249.メイズイーターレベル4 トラップイーター
「メイズイーターを……完成させる?」
そう高らかに宣言したマキナに、その場にいた人間全員が首をかしげる。
「メイズイーターはスキルよね、それを完成させるってどういう事よ……」
「メイズイーターの力は、迷宮の壁を操るだけにあらず! 迷宮にあるすべてを奪い取るそんなスキル! ところでメイズイーター……メイズイーターの……ええい面倒くさいぞ! 今更だけどウイルでいい?」
「え? ああうん……」
「よっし! ウイル! ウイルのメイズイーターは今いくつだ!」
「つい最近レベル4になったところよ」
「おぉそうか! それはよかった、ぶっちゃけマキナいうの忘れてたんだけど……メイズイーターのレベルが4以上じゃないとこの試練意味ないんだよねー、いや、まったくの無駄ってわけじゃないんだけど……良かった良かった」
「ちょっ!? アンタ! そういう事は先に言いなさいよ!? 少なくともこの子、前に試練を受けた時はまだメイズイーターレベル3だったんだからね!?」
「なんと!?」
「なんとじゃないわよ!」
「まぁまぁ、ティズ……結果的にレベル4の状態で試練を受けれたんだからいいじゃないか」
「むぅ、ま、まぁそうだけど」
僕は苦笑いを浮かべながら、そう叫ぶティズをなだめ、マキナに質問の続きをする。
「それでマキナ……どうしてレベル4じゃないとこの試練は意味がないんだい?」
「うむ、よく聞いてくれた! それは、この試練がメイズイーターレベル4を効率的に
成長させるためのものだからだ!」
「せ、成長を……効率的に……ですか? え、えと……拷問耐性とか?」
「カルラン発想が怖いよー」
「むしろそれだと僕が自分のスキルで拷問されることになっちゃうんだけど」
「ご、ごめんなさい……そ、それしか思い浮かばなくて」
「よしよし……つらかったのねアンタ……大丈夫よ、私が付いててあげるからね」
ティズが珍しく優しくカルラの頭の上に寝そべりてしてしと頭を優しくたたく。
「ふむ、それで話を戻したいんだけど、メイズイーターレベル4って、結局のところ何をどうするスキルなんだい? マキナ」
「ありゃ? その様子だとまだ使ってはいないみたいだねー! うむうむ、賢明な判断だ! 前のメイズイーターはこのスキル間違って使って二回は死んでたからな……ウイルは賢いぞー!」
あながちカルラの推論も間違っていなかったらしい……マキナの言い方だと、この新しい力……メイズイーターレベル4は……使い方を誤れば自らの命も危険にさらす代物のようだ。
僕は息を飲み。
「それで、その力は?」
マキナに、メイズイーターレベル4の力を問う。
と。
「まぁまぁ、カナブンは一見にしかず!」
「カナブン?」
「メイズイーターが使ってみるのが一番いいぞ!」
そう言うと、マキナは指を一つ鳴らすと。
迷宮三階層は音を立ててその形を変えていき、気が付けば大広間が出来上がる。
「さて、ここからメイズイーターレベル4の説明をするから、とりあえずウイル! 適当な所に壁出すみたいな感じで座標を指定して!」
「あ、うん」
僕は言われるまま、メイズイーターを起動することはせず、とりあえず目測で壁を出すところを決める。
と。
「できた? できたな、ではメイズイーター! つかぬことを聞くけど、迷宮で最初にかかった罠ってなんだ?」
「え?」
「この迷宮に挑戦して、最初に引っかかった迷宮の罠! それはなんだ?」
そう問われ、僕はふと考えをめぐらし、すぐに結論を出す。
ティズとコボルトに追われたあの時に引っかかった。
「串刺し床かな……でもそれが」
何の意味があるの……。
そう問おうとした瞬間。
僕の指定した座標に、串刺しの槍が一斉に飛び出し、鋭い音を響かせる……。
「び、びっくりしたよー!?」
突然、どこからともなく発動した罠に僕たちは目を丸くし……同時にマキナは鼻を得意げに鳴らす。
もしかして……これって……。
「気づいたようだな、ウイル! そーだ! メイズイーターレベル4は……迷宮の罠を自在に仕掛けることができる能力だ!!」
マキナはなぜか勝ち誇ったような表情のままそう僕に告げ。
しばらく僕はマキナの顔と、串刺し床を数度見比べることしかできなかった。
◇
「さて、改めてメイズイーターレベル4の説明をするぞ! ウイル」
しばらく、僕はメイズイーターレベル4の使い勝手を知るために、何もない部屋のいたるところに罠を仕掛けては発動させるという練習をしていたのだが、天井と床にテレポーターを二つ設置することにより、永遠に天井と床をテレポートしながら落下し続けることができる無限テレポーターを、ナーガで実験し始めたところでマキナが僕にそう叫ぶ。
「了解、じゃあ遊びはここまでにして、説明の続きを聞こうか」
「はーい!」
「ぬおおおおおい!? 我はいつまで落下をしていればいいのだあああぁ!?」
とりあえずナーガは放置をし僕たちはマキナの前に並んで座る。
「おっほん! ではでは、何か質問がある人はいるか!」
その光景に満足したようにマキナは大きな咳ばらいをして、メイズイーターレベル4について教えてくれる。
「はいはーい! マキナちゃーん!」
「はいシオンおねーちゃん!」
「迷宮の罠を自在に仕掛けられるスキルなのはわかったけど! どうしてこんな試練を受ける必要があったの?」
「はい! いいところに気が付いた! スーパーマキナちゃんポイントを挙げましょう!」
「わーい! やったー!」
「わ……わ……いいなぁ」
「あほじゃないの……」
三者三様の反応を見せるマキナのお勉強会……迷宮の罠のど真ん中で行っているというのがすごいシュールな状況だ。
「メイズイーターを成長させるといったが、メイズイーターは、迷宮にあるものを喰らうたびに強くなるスキルだっていうのは知っているな?」
「それって、スキルイーターの事? 魔物を倒すと、その魔物のスキルが手に入るっていう」
「そうだ! 正確には、持ち主に合わせた形に変化させて習得するんだけど、細かいことはマキナも分からないぞ! まぁ、分かってほしいことは、このメイズイーターというスキルは! 迷宮のいろんなものを食べさせて強化していくスキルなの! そして、メイズイーターレベル4の力は、迷宮の罠を喰らい、理解し、利用することができるようになる能力! 一度引っかかった……もしくは自分の力で解除をしたことのある罠であれば、いつでもどこでも利用することができるし、どこにでも設置することができる! まさに夢のようなスキル―!」
「あっ、つ、つまり! この試練の間の目的は……め、メイズイーターに罠を習得させるためのも、ものなんですね!?」
「そうなのだー! カルラおねーちゃんもさえてるぞー! マキナちゃんポイント進呈だ!」
「う、ウイル君! わ、私! マキナちゃんポイント貰っちゃいました!」
「よかったねぇ、カルラ……」
嬉しそうに興奮をするカルラに、僕は微笑みながら頭を撫でてあげる。
「ふぅん、なるほどね……だけど、それならもう少し簡単な試練にしなさいってのよ、こんな罠のオンパレード……カルラがいなかったら死んでたじゃないの」
「そうだよ、殺すための試練だしな……ここで死ぬようなメイズイーターではしょせんメイズマスターを倒すことは出来ない……それなら、次のメイズイーターを作るために弱いメイズイーターは殺さなきゃいけない……ここはそういう振るいの意味もあるんだぞ!」
「……なるほどねぇ~……まぁ、つまりはウイル君は強いメイズイーターってことなんだねぇ! すっごーい!」
「ま、まぁ……攻略のほとんどはカルラのおかげなんだけどね」
「つ、強い仲間を引き入れられるのはカリスマが高い証拠です……戦場、そして戦いにおいて、仲間を増やす力は、怪力なんかよりもはるかに有用です……う、ウイル君はだからすごいんです!」
「そ、そんな……」
四方八方からお褒めの言葉を賜り、僕はなんだか気恥ずかしくなって縮こまる。
「それにしても、この迷宮三階層の構造とか罠の配置を考えた人間はよっぽどのひねくれものよね……本当、人間の心理の裏をついてくるところとか……なんだか、一歩歩くごとに馬鹿にされてるみたいで本当に腹が立ったわ」
「まぁ、この迷宮を作った奴は人間よりも上位の存在だからな……むりもない」
「上位の存在? それは?」
「このメイズイーターの試練の間の設計をしたのは、真祖の吸血鬼 ブラド・D・アルカードだぞ? 吸血鬼という種族を生み出した、神の一人……えーと、私のおかーさんの! デウスエクスマキナ……そして、クレイドルおねーちゃんの部下なのだー!」
「はぁあ!? あいつが――!?」
一瞬……背後で聞いたこともないような驚愕の声が響き。
振り向くとそこには、内にある嫌悪感という嫌悪感のすべてを引っ張り出して顔に塗りたくったような表情をした……シオンがおり、そこにきてようやく、僕はその発言がシオンの物であることに気が付いた。
「……知り合いなの? シオン」
「えっ! あーうん……知ってると言えば知ってるんだけど」
僕の言葉に、明らかにしまったという表情をしてシオンは口ごもり、ごまかすように目を泳がせて話をはぐらせようとする。
「なによ、アンタみたいな迷惑女に友達がいたとは驚きだわ……」
「友達じゃないよ……その、馬鹿野郎は……まぁ、いうなれば……ストーカー? かな」




