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254.リリムが同行することになった!


しばらく、僕とシオンは会話を続け、旅行についてどうするかを話し合った。


「……つまりは、行くのは怖いけど、行きたくないわけではないんだね?」


「うん……あっちには会いたい人もいるから」


「そうなのか……でも行くのは怖いんでしょう?」


「すごく……でも、ウイル君が一緒なら」


「ああは言ったけど、シオンが手も足も出ないような魔物がいるんだったらどうにもできないぞ?」


「大丈夫……うん、魔物とかじゃ……ないから」


シオンは少し考える様な素振りを見せてそういうが。


「いいんだよ? そんな長い旅にはならないだろうし……お留守番していても」


「それは……やだ……ウイル君がいないの寂しい」


「随分と乙女チックなことを言ってくれてうれしいけど、炊事洗濯が面倒くさいだけって顔に書いてある」


「ばれたかー」


「やれやれ」


小指は絡んだまま、シオンはだんだんと落ち着きを取り戻したのか、いつものように笑顔を振りまいて冗談を零す。


そんなシオンの様子に、僕はもう大丈夫だろうと判断をし、小指を解いて立ち上がる。


「……そろそろ行こうか……うるさい妖精がきっと角生やして待ってるから」


「そだねー!」


にこにこと笑うシオンに僕は笑いかけ、僕はテレポートの罠で、サリアたちが待つクリハバタイ商店に戻っていくのであった。


                     ◇

「あ! ウイル君! いらっしゃいま……」


「あら……随分と……遅かったじゃ……ないの!」


クリハバタイ商店にシオンと共に戻ると、いつも通りのリリムの麗しくも心安らぐ声ではなく、見るからに不機嫌そうなティズの顔面が僕の眼前に近づいてきた。


「いやーごめんごめん……ちょっとシオンに聞きたいことがあってねー」


「……聞きたいことぉ?  セクハラじゃないでしょうね? もしくは告白? だったらあんたのことを殺して私も死ぬんだからね」


「ティズ、それだと死亡するのはティズだけかと」


「うっさいわね! とりあえずそんなことはなかったのよね!」


「なかったよ、なかった! 神に誓うよ……」


「マキナちゃん辺りにねー」


「おー! そういえばマキナは神様だったよーレプリカだけどね、うっかり忘れてた! で、なになにー? 誓いの言葉? 破ったら内側から散弾銃がはじけ飛ぶようにすればいいのか? マキナ爆発と爆裂は得意だぞ!」


「ちょっ、だ、だめですマキナちゃん……まだ、頭のリボンが結べてないから……あぁ!?」


脇からひょっこりと現れたマキナは、カルラのコーディネートにより、麻の服ではなく、可愛らしいどこにでもいる女の子へと姿を変えていた。


元気いっぱいのマキナの行動を阻害しないためか、肩とおへそを出した白と赤を基調にしたトップスに、太ももを大きく出した短パンを履いている。


なんとも快活なマキナにぴったりな衣装であるが、チャームポイントなのか、オレンジ色の可愛らしい無地のリボンが、マキナの白髪に太陽のように燦々と輝いている。


まるで、太陽の様な衣装だと、僕は思い。


「うん、似合ってる……動きやすそうだね」


僕は思ったままの感想を漏らす。


「おー! ウイルも気に入ってくれたみたいだ! じゃあマキナこれにする! 天の羽衣は汚れないし丈夫だけど、いっぱしのれでぃーには少しばかりセンスが足りないからな! もうマキナは大人なのだ!」


「おなか冷えてしまうのでは?」


「実はこのトップス! アリアドネの糸で編まれた洋服で! 長さは自由自在なのです!」


そう言ってカルラが洋服を引っ張ると、すぐに太ももぐらいの長さまでトップスが伸び、そのままの長さにとどまる。


「短い方がマキナいい! せくしーだから!」


戻すのも簡単らしく、マキナは洋服を上に引っ張ると、トップスはまた同じ高さまで戻っていく。


「どうだウイル! のーさつされたか!」


「うん、とっても似合ってるよ」


「きゃっほー!」


どういう魔法なのかはわからないが、すごい技術だ……さすがはクリハバタイ商店。


「ふふふ、おませさんなんだから……ウイル君、あの子誰から預かったの?」


リリムは苦笑を漏らしながら僕の隣にやってきて、騒いでいるカルラとマキナを見つめながらそう問うてくる。


「あぁ、そういえばリリムは初めてだったよね……話せば長くなるから今度ゆっくり話すけど、とりあえずはしばらく家で預かることにした子供といったところかな」


「ふふふっ……そう、ウイル君ってば本当に女の子ばっかり仲間にするんだから」


「え!? いや、そういうつもりじゃなくて、気が付けばというかなんというか」


「冗談だよ……それにしても、いきなり旅行に行くから必要なものをよこせってティズさんが押し寄せてくるから驚いちゃったよ、随分と急だったから、こっちも内容を聞いてないんだけど、どこに行くの?」


「え、ああ。 行先は聖王都クークラックスっていうところで……なんでもアンデッドの群れがそこを襲撃しているらしくて、国から緊急な応援要請がシンプソンに届いたんだ……それで、その護衛として僕たちも急きょ同伴することになってね」


「聖王都? ウイル君聖王都に行くの?」


行先を聞くと、リリムは耳をピコンと立ててそう驚いたような表情をする」


「そうだけど、何かあるの?」


「いや、私もお仕事で、明後日からちょうどそちらに向かうことになってたの……」


「そうなの?」


「あんた、その犬耳で盗み聞きして計画を立ててたりしてないでしょうね」


「そんなことはしてないよ! 今回は本当に偶然……私のはずっと前から決まってた遺跡の調査だから」


「遺跡?」


「うん、かつて英雄王ロバートが攻略した迷宮……アクエリアスの迷宮にね」


「……アクエリアスっていうと……かつて大水害で国を三つ滅ぼしたあの?」


「そう、世界の海と水すべてを操ることができるとされた災厄の魔女にして魔族、アクエリアス……そんな彼女が残した遺跡で、貴重な鉱石が発掘できることが分かってね……」


「そうなんですか」


「うん……それでその鉱石の純度の高さを調べるのと同時に、うまく交渉して取引ができるようにする予定なの……その鉱石って、武器や防具に使用するのにすっごい適した鉱石なんだ……ウイル君のホークウインドもそれが使われてるんだけど……手に入れるのがすごい難しくてね……でも、それが恒常的に入荷できるようになれば、私の仕事もどんどん増えて行って鍛冶師としての名もあがるってわけ!」


「本当、抜け目ないわよねぇ」


リリムの抜け目なさにティズはため息を漏らし、僕はそんな頑張り屋なリリムに微笑む。


もっとリリムの夢がうまくいくといいと常に頑張り続ける彼女の姿をみると心から願ってしまう。


と。


「あ、そーだ! ウイル君たちって、もう馬車の手配とか済ませたの?」


「え? いや、まだだけど」


「そうなんだ! だったら、私が手配した馬車にみんなで乗っていかない? 私が護衛を依頼した冒険者さんも一緒になっちゃうんだけど……それでも良ければ……なんだけど」


「こっちにはマキナもシオンもティズもいて騒がしいけどいいの? それに、狭くない?」


「うん、モハメドのタクシーっていって、すごい大きな馬車だから全然大丈夫だよ……店長ったら、馬車の中で御尻が痛くなったら大変だとか言って、すごい大きな馬車を予約しちゃって……どうしようかなって困ってたぐらいだもん」


「あの店長、過保護にもほどがあるのではないでしょうか」


「もっともな意見だけどー、サリアちゃんが言えたことじゃないよねー」


「そ、そんなことはないですよ」


「おー! なんだなんだ! ワンワンも一緒にいくのか! みんな仲良しはマキナ大好きだぞ!」


「マキナもこう言ってることだし……ご厚意に甘えさせてもらいましょうウイル……」


「そうだね」


ティズの言葉に僕は一度うなずき、リリムのご厚意に甘えさせていただくことにする。


「それじゃあ、悪いけどお願いするよリリム」


「はい! 任せてウイル君!」


嬉しそうに笑うリリムの声が響き……こうして、僕たちの旅行のパーティーに、リリムが急きょ追加されることになったのであった。


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