40000PT突破記念 童貞を殺す服
「あああああああああああぁ!? 忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ!」
もはや誰に対して怒りをあらわにしているのかわからないアイホートは、絶叫を上げながら絶賛絶体絶命中の僕に向かい爪を振り上げる。
「ふはははは! 先ほどから街への被害を気にしているようだが! その螺旋剣を抜かねば後ろの女が死ぬぞ! っていうかぶっ殺す!」
「ぐっ!? お前!?」
その一閃は、僕ではなく迷いも躊躇もなくリリムへと放たれる。
不意を突いたリリムへの攻撃を、僕はホークウインドで防ごうとするが。
「づっ!? こいつ、迷いもなく女の子に!?」
反応が間に合わず、ホークインドは弾かれ、リリムへと攻撃が通ってしまう。
「男女平等!! リア充に女も男も関係ない!!皆平等に爆発四散させて見せる!」
「最低だお前!?」
「リリム!!」
「きゃっ!?」
いくら、自身にバフをかけているからとはいえ、不意を突いた攻撃にリリムは反応できず、その攻撃をその身に受け入れるが……。
「主様の大切なお方に……手は出させません……」
「なっ!?」
その爪がリリムに触れるより早く。
リリムの影より、一人の忍が這いあがり、その爪を素手でつかむ。
「何者……だぶぅあ!?」
掴まれた爪はぴたりと止まり、アイホートの問いかけよりも早くその忍の一撃がアイホートを吹き飛ばす。
「私は影……伝説が落とす、小さな影」
そうつぶやく声は幾度も聞いた小さな、しかし美しい鈴の音色の様な声。
聞き間違うはずもない、僕の右腕……カルラであったが。
しかし。
「カル……ラ?」
僕は語尾に疑問符を浮かべて、その少女に問いかける。
なぜか。
その理由は単純で、いつもとは異なる服装をしていたからだ。
「か、カルラちゃん……そ、その恰好は一体……」
その姿は、いつものフリルのついた衣装ではなく、灰色のセーター。
しかし、ただのセーターではなく、両肩も背中も大きく空いたなんともセクシーなセーターなのだ……(しかもサラシも外しているのか少し胸も見えそう……)もはや暖を取るための服であるセーターの役割は果たせていないと思いもしなくはないが……いや、それは良いとして目のやり場に困る!?
嬉しいけど。
「え、えと……こ、これはですね……」
格好をつけて出てきたのはいいが、直視されると恥ずかしいのか、カルラはどこかもぞもぞとしながら顔を赤らめて色々な所を隠そうと頑張っている……うん、素晴らしい。
「私が説明するわ! その服こそ! 対童貞抹殺究極礼装! 童貞を殺すセーターよ!」
ふとキンキン声が頭上から響き、上空を見上げると、そこには偉そうに胸をはる妖精と。
「マスター! ご無事で!」
「やっほー! みんな無事でなによりだよー!」
チョコレートモンスターを回避するためか、屋根の上から飛び降りてくるサリアとシオンがいた。
「三人とも……どうしてここが分かったの?」
「マスターのアイスエイジが放たれたのが見えたので、ここだと確信しました……あれだけの冷気を放てるものなど、この街ではマスター以外ありえないですしね」
サリアはそう気さくに僕に言いながらも、朧狼と影狼をすでにさやから抜いており、臨戦態勢を敷いている。
「どうやら、一度は遭遇しているみたいだね、あの敵と」
「ええ、魔法が効かず討ち漏らしてしまいましたが、今はカルラのどーてーを殺す服があります……さすがはティズ、博識です……よもや聖剣の守り手、クラスどーてーに特攻を付与する礼装を所持しているとは」
「え……あー……そ、そうだね!」
※リリムは全てを悟って肯定をしてあげました。
「ふっふーん! 古今東西すべての童貞はこの服により抹殺されるというのが世界の理なのよ! それが何百年も童貞こじらせてるようないかれ神様なら特にね!!」
にやりとティズは不敵な笑みを浮かべながら、吹き飛ばされたアイホートへと指をさす。
「今日が年貢の納め時よ!!童貞の神アイホート!」
「どぅああああれが童貞の神だこの野郎が!? だいたい童貞を殺す服とかなんとかいってるが!? どこの世界に出合い頭に殴り飛ばされた相手に欲情する人間が……ごぶっふあぁあ!?」
こうかはばつぐんだ!
「す、すごいですマスター! 敵影、カルラの姿を目視した瞬間に鼻から大量の出血です!?」
「そ、そうだぶっふぁ!」
「ウイルクーーーン!? どどど、どうしよう! なんでか知らないけどウイル君にもこうかはばつぐんだよ~!?」
「そうね、ウイルも童貞だからね……」
「ま、マスターも聖剣の担い手だったのですか!? そ、そんな……いつの間に」
「どぅええええい!? 南無八万! 落ち着け、落ち着くのだ俺!? 聖剣 カリ・バーンを積み重ねてきた三千年! この程度の刺激でこの俺が揺らぐはずなど」
「え、えと! 十分揺らいでますけど……」
ふらふらと鼻を押さえながらそうもだえるアイホートに対し、カルラはそのセーターをはだけさせながら懐まで踏み込み、錬気の拳をその心臓に振りぬく。
「六花奥義六連撃……六道輪廻……改め……」
【六童寝んね!】
「みっ……みえっ!?」
何かを語るよりも早く、六連撃がアイホートに叩き込まれ……魂さえも欠片も残さずに砕け散らせる。
だが。
【受胎告知!】
死も消滅も、再誕というあり方により克服した神に対しては、その一撃でさえもただの足止め程度にしかならず、高笑いを上げながらアイホートは再誕をする。
「無駄無駄無駄!! 我がバレンタインデーへの怒り、憂いチョコレートへの渇望を解かない限り! 我が恩讐は、この惨劇は永遠だ! 確かにその礼装は素晴らしかった! しかし、我を消すには全然足りん! ただの足止めにしかならんのだ!」
しかし。
「いやいやー、十分だよー」
復活をしたアイホートに向かい……サリアとシオンは、その手に何かを持ったまま……懐に忍び込む。
其は……ぷつぷつと絶えず水泡を上げる……名状し難き汚泥よりも深き闇。
なんだろう……ちらっと見ただけなのに……眩暈が……。
「殺すことも消滅させることもできないなら……私たちが、そのバレンタインデーへの憂いを断つ!」
「ウイル君のためのとっておき、義理とはいえど……しっかりと味わってよねー!!」
「えっそれなっ……?」
ふりあげられ、その口に叩き込まれるのは黒い物体。
【チョコレートはいかが!】
今日はバレンタインデー……恐らく僕の為に作ってくれたのだろうチョコレートを、サリアとシオンはアイホートの口の中へと叩き込んだ。
〖余談だが、この時、アイホートは悟ったという……消しカス入りのチョコレート程度で済んだ自分は、どれだけ恵まれた存在だったのかということを……〗




