アンデッドを街に入れるということは、大惨事を招くということですからね。

その恐ろしさを知っているからこそ、これだけの緊張感を生み出しているのでしょう……アンデッドに殺されてしまえば、その人はもう生き返れないのですから】


そんな様子を見ながら、ティズとサリアはそんなことを互いに言い合い。


僕も一つうなずいてホークウインドの柄に手をかける。


「……ウイル君~そんなに心配しなくても大丈夫だよー! スーパーシオンちゃんバリアがあるんだから」


「マキナレプリカ・はくげきすぺしゃるぅもあるからな! 心配しないでいいぞ!」


胸を張るマキナとシオン。


珍しくも頼もしく映る二人に僕は少しだけ心の荷が軽くなるのを感じるが、僕の不安は町の防衛だけではない。


「……カルラ、危なくなったら」


「分かっていますよ、ご主人様。 危なくなったらすぐに逃げてきます。 ウイル君に設置したテレポーターの魔法はそのためでもあるんですから」


にこりとカルラは笑い、僕に無理はしないと約束してくれる。


過保護とか心配性と笑われるかもしれないが……まだカルラには、自分の身を犠牲にしてでもという考え方が残っているような気がしたから、不安を抱いていたのだが。


そんな僕の稚拙な考えは、聡明な彼女には見抜かれてしまっていたらしく。


僕の不安を拭うかのように、カルラは僕の手をそっと取って微笑む。


「……せっかく、貴方のそばにいられるのに……簡単に手放すわけないじゃないですか」


「ごめん……つい……信用してないわけじゃないんだけど」


「心配性なんですから……」


そう呆れたようにはにかむ彼女の言葉に偽りはなく、僕は軽く謝罪をしてカルラを送り出すことに決める。


「マスター……刻限が迫ってきています。あと数分で、アンデッドの活動開始時刻かと」


「分かった……じゃあカルラ、サリア……頼んだよ」


「お任せを!」


「最後の砦はお任せください、マスター!」


サリアはそういうと、門の前で僕たちを見送り。


元気よく声を張り上げ、カルラは、そのまま僕の影の中に沈んでいく。


なるほど、そういう使い方もできるのね……。


なんて僕は思いながらも。


「シオン、マキナ……いくよ」


後ろで控えている二人を連れて、決戦の舞台へと歩を進める。


門の前に打ち捨てられたあいも変わらずにそこに放置された無残な死体。


彼らの無念の為にも、この聖王都の扉は絶対に死守をする。


「……」


ホークウインドを抜き……時間までまつ。


アンデッドは太陽が完全に落ちるまで姿を現すことはない……。


空を見ると、茜色の空はすでに闇夜を連れてきている。


「…………ご武運を、ウイル殿」


門を抜けると、聖騎士団の人たちん声をかけられ。


僕は軽く会釈をして、先へ進むと。


「…………」


そこにはピエールが言っていたように、黒騎士団が控えていた。


「やあ、よろしく……」


少し隊から離れたところに立つ黒騎士軽く声をかけるも、黒騎士団は特に反応をするでもなく、息を漏らすのみで、声を出すことはなかった。


「……あによ……少しは愛想よくできないのかしら」


「君がそれを言うのかい?」


「どういう意味よ!」


噛み付くように僕に食い掛るティズに、僕はもうそれ以上は何も言わずに肩をすくめるのみにしておく。


緊張の一瞬。


太陽はゆっくりと沈んでいき、山の向こうに姿を隠すと……一瞬にしてあたりが闇に包まれる。


「点火ああぁ!」


聖騎士団の騎士が一人大声を張り上げ命令をすると、上空に魔法が放たれる。


空で輝くその光は、第一階位魔法~ヨーミエルワ~浮遊する光源を生み出す魔法であるが、無数の光弾が聖王都の戦場に打ち上げられ、大地を赤い光ではなく白い光で覆う。


「……たーまやー!」


「かーぎやー! あはははは!」


アンデッドがまだ現れていないとはいえ、これから戦闘が始まるというのに、どこか緊張感に欠けるシオンとマキナ……。


僕はそんな二人に一抹の不安を覚えながらも、とりあえずはアンデッドの同行を見守る……。


と。


「敵襲!! 第二北門方面にアンデッドの影あり!」


「報告します! 第一東門! アンデッドの大軍が洞窟より押し寄せている!」


「お、同じく!! 西門観測所! 第二第三ゲートよりアンデッドの群れを補足!

恐ろしい数です、こちらの戦力だけでは五分と戦線を維持できません!!」


「馬鹿な!?」


聖騎士団の指揮官は驚愕の声を漏らし手に持っていた遠見の眼鏡を投げ捨てる。


「どういうことですかウイル殿! 敵をこちらに誘導すると言っていたのに! これでは、三方からの同時攻撃ではないですか! しかも警備は手薄です! 突破されてしまいます! どうしてくれるのですか!」


まぁ、彼の怒りはもっともであり、僕は説明責任がうまく果たされていなかったことに一つ反省をし。


「まぁ落ち着いて……言ったでしょ? 今からここに集めるって」


「集めるって……」


「死にたくなければ大人しくしていてください……兵士さん……でないと、内臓がおなかに戻らなくなるくらいに大けがしちゃいますよ? 痛いですよ?」


「ひっ……」


恐らく彼の安否を気遣って放たれたカルラの台詞だろうが、彼を黙らせるには十分な脅しの効果を放ったようで、彼は怯えた様子でカルラに言われた通りに黙りこくる。


まぁ、素直にしたがってくれたほうがけが人も少なくて済むので僕はとりあえずは何も言わず。


メイズイーターレベル4を起動し、聖王都防衛戦を開始する。


「兵たちには決して前に出ないように伝えてください……」


「おっ始まるんだなーウイル! 模造なれど確かなる神の力を見せつけてやるぞー!」


「スーパーウイルシスターズの力を見せつけてやるんだよー! ちなみに私がお姉ちゃんで、マキナちゃんが妹ね」


「はいはい、そろそろ闘技場を作るよ……準備は?」


「「万端!」」


元気よく返事をする二人はまるで兄弟の様であり、マキナとシオンは聖都全体を包み込むほどの膨大な魔力を放出する。


その膨大な魔力に、黒騎士隊は少し身じろぐようなものたちもいたが……しかし以前彼らは声一つ上げずに静観をしている。


反面。


「ちょっと! こんなところで魔力放出して何になるんですか! 敵はこの場所を避けて四方から攻めてきてるんですよ!?」


何もない更地にて戦闘準備を始める僕たちが、気が狂ったのかと思ったのか、先ほどまで脅しに屈して黙り込んでいた黒騎士隊を先導する聖騎士も耐えられないとばかりに喚き散らす。


「大丈夫です……後三秒です」


そんな聖騎士に、カルラは落ち着き払い、敵を見据えるかのように戦場となる更地を見つめて聖騎士にそう言う。


「三?」


「二秒」


「ちょっと、なんですか? 三秒って」


「一」


「ねえ!」


状況が読めずに、慌てふためく聖騎士をしり目に、シオンとマキナは口元を不敵に釣り上げながらカウントダウンを進め。


「オーバーメイク!!」


それと同時に僕はメイズイーターにより大闘技場を作り上げる。


迷宮三階層のほとんどの壁を使用して作る、大きなキューブは、聖王都の四分の一ほどの広さの面積を囲い、外壁の高さ十メートルほどの窯を作る……。


意図的に黒騎士隊は巻き込まないように壁を作ったのだが……。


「なっあっえ? 壁? すご……いやいや、こんなものこんな何もない所で作ったって意味は……」


どうやら、運の悪いことにカルラの忠告を聞かずに僕たちに食らいついていた聖騎士はこの闘技場にて死者と戦う戦士の一人となってしまう。


「無駄話もそれぐらいにしておいた方がいいよ……聖騎士さん……何せ、貴方も含めて五人で、これを相手にしなきゃいけないんだからね」


「はぁ? なにをいっ……」


スキル発動中に現れる光が僕の手から消え、高さ十メートルの外壁を持つ闘技場が完成したことを告げる。


瞬間。



【ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!】


「ぎゃああああああああああああああああああああでたあああああああああああああああ!?」


聖王都を覆うように現れたアンデッドすべてが……一度にして目前の闘技場へと召喚され……アンデッドの悲鳴と聖騎士の絶叫が見事なハーモニーを奏でて闘技場の歓声の代わりとなった。

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