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258.白いイスと黒いイス

「お待ちしておりました、シンプソン・V・クライトスさま、クリハバタイ商店店長代理リリム・ザ・ベオウルフ様……リルガルム王、ロバートからお話は

うかがっております……ようこそ聖都クークラックスへ」


「はいはいー! お世話になります! 来たくはなかったですけどね!」


正門前にて、僕たちは城主の元へと向かうために、クークラックスの正門へと向かい、正門にて立つ兵士の人に話しかけると。


既に話は通っていたらしく、リルガルムのギルドカードを見せるだけですんなりと入国が認められた。


「……あれ? 私も?」


「はい、先日レオンハルト様より一報がございました……シンプソン様ご一行には城主様の元へと向かう馬車を……リリム様ご一行は我々が宿までご案内をする手はずになっております……しばしこちらでお待ちを……」


「城主様とは関係のない仕事なのに……」


きょとんとしたような表情をしてそうぽつりとリリムは呟き……。


はっとした表情をして僕の方をみる。


「ウイル君……もしかして」


黙っておこうと思ったけれどもやっぱりばれたか。


「シンプソンの護衛につく任務にあたるって報告をするついでにね……」


ばれてしまったのでは、特に黙っている必要性も感じられなかったため、僕はそうすんなりと白状をする。


「そうだったんだ……ありがとう、ウイル君」


「馬車の手配もしてもらったからね」


僕はそんなリリムにウインクをして笑いかけると、リリムも微笑んで肩をすくめた。


「俺たち、あちこちの国回ってるけど、こんなにすんなりと入国審査が終了したの初めてだぜ……ロバート王すげー」


「いうなれば伝説の騎士様様ってところね……そういえば、伝説の騎士さまは今回の旅についてきていないの?」


エリシアはそういえばと思い出したように僕たちにそう聞いてくる。


「フォースは鎧を脱げなくて場所をとるからね……僕たちとは別に、遅れて到着する予定……リルガルムで仕事もまだ残ってたみたいだから」


「そうなんだ……まぁ、そうなんだろうなとは思ってたから、何も聞かなかったんだけど……伝説の騎士も大変ね」


もはやフォースに関することで、嘘をつくことに抵抗はなく、僕はさらりと出まかせを披露すると、エリシアも特に疑うことなく納得した表情でうなずく。


「……お待たせいたしました、シンプソン様……馬車がまいりましたのでどうぞお乗りください」


談笑の最中、正門の兵士の言葉に聖都に伸びる道を見やると、モハメドのタクシーとはまた違った白馬と、白と黒で作られた馬車がやってくるのが見える。


「……随分と、なんというかすごい馬車ね」


「この聖都自慢の馬、聖なるクレイドル神の加護を受けた馬のみで構成された、城主と教会関係者しか決して利用することが許されない馬、その名も! セイント聖b……」


「言わせないわよ?」


ティズは兵士の言葉を遮るように兵士のヘルムを口元まで下げる悪戯をする。


「こら、何やってるんだティズ」


「私はこの世界の終末を防いだだけなのよウイル」


「またわけのわからないことを言って……」


「はっはっは……いいんですよ、妖精の悪戯はクレイドル神も尊きものとして扱われています……妖精は癒しを体現する生物……つまりは神に等しき種族と我々は尊んでいます、つまり、妖精の悪戯は我々にとってはむしろご褒美で……」


「おぉ! 知ってるぞ! ちっちゃいこにいたずらされて喜ぶ! ロリコン!」


「こらマキナ!?」


どういう意味かは分からないが、なんとなく失礼なことを言っているのはわかったので、僕は慌ててマキナの口をふさぐ。


なんとなく、目前の男の人が恍惚の表情を浮かべているような気がするが、僕はとりあえず馬車に早々に乗り込むことにする。


「じゃ、じゃあ、僕たちはもう行くから! また後でね、リリム!」


「うん……気を付けてねウイル君」


「また後でな、サリア、シオン、カルラ」


「ええ、一緒に酒場での乾杯を楽しみにしていますよ、リューキ」


「じゃあねーおししょー! 魔物にたべられないよーにー!」


「大丈夫大丈夫! ここは立派な盾がいるからねぇ」


「お前、今日はパーティーの最前線な……」


「おや、それは困ったな……ここは素直にシオンさんのパーティーにとんずらを……」


「そしたらー、アンデッドの餌にするよー」


「あれ、もしかしなくても私、嫌われてるのかい? いやそんなはずはない! なぜなら私は愛されキャラだって自覚があるからね! ねえ、カルラくん!」


「え?」


「おっとぉ、藪蛇だったかな。 これ以上は黙っていたほうがいい気がしてきたぞぉ?」


「あ、ご、ごめんなさい……でもその……ドリーさんにはあんまり、興味が無くて」


「ごっふ……黙ってても追い打ちきた」


「辛辣なカルラ殿も……素敵だ」


「はいはい……馬鹿二人もさっさとこっち来る……」


エリシアに引きずられ、ドリーとフットはずるずるとリューキとリリムの元へと連れていかれ、僕たちはその光景に笑いあいながら、馬車に乗り込む。


「おー! 不思議な色―!」


黒と白のコントラストで覆われた不思議な馬車のなか。


その中はとても広く、中には一人の執事の様な男性が立っていた。


「お待ちしておりました。 わたくし城主であるピエールの執事を務めております……ジョフロアと申します……ご無沙汰しておりますなぁ……シンプソン様」


深々と一つ礼をしたジョフロアと名乗る執事は、懐かしそうな笑みを浮かべると。


「ジョフロアさん、どうもお久しぶりですねー! ピエールの奴は今も元気にしてます?」


「ええ、アンデッドの大軍が現れてからというもの……毎日扉の修理と窓ガラスの修理に追われる毎日でございます」


「相変わらずですねぇ!」


にこにことシンプソンは笑うと、白い座席に腰を下ろす。


よく見ると、馬車の右側と左側で座席の色が白と黒で異なっていた。


「ええとではですね、シンプソン様とウイル様……シオン様とカルラ様はこちら白い座席に……そして、サリア様とティズ様、マキナ様は……こちら黒い座席にお願いします」


「一人ひとり席の指定もするなんて、随分とVIPな待遇ね!」


「…………」


ティズは嬉しそうにそうはしゃぎながら、サリアの隣に座り、僕たちも指示をされた通りに席に座る。


「皆様、席にはおつきになりましたか? それでは出発いたします」


席に着いたことを確認したジョフロアは、そう一度僕たちに告げると、馬車の運転手に合図を送り、一つ鞭の走る音と、馬のいななく声が聖都の正門に響き……ゆっくりと、馬車が走り出したのであった。


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