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ホワイトデーイベント(コールオブチョコレート)リリムと添い寝



夜……。


一人一部屋と用意がされた部屋の中で、僕はのんびりと魔物辞典に目を通しながら、時折外の星を眺めながらゆっくりとした時間を過ごす。


料理も美味しく、カルラもまるで天国に来たかのように、終始瞳を輝かせていた。


本当に、ここに連れてきてよかった……。


僕はそう外の星を見ながらそんな感想を心の中で漏らし、時計を見ると。


「ふあぁ~あ……もうこんな時間か」


時刻はもう零時を過ぎており……僕は欠伸を一つして眠ることに決め、布団を敷き横になろうとする。


と。


ひとつ……ドアをノックする音が響く。


「はい……?」


誰だろう? ルームサービスを頼んだ覚えはないんだが。


僕はその音に、少しいぶかしみながら返事をして、ドアまで歩いていくと。


「ウイル君……その、今大丈夫?」


「リリム?」


その声はカルラと一緒の部屋のはずのリリムであり、僕は扉を開けるとそこには少しほほを赤らめて耳を垂らした状態のリリムがいた。


「えと、どうしたの?」


「えと……その、そのね……眠れなくて」


恥ずかしさと申し訳なさで押しつぶされそうな表情のリリムは上目遣いで僕にそう言い、僕はその表情に心を奪われてしまう。


「……そ、そっか……異国の地だし、時差もあるからね……無理もないよ。 どうぞ」


「ごめんなさい……ありがとう」


リリムは僕にお礼を言うと、そっと部屋の中に入ってくる。


香水だろうか、シャンプーだろうか……甘い香りが僕の鼻をくすぐった。


「あ、ごめん……寝るところだった?」


「気にしないで……カルラの介抱とか、全部リリムに任せちゃったから。 お茶でも飲むかい?」


「ううん……なんか目が冴えちゃいそうだから……」


「そっか……じゃあ眠くなるまでお相手させていただきましょうか」


「えと……その……うん」


僕の反応に、リリムはすこしもじもじとした後、ちらりと僕の方を見てそううなずく。


「?」


何か様子が変だ。


「カルラはどうしてる?」


僕は布団の上に座るリリムの隣に座り、カルラの様子を問うと。


「終始にこにこしながら眠っちゃったよ……本当に幸せそう」


「よかった……ああやってずっとカルラには笑っててほしいからね……」


今までずっと泣いて生きてきたカルラだから……これからはその涙の何百倍も笑って生きてほしい……。


だからこそリリムのその報告に僕はほっと胸をなでおろす。


「……ウイル君……最近カルラちゃんの事ばっかり気にかけてるよね」


そんな僕に対し、リリムは少し拗ねたように口をとがらせる。


「え? そ、そうかな……確かに、忍びとしていつも身辺の護衛とかで一緒にいるし……不安定な部分もあるから他の子たちよりも気をかけているところはあるけど」


「……まぁ、そうだろうとは思うけれど……その、カルラちゃんだけ特別扱いしてる」



「そ、そうかな?」


「うん……のぼせたカルラちゃんから聞き出したんだよ……その、カルラちゃんと添い寝したって」


口元を尖らせたまま、リリムはそう僕をジトットした目で見つめてくる……。


「あっ……えと……もしかしてリリム」


なんとなく、先ほどの行動と今の瞳から、今リリムが何をしに来たのかをおおむね理解する。


「……カルラちゃんだけは、ずるいと思います」


「やっぱり、添い寝しに来たの!?」


ようやく察した僕に対し、リリムは一度コクリとうなずき。


「だめ?」


なんて上目遣いで僕に問いかけてくる。


それは反則だ。


「はぁ……まったく、みんなには内緒だよ?」


「いいの?」


「カルラが喋っちゃったんじゃしょうがないだろう? それに……」


僕はそっとリリムの頬に触れ、顔を近づける。


「……温泉での台詞の続きを……まだ聞かせてもらってないからね」


「ふえ!? あっええぇ!? あの!? そ、その、う、ウイル君!? あ、あれはね、その確かにそうなんだけど、でもそのいざ今すぐにって言われると心の準備がね! あ、でもダメってわけじゃなくて……」


慌てるリリムは顔を真っ赤にして、耳をぴんと立てあたふたとする。


いつも冷静で穏やかなリリムだからこそ、この慌てた表情は可愛らしく。


「ぷっ……」


僕は思わず噴き出してしまう。


「あっ!? う、ウイル君もしかしてからかったの!?」


「まぁね……かわいかったよ、リリム」


「むうううううぅう!? 乙女心をもてあそんで―! とあー!」


「おわわっ!?」


やけになったのか、リリムはいつもなら絶対にしないような声を発しながら僕を押し倒す形で布団の中に飛び込む。


「ちょっ、リリム……」


「ふーんだ! えいっ」


リリムは魔法により、伝統となっている魔鉱石を切り、暗くすると……そのまま僕に顔を近づけて頬を膨らませる。


「こうなりゃやけだよ……何が何でも添い寝してもらうんだから!」


「べつに添い寝しないって言ったわけじゃないんだけど」


「~~~~~!!」


ドツボにはまっていくリリムは、顔を赤くしながらなんとも言えない表情をしている。


「あはは……本当に、今日は見たことないような表情をたくさん見せてくれるね」


僕は隣で横になるリリムにそう笑いかけ、そっとその栗色の髪に触れる。


「……わふっ……」


「っふふ……リリムの髪フワフワしてて、柔らかい」


「あ、あう……じ、人狼族は、みんなこんな感じなの」


「そうなんだ……あ、寒くない?」


「えと、少し冷えるかな」


「よいしょっと、布団かけるよ、一緒に入ろう」


「えっ!? その」


「君が言い出したんだろう? 大丈夫……悪戯なんてしないから」


「本当?」


「本当……信じられない?」


「お、男はみんな狼だって店長が」


「君だって狼だろう?」


「それもそうでした」


「あはは」


「ふふふっ!」


僕とリリムはおでこをこつんとぶつけながら、くすくすと布団の中で笑いあう。


こんな大胆なことをして、カルラの時とはまた違い、鼓動がどんどん早くなるのが分かる。


だが、それでさえも心地よく感じてしまう。


僕にとってリリムは、そんな人だった。


「ウイル君……私ね、ずっと君にお礼がしたかったんだ」


「お礼?」


「うん……ウイル君、私に言ってくれたでしょう? 僕が、私のファン一号になるって」


「え? ああ、確かに言ったね」


始めて冒険者として報酬を手に入れたあの日……僕はリリムに確かにそう言った。


「あの時ね……私、本当は鍛冶師になるの諦めようとしてたの」


「え?」


「人狼族が鍛冶師になんてなれるわけがない……そういわれるのが悔しくて、私はずっとそれに逆らいたくて……こうして鍛冶師になるために頑張ってた……でも、全然うまくいかなくて……もうやめようかなってあきらめた時に……あんなひどいことを言った私に……ウイル君はそういってくれた……自分でも信じてあげられなかったこんな私を、まっすぐに信じてくれた」


「……そ、そうだったんだ」


「うん、もちろん、ウイル君にとってはなんでもなかったことなのかもしれない。 でもね。

あの時からずっと……ウイル君は私のヒーローなんだ」


「ヒーロー?」


「うん、どんな絶望の淵にいても……ウイル君は簡単にそんな人を助け出してしまう。カルラさんの時だってそう……どこからともなく現れて……自分の損得なんて考えないで……いつも笑って私達を助けてくれる。 私達が泣いているときは一緒に泣いてくれて、悔しくて潰れちゃいそうなときには……私たちの代わりに怒ってくれる」


「ただ、感情的なだけな気もするけど」


僕は照れくさくてそうつぶやいてみるが。


リリムは首を左右に振り。


「ううん……そんな君に、私はもちろん……みんな救われてるの」


「……そう、なんだか恥ずかしいな」


頬をポリポリと掻き、僕は照れくさくて顔をそむけたくなるが……リリムの真っ直ぐにこちらを見つめる瞳から目が離せない。


そんな僕に、リリムは少し微笑んで、僕の頬に触れて。


「うん……だからね、私はウイル君が大好き……貴方にすくわれて、夢を叶えてもらって……貴方は、私にとって太陽のような人……だから、誰よりも……大好き」


リリムの手からでさえも分かるほど、彼女の脈が速くなっているのがわかる。


そして、その速さから……その大好きの意味も……しっかりと、伝わった。


「え……」


その言葉に、僕は一度ショートをし……再起動した頭がその言葉の意味を認識し、自分でもわかるほど顔を真っ赤にする。


「あ、えと」


「……」


リリムは笑わない……ただ優しく微笑み、とろんとした瞳のまま僕を見つめている。


だからこそ僕は。


「リリム……僕は」


その思いに、答えようと口を開こうとするが。


その唇に、リリムはそっと人差し指を重ねて、僕の言葉を遮る。


「……え?」


そして。


「答えは……世界を救ったその後で……ね?」


そう……優しく微笑んだ後、その人差し指を自分の唇に当てるのだった。


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