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246話 迷宮で家づくり! 目指すは僕だけの理想郷(計画編) 

ブリューゲルとの戦いの後、このメイズイーターの力の変化の利用方法を思いついたのは、迷宮教会の新しい主人となるための契約書を読み上げるカルラの声を聴いている最中であった。


家を燃やされ、たやすく侵入された僕の家……今回の兼もそうだが、これから暗殺部隊や密偵などの影に潜むものたちに命を狙われたり拠点を狙われたりする機会が増えるのは明確だ。


となると、家のセキュリティもとい、防衛においてももっとも効率のいい建物とは何だろうかと思案した。


その結果。


迷宮って最高の家なんじゃね?


コストゼロ。 家賃ゼロ。 エンキドゥの酒場もクリハバタイ商店までの距離も以前よりはるかに近く、何より職場までノータイムで出勤ができる夢のマイハウス。


「……それが、新しい家、迷宮なんだけれども」


「お日様が差さないし、空気が淀んでないかしら……」


「地下暮らしは……嫌だよぉ~……悪いことしてないのに……いろんな意味でざわっざわっしちゃう」


まぁ当然のごとく、女性人たちの反応はおおむね同じであまりよくない。


まぁ迷宮といえば地下のどこかを家にするというイメージになるからだろう。


まぁ控えめに言っても日の光が差さない迷宮内は、人が住むような場所ではない。


僕だってあんな地下世界で生きようとは到底思わない。


しかし。


「何も迷宮内に住むってわけじゃないよ……僕のスキル忘れちゃったのかい?」


「メイズイーター?」


「そ……迷宮の壁を素材にして、新しい家を作るんだよ」


「あぁ、なるほど……そういう事」


メイズイーターは何も、迷宮内でしか使えないわけではない……そしてブリューゲルとの戦いのときに、迷宮の形、性質を用途に応じて変化させる術も得た。


そして、極めつけは……。


「カット」


今までは壁としてどこかに面していなければ利用が出来なかった迷宮の壁……。


しかし、レベル4になってからは少しその性質が変わった。


どこか壁か床に面した場所にしか壁を出現させられないのは相変わらずであるが、その一部を切り取ることができるようになったのだ。


僕は試しに、先ほど小さな家を作ったのと同じように、迷宮の壁をエンキドゥの酒場に発生させ、その一部を手のひらサイズに切り取り。


「チェンジ」


切り取った迷宮の壁に、性質変化のスキルを使用する。


リキッドリオールが所有していた性質変化のスキル。


本来であれば触ったもの、指定したものの性質を、己の魔力量とスキル技能値に応じて異なる性質に変化させるものであるが。


メイズイーターの所有者である僕は、また少し違った変化がみられる。


性質変化のスキルを使用し、迷宮の壁を試しに白く柔らかくしてみる。


「切り取った迷宮の壁が……白く」


サリアは驚いたような表情をし、他のみんなも呆けて口を開けたままその光景を見つめている。


「ほら、触ってごらん」


そんな彼女たちに向けて、僕はその白い壁の一部を投げてよこす。


「わっとっと……えっ、なんですかこれ……や、柔らかい!? すごい柔らかいですよウイル君!?」


「ほほっ本当です!? その柔らかさはまるで、「創業二百年銘菓・フワフワ」に匹敵する柔らかさです」


「ちょっとウイル!? こんどから私のベッド綿じゃなくてこれで作りなさい!?そろそろ潰れて固くなってきたのよ!」


「ふわわー!? これも迷宮の壁なの~!?」


女性陣皆が皆思い思いの感想を述べながらそう、白い迷宮の壁をいじっている。


「ちなみに、サリア、思いっきり引っ張ってみてごらん」


「え? いいんですか? それでは……ふむっ!」


サリアは少し難しい顔をして、思いっきりその白い迷宮の壁を引っ張って見せるが、当然、迷宮の壁のためちぎれることなく、その代わりゴムのようによく伸びる。


「……すごい……サリアのパワーでもちぎれないなんて……強度も申し分ないわね」


「そう、まぁ必要なものは運び出すけれども、この技術を使えば家を建てるのだって夢じゃない……幸いにもメイズイーターのスキルは使用に体力も魔力も使わないからね」


「でも、迷宮の壁は必要になるでしょう? それはどこから調達するのよ、これ以上迷宮の構造を変えたら地図の信用度が低くなるわ」


「そこは問題ないよ……ある場所を知っているからね」


「ある場所?」


「暗闇の道、僕が前にテレポーターで飛ばされた先に、大きな隠し部屋がある……そこはあまり冒険者には広まっていない空間だし、そこの部屋の壁は取り放題だ」


「なるほど……」


「ちなみに、そこにこの前言った合わせたい人っていうのがいるんだけれども」


「あぁ、アルフと一緒に会いに行くと言っていたやつですね」


「うん……だから、家を建てるのはアルフが帰って来てからということになるけれども、どうかなみんな、悪い話じゃないと思うんだけれども」


「まぁ、迷宮の壁で作るなら建築技術とか耐震強度とかは全く気にする必要が無くていいんでしょうけれども……あんな迷宮の近くに住もうなんて考えるのは私達くらいでしょうし……ただ問題は」


「問題は?」


「アンタのセンスよねぇ……」


「ティズ、マスターは芸術のスキルを保有しておられます……」


「そうだよー! スキルは嘘をつかない、きっとすごい家を作ってくれるに決まっているよ~」


「芸術の感性も人それぞれだからねぇ……まぁいいわ、そこのところは私の方でカバーすればいいだけだし……それで、アルフの馬鹿が帰ってきたら家を建てるっていうなら、それなりの用意も必要だし、それまでにはサリアが戦線に復帰するんだから、予定していたやっておくことも片づけなきゃいけなくなるわね」


「そうだね、一番望ましい形としては、この二週間で予定していたことを終わらせつつ、アルフが帰ってくると同時に家の建築を開始……といったところかな、何か問題は?」


「とくにはありません、王都襲撃や、迷宮教会の襲撃のように、これからマスターには多くの敵が押し寄せる可能性はゼロではありません……迷宮の本当に近くに拠点を構えれば、迷宮の動きに対していち早く対応ができる……マスター、これは妙案ですね」


「ありがとうサリア、分かってくれてうれしいよ」


僕はサリアに対してそう感謝の言葉を述べると、少し遅れてシオンも手を挙げて。


「はいはい! 地下でもどこでもいいから! 魔法の修練場を作ってくれると嬉しいです!」


「まぁ、迷宮の壁の中で魔法をぶっ放すならだれも被害をこうむらないから、全然かまわないよ」


「わーい! やったー!」


「そうね、私専用のバスタブを作ってくれるのであれば何も問題はないわ」


「考えておくよ」


「え、えと……私は……私は……どうしましょうウイル君、何もほしいものが思いつきません……でも、その……寂しくならないようにしてくれるなら……賛成です」


「じゃあ、カルラの部屋は僕の部屋の隣ということで……」


「あ、それ、それがいいです!」


「ちょっ!? ずる、ずるいですよカルラ!! で、では私は、マスターの警護がありますので相部屋ということで!」


いきなり何を言っているのかなサリアさん。


「くぉらこの筋肉エルフ! 私とウイルの愛の巣に何無断で入り込もうとしてんのよ!? アンタの部屋は地下訓練場に決まってんでしょうが!? たくさんダンベルとか鉄の塊とか放り込んでおいてあげるわよ!」


「だから私はそんなに筋肉はないと言っているではないですかティズ!? 見ての通り、腹筋すらも割れていないんですよ! 私は脳筋じゃないんです!」


そう言うと、サリアは酔っぱらっているのか、服の裾を持ち上げてまっしろな雪のような柔肌をさらけだす。


「「「おぉーーぅ」」」


今まで談笑に花を咲かせていた冒険者の野郎たちが、一斉に鼻の下を伸ばしてその刻印が刻まれた腹部に声を漏らす。


燃やしてやろうか。


「やれやれー、二人にはこまったものですねぇーウイル君」


「そういう君は楽しそうだねぇ……あの不毛な争いを止めてくれてもいいんだよ?」


「やだなぁウイル君、私にそんなことできるわけないじゃない~!」


「ですよねぇ」


シオンは、ほほを赤らめてジョッキを手に持ったまま顎を机の上にのせ、ニマニマと幸せそうに笑っている。


そんなシオンの様子に、カルラは少し考える様な素振りを見せたのち。


「あ、当身とか」


拳を少し握って素振りをする。


軽く拳を振っているはずなのに、ものすごい風切り音が響いた。


「うんカルラ、死人が出るからやめようね。 それよりもほら、メロン食べる?」


「いただきます!」


元気よくメロンを食べ、幸せそうな表情をするカルラ……隣で言い争いをするサリアとティズではあるが、まぁいつもの事なので放っておこう。


酔っぱらっているとはいえ、サリアもこんな公衆の面前でストリップショーをするほどお馬鹿ではないはずだし。


「いい度胸じゃない! アンタが脱ぐってんなら私の柔肌もさらして……」


「あ、だめだコッチの妖精は始めるバカだった。 カルラ 至急ティズを確保!! 安全第一で!」


「りょ、了解です!」


「「「うっひょーー!いいぞー! サリアもぬーげ! ぬーげ! ぬーげ!」」」】


「シオン! ついでにあの野次馬に火をつけて」


「そういうのなら大歓迎~! ファイアーブラストォ!!」


「「「「ぎゃあああああぁ!?」」」」


猛烈な火柱がエンキドゥの酒場で上がり、冒険者たちはその炎に逃げまどい、ティズは半裸になりながらも変わらずサリアに食い掛る。


そうこうして、今日もまた賑やかなパーティーたちとの夜は更けていき。


明日からまた、僕たちは迷宮探索へと繰り出すことになるのであった。



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