268.ジャンヌとシオン
「どうぞ、ミリスの葉で淹れた紅茶です」
そう微笑みながら僕たちにお茶のカップを渡してくれるジャンヌ。
「あ、ありがとうございます」
「おー、美味しそうだ! それにすごーいいい匂いするぞ! なんだこれ! 香水入れたのか?」
生まれてからずっと迷宮生活であったマキナにとって紅茶というものはかなり珍しいものらしく、パタパタと 足をぱたつかせながら、ルビーのような色をした紅茶を観察する。
「ちがうよー? これはねー紅茶って言うんだよー。すごいでしょー、ジャンヌは私の炎武と同じで、ユニークスキル、水槽楽っていうスキルを持ってるからねー! 最高の水によるサイッコーの紅茶を入れられるんだよー!」
「こらこらシオン、大げさに言いすぎですよ、確かに水を操るスキルは持っているけど、味までは操作できません」
はにかみながら少し照れたような表情を見せるジャンヌ、美しい聖女の微笑みに僕は少し見惚れながらも、シオンの言葉に偽りがないかを、ティーカップに口をつけて確かめてみる。
「ーーーーーーんっ」
言葉を失う。
口の中に広がる柔らかな感触。
液体でありながらもそれは僕の口の中でとろけ、しみこんでいく。
「はにゃあー!!? 紅茶すごーっ!? マキナ、絶句! いい意味で!」
驚愕の言葉を漏らすマキナであったが、その表現と感想大げさでもなんでもなく、その紅茶はその場にいる誰もを魅了し、虜にした。
なるほど、高位の魔法使いが生み出す水は本当に美味しいとドライアドたちが言っていたが、その言葉は嘘偽りなかったということだろう。
僕は感心しながら、一息をついて改めて聖女ジャンヌへと視線を戻す。
隣にいるシオンは、まるで姉に甘える妹のように幸せそうに微笑んでジャンヌの隣に寄り添っている。
なんでこんな仲良しなのに会うのを怖がっていたのだろう。
僕はそんな疑問を抱いて、用意されていたこれまた美味しそうなクッキーにてをのばすと。
「皆様には、感謝をしてもしきれません・・・もう二度と会えないのかもと思っていた大切な親友にまたこうして会うことが出来るなんて・・・やはり、シンプソン様は奇跡のお人なのですね」
「あいつの手柄になるのはなんか納得いかないわね」
紅茶を楽しんでいたティズはその発言に少しムスリとした表情を漏らしてそういうが、僕はそれをなだめて話を続ける。
「なんか、シオンが随分と会うのを躊躇っていたけど、それはなんで?」
「それは、この子の思い込みです。ほら、この子はなんでも背負いこんでしまうでしょう? この子、私達が離れ離れになったのを、今でも自分のせいだと思い込んでいるんですよ。 別れる瞬間・・・悪くもないのに泣きながらずっとこの子は泣き続けて。 でもその時私は、この子に貴方のせいじゃないわって伝えられなかったの。 それがずっとずっと後悔してて・・・本当に、会えて良かった」
また少し瞳に涙を含ませながら、ジャンヌはそう語る。
何があったのかを意図的に隠すようなその話し方は、気にならないといえば嘘になるが、その何か・・・が、彼女たちにとって辛い過去なのはその場にいた誰もが読み取れたために、僕たちは深く追求をすることなく、二人の再開祝福する事にする。
「でもまさか、ジャンヌが聖女様になってるなんてねー!」
「はじめは、ただ困ってる人の傷を癒してただけなんだけれども、気がついたらあちこちからひとがあつまってきちゃって」
「昔から回復魔法はとくいだったものねー!」
「回復魔法・・・・・・そっかー」
マキナは興味なさげにお菓子に手を伸ばし、もしゃもしゃとクッキーを食む。
「ええ、特技を生かせるし、皆さんを助ける事ができて、とてもやりがいがあるんです。 皆さんもよくしてくれますし」
ニコニコと笑う少女。
町の人気者、そんな少女の一言一言にシオンは祝福をするかのように少女を超える笑顔で笑みをこぼす。
「良かったよージャンヌ! 良かったよー!!」
「はいはい、貴方はどうしてたのシオン? 貴方に子んな素敵なお友達ができたなんて。 少しはお淑やかに出よなったのですか?」
「えへへ、全然!」
幸せそうに楽しそうにシオンはそう笑い、ジャンヌはそんなシオンに呆れたようなため息を一つ漏らしてぼくたちに深々と頭を下げる。
「本当にシオンをありがとうございました。 心より、心より、感謝を」
どうしよう、すごいいい人だ。
まさに常識人であり、誰もが憧れてしまいそうなほど女性らしいすがた。
そのすがたにはティズも。
「わ、私に迫るほどの可憐さだわ」
などと世迷言をいいだすほどであり、僕は慌てて立ち上がり、頭を下げる。
「いえいえ、こちらもシオンにはすごいお世話になっていて」
「迷惑とかかけてないといいけど、ほら
この子時々抑えが効かない時があるでしょ?」
「いえいえ、シオンの魔法には助けられてばっかりですよ。 それに、今では王都リルガルムの人気者です、偉大なる魔法使いとしてね」
「そうなの?」
「まあ、偉大かどうかはさて置いてだけど、アンドリュー軍の大軍を焼き尽くして、おまけにアンドリュー軍の幹部が泣いて逃げ出すほどの戦いをして見せたわ」
「それに、サリアに魔法を教えてくれしね」
「魔法を?」
ジャンヌは驚いたような表情をしてシオンを見つめ、シオンは照れるような素振りを見せた後。
「私にもいろいろあったんだよー」
そう締めくくった。
それはどこか誇らしげで、ジャンヌは少しだけそんなシオンに寂しそうな表情を向け。
「そう・・・頑張ったのね、シオン」
多くは語らず、そう、シオンの頭をなでるのであった。
「とっても頑張ったよー」
「それで、シオンもアンデッド討伐に参加するの?」
「まあねー! いまからアンデッド対策のために、スーパーシオンちゃんバリア 国防バージョンウイル君スペシャルを張りに行くんだよー」
「シオンねー! マキナの名前! マキナの名前がないぞ!」
「そっかー! じゃあ、スーパーマキナシスターズ 国防 ウイルアンドシオンスペシャルエディションだねー!」
「相変わらずのネーミングね。 まぁ名前は置いておいて・・・そう、あのアンデッドを討伐するのですね?」
その表情は少し複雑そうであり、僕は首をかしげる。
「なにか問題があるんですか?」
「えっ? い、いいえ! ただ、強大な敵なので怪我でもしないか心配で。 で、でも大丈夫ですよね。 シオンはすごい強くなったみたいですし、それに、シンプソン様もいるのですから」
ジャンヌは心配症なのは悪い癖なんです、と舌を出して苦笑を漏らす。
美しい。
「まっかせておいてよー! ジャンヌも最近はアンデッドのせいで怖い思いしてたんでしょー! 私がドバーッと解決してあげるからねー!」
「えぇ、そうねシオン。 ありがとう・・・そうね。 きっとこれも、運命なのかも知れないですね」
その時、一瞬だけジャンヌは悲しそうな表情を見せた。
きっと本人でも気づいていないような、その悲しい表情。
一見、先の言葉は友との運命に感激をする言葉に聞こえるが。
僕は何故だか他に意味があるような、そんな気がしてしまった。




