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256.ぶれないシンプソン

「す、すごーい!? う、ウイル君のスキルを奪っちゃったってこと!」


馬車の中でアイスエイジを披露したリューキに対し、一同が驚愕の表情を浮かべるなか、真っ先に声を上げたのはシオンであり、その手を取ってきゃっきゃとはしゃぐ。


「スキルグラップ……確かに我々エルフの創造主、ミユキ様から授かったスキルというのもうなずけるほど強力なスキルです」


「ああ、ちなみにスキルグラップでスキルを奪われた人間は、スキルを奪われている間スキルを使用することができなくなるんだ」


「何よそれ!? ほぼ一対一の戦いじゃ負けないじゃないの!?」


「えっ!? ていうか今僕スキルゼロの最弱冒険者に逆戻りって事!? ちょっ、スキル、スキル帰してよリューキ!」


「あっはっは……安心しなさいよウイル! そんな心配しなくても戻ってくるから……アンタも説明が少なすぎるのよバカリューキ」


「いいじゃねえかよ、驚かせた方が気持ちがいいだろう?」


「その美的センスは賛同しかねる」


「行ってしまえば、趣味が悪いといえるねぇ、リューキ」


「なるほど、その言い草だと他人のスキルを奪うのには制限があるということですね」


サリアは会話の内容から、そう分析をし、言い争いを繰り広げるリューキのパーティーにそういうと。


「ご名答! このスキルグラップ、確かに任意の人間のスキルを自由に奪える優れものなんだけれど」


「制限時間が三十秒とかなり短い……」


「しかも、相手の体に触れないと発動ができないっていう条件付きなのよねぇ」

「あぁ、あと、ユニークスキルの様な特殊スキルは奪えないし、その存在を知ることもできないって言ってたよねぇ、リューキ……なかなかの欠陥品じゃないかなぁ?」


「う、うるせーやい!? これでもなぁ! 最初の五秒よりかはすごい長くなったんだぞぉ!」


「なるほど……制限時間と発動条件に難ありと……」


「なによ、すごいと思ったけどあんまりすごくないじゃない」


「うるせーやい!」


「まぁまぁ、リューキ……アンタのスキルのそんな残念な所が、アンタらしくてあたしらは良いなって思ってるから!」


「そうだぞ」


「だねぇ」


「フォローになってねえし!」


あははと笑いながら、リューキのパーティーは楽しそうにリューキをからかって笑いあう。


「なんだか、私達とは少し違った仲良しさんだよねー、リューキたちってー」


そんな様子を眺めながら、シオンは少し羨ましそうな表情をしてそんなことをつぶやく。


「そうだね……まぁ、それはほら、ウイル君がどっちかっていうとおっとりしてるからじゃないかな? ほら、あんまり人の事からかったりしない優しい人でしょ? ウイル君って」


「おぉ! リューキはお馬鹿でウイルは優しい! すごいわかりやすい覚え方だ!」


「おいちびっこ……転生前の世界の知識を馬鹿にするなよ?」


「えー? でもミユキおねーちゃんやクレイドルおねーちゃん……もともとあっちの人だし」


「なっ!? お前あの無反応ヒューマノイド女神の知り合いなのかよ!?」


「ミユキおねーちゃんは色々教えてくれるぞ! 萌えとか、びぃえるとか! 男の子同士でキスをすると、びぃえるになるんだぞ! そして、女の子同士でキスをすると、ユリになるんだ! 知ってたかリューキ?」


「あんのオタク女神!? こんな年端もいかねえ子供に何ちゅーもん教えてんだ!?」


「え、えと……マキナちゃん……そ、そこのところ詳しく教えていただいてもよろしいでしょうか!」


なにやら別の次元の魔法の呪文のような言葉に、うちのカルラが食いついた……。


なんだかわからないが、一度止めておかないと、カルラの成長に多大なる影響を与えてしまいかねない気がする……。


僕はそんな不安を抱えながらも、マキナにびぃえるとゆりについての講義を受けるカルラの楽しそうな興奮気味な表情を見ると……どうしてもダメとは強く言えない自分がいる。


「ふふっ、本当に、リューキさんもウイル君たちも昨日あったばっかりなんて言うけれども……まるで昔からの友達みたいに仲がいいんだね?」


「と、友達……たくさん増えました?」


「もっちろん、あたしたちとっくに友達でしょ? むしろ、友達じゃないなんて言われたら悲しいわよ」


「わっ、ご、ごめんなさい……えへへ」


エリシアはカルラにそう悪戯っぽく微笑んでいうと、カルラは嬉しそうにはにかみながらマキナを抱き上げる。


「マキナちゃんもお友達増えましたね?」


「おー! 友達たくさん!! マキナ、生まれてきてよかった!」

笑い声があふれるモハメドのタクシー内。


新たな友人と仲間の登場に、その場にいる誰もが喜びに浸っているなか。


「あの~……その中に私もしっかりと入ってるんですよね~~!」


荷台の方から、なにやらシンプソンの様な声が聞こえた。


「あのー! 仲のいいお友達がですねー! 現在絶賛荷台でかぼちゃと一緒に揺られてるんですよー! お尻がすごい痛いんですけどー! なんで私荷台なんですかねー? というか、私の護衛なんですよねみなさーん!? 私……荷台にいるんですけどー!」


「しょうがないじゃない馬鹿神父―! 正式なるじゃんけんで決まったことなんだからー! 次の休憩で交代してあげるから―! 今はしっかりと我慢しなさーい!」


「あ、はーい! で、次の休憩まであとどれぐらいなんですかねー!!」


シンプソンの悲痛な声に、僕は馬車の運転をしている人の所に顔を出す。


モハメドのタクシー運転手。


モハメド・クロス。


副業で占い師をしているらしきその人物は、運転手と占い師とは思えないほど屈強な体を持っており、僕は恐る恐る声をかける。


「……あのぉ、すみません……」


「イエス? どうしたんだぼーい」


どうにも渋いしゃべり方である。


「次の休憩って、あとどれくらいになるんですか?」


確か、聖都まではヴェリウス高原をとおったとしても、丸一日かかるという話であったため……そろそろ中腹辺り……休憩を挟むと思うのだが。


しかし。


「おー? お前さんらモハメドのタクシーのすごさ知らねえな? モハメドのタクシーは豪華と速さを売りにしているスペシャルな馬車だ! 休憩なんて必要ないさ!このまま聖都まで走り続けるぜ!! ふぉーーう!」


「……あ、そうですか……ありがとうございます」


「いいってことよ!」


独特なしゃべり方をする人だが、悪い人ではないらしく、モハメド・クロスさんは親指を一つ見せると、真っ白な美しい歯を見せてにかっと笑う。


僕はそんな彼に苦笑いを返して、客席に戻る。


「……どうでした? 休憩はどれぐらいになると?」


「……このまま聖都まで真っ直ぐ行くって」


「アラー」


シオンは無表情のままそう呟き。


「わ、私が変わってきましょうか?」


聖人君子カルラはそっと席を立とうとするが。


「いいわよそんなことしなくて」


「どうするのです? ティズ」


「シンプソンの扱いなんて簡単でしょうに」


ティズはそうやれやれとため息を漏らし、荷台の方へと飛んでいき、シンプソンへと声をかける。


「……ちょっと神父―! 聞こえるー!」


「あ、! はいはい! どうしました!?」


「休憩ないみたいだから―! 馬車代はあんたの分いらないから! そこにいて―!」


「あ、分かりましたー! 喜んで―! お構いなく―!」


荷台から、シンプソンの嬉しそうな声が響き渡り。


「「「「いいんだ」」」」


リューキのパーティーは口をそろえてそうつぶやいた。



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