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237.これから


「いきなりだけど、サリアの怪我が治る前に、さっさと今ある問題を片付けておくべきだと思うんだ」


迷宮教会司祭、ブリューゲルアンダーソンによる王都へのテロ事件から早くも一週間がたち、魂の摩耗により全治三週間をつげられたサリア以外のパーティーが回復をしたので、僕は一度、クレイドル寺院の談話室に仲間を集めてそう切り出した。


ちなみにサリアは現在、シンプソンのもとでリハビリ中である。


「問題? アンタこの二週間で、迷宮教会の問題はほとんど終わらせたじゃないの? まだ何かあったかしら?」


ティズは首をかしげながら呑気にクーラさんが入れたオレンジジュースを飲みながら首をかしげる。


そう、確かにティズの言う通り、僕はこの二週間、新たに再編成される迷宮教会の主として、迷宮教会をどうするか、国民をどう説得するかの協議や手続きに僕は駆り出されて迷宮へ潜るよりもハードな仕事をこなさせられていた。


国へとテロをおこなった集団のトップになると僕は言い出したのだ、それは当然前代未聞の行動であるのは分かっていたが……僕の理解とは程遠い現実が僕を襲ったのも事実だ。

僕が表舞台に立つことはなく、ほとんどがレオンハルトによってサポートされていたとはいえ、出される書類は見たこともない単語だらけであり、法律やら誓約やら何やらの書かれた書類を目の前に積まれて理解しろと言われたときは、正直逃げ出したいと弱音を吐きそうになったくらいだ。



まぁそれでも、こっそりと秘書としてカルラが手伝いに来てくれたり、リリムさんが差し入れてくれた超強力強走薬ウルフバウトのおかげで、無事二週間で迷宮教会の問題については決着をつけることができた。


だからこそそろそろ本業に戻らなきゃいけない時である。


「せっかく迷宮教会も自由に行き来できるようになったんだ……そろそろ迷宮二階層の地図を完成させてもいいころだろう?」


「……あー……」


「ティズちん、最近お金に苦労しなくなったから地図の事完全に忘れてたねん?」


「わ、忘れてないわよ! 失礼ね!」


「で、でも……ウイル君大丈夫なんですか? その、獣王さんと喧嘩してるんじゃ」


「んー、あの時はサリアの呪いに腹を立ててただけみたいだし……サリアがいない状況なら、大丈夫なはずさ、一応ティズにはなついているし……」


「でも、暴れられたら大変だよ~? ウイル君のメイズイーターだって使えなくなっちゃうんだし」


「そこは抜かりはないよ……スキル妨害防止用のアイテムを、レオンハルトに頼んでもらってあるから」


その名も、【王宮の威厳】と呼ばれる、ロバート王が開発したアンチデバフ能力対策の金印型のアイテムである。


かつて、メイズマスターの使用する強力なデバフ魔法に対抗する際に活躍したらしく、持っているだけでパーティー全体にA+。 つまり第十一階位魔法相当のデバフ耐性を付与する強力なアイテムだ。


「なんつーもん借りてきてんのよアンタ」


「でもでも~、これであのスキル封じが止められるし、私の魔法が使えるようになるんだね!」


ぶんぶんと杖を振り回し、シオンは張り切っている。


どうやら前回の迷宮教会との戦いではあまり爆炎をまき散らせなかったために、フラストレーションがたまっているようだ……。


「いや、いざというときだけだからね? 無理に戦う必要はないんですよシオンさん、分かってます?」


「えー……あ、じゃあナーガラージャ連れて行っていい?」


「パーティーから外すことになるけど」


「平和的解決ばんざーい! ウイーラブピース! みんな一緒に! セイ! ピース!」


冷や汗をかきながら平和を訴える爆発娘に僕はため息を漏らす……彼女だけ迷宮に入る前に身体検査が必要なようだ。


「そ、それじゃあ……迷宮二階層の地図を作った後は?」


「その後、マキナの試練に挑もうと思う」


「え……大丈夫なんですか?」


「まぁ、一筋縄ではいかないだろうけれども、サリアがいない今だからこそ、挑戦するべきだと僕は思う」


「その心は?」


「僕の勘だけど、サリアがいたら、きっと一人で罠をかいくぐって試練をクリアしちゃうと思うんだ」


「「「ああ、確かに」」」


全員が首を縦に振った。


「マキナは、あの試練はメイズイーターがメイズマスターと戦うために必ず必要になる試練になると言った……だから、僕がやらなきゃいけないんだと思う」


「ふぅん……でも大丈夫なの? アンタメイズイーター封じられるのよ?」


「封じられるのはあくまでメイズイーターだけさ……スキルイーターで得たスキルまでは奪われない……。 機械人形はナーガラージャがいれば問題ないし、罠の方は考えがあるよ」


「……たのもしくなっちゃってまぁ。 いいわ、私はあなたについていくから好きにしなさい」


「大丈夫大丈夫~! 私がいるんだよ~、安心してよー!」


「アンタが一番不安の種だけどね」


「うん、ついでに君もね、ティズ」


「なんでよ!!」


「じゃ、じゃあ、さっそく迷宮に!」


「いや、迷宮攻略は今日はしないよ? 準備を整えなきゃいけないし、今はなしたのは、とりあえずサリアが回復するまでの目標……今日はそれを達成するための準備に充てるつもりだ」


「あ、あれー……」


カルラは顔を赤らめて、高らかに掲げた右腕をゆっくりとおろしてうつむく。


ちょっと頑張ってみたようだ。


……僕はなんだかそんな姿が可愛らしくて、そっと頭を撫でてあげた。


「それで、準備って何? 鎧でも新調するの?」


「まぁ、それも魅力的だとは思うけど、まずは王都襲撃の時に僕たちが討伐した魔物の報酬と、素材を貰いに行かないと」


「あー、そういえばそんなのあったわねぇ」


「エンシェントドラゴンの皮に、ブラックタイタンの上腕二頭筋……そんでもってゴルゴンの目玉だっけ?」


「あとはフランクの杖だね」


「ついでに、換金まで済ませちゃわないとねぇ」


「お金一杯!? 本買っていい!? ウイル君!」


「その前に家づくりでしょうシオン、クレイドル寺院に呪いをまき散らすつもりかい?」


「そうでしたー!」


「家づくりって……アンタあてでもあるの?」


「まぁね……とりあえず今日はお金を集めた後、家づくりを終わらせちゃおうと思うんだけれども」


「賛成賛成~! ここ凄い居心地いいけれども、やっぱり借り家だと落ち着かないよねー」


「まぁ、シンプソンにもさすがに迷惑だしね……それに、カルラの日用品も必要になると思うから」


「わ、わた、私ですか!? でもこの前、一通りは買っていただいたと思うんですけど!」


「本当に一通りでしょうにアンタ……人間が最低限の暮らしをするのに必要なセットだけで生活するつもり? ここはあのバカ司祭の監禁所でも、アンデッドハントの修行も必要ないんだから……せっかくだから趣味の一つや二つでも見つけて買い込んじゃいなさいよ」


「本当~!! じゃあ私、魔法の宝石が……」


「アンタは炎さえあれば十分だから、マッチでも買ってなさい」


「私ろうそくじゃないんですけど!!?」


「似た様なものでしょ」


「ひどい!?」


ティズはカルラには甘い……まぁその気持ちはわからないでもないが。


「あ、ありがとうございます」


「うんうん、その代わりしっかりと働いてもらうからね!」


「はい!」


満面の笑み……この笑顔を見ているだけで、甘やかしたくなってしまう気持ちはわからないでもなく……気が付けば僕とシオンとティズは、三人そろってカルラの頭を撫でていた。


「わ……はひ?」


「じゃあ、とりあえず今日やることっていうのは~?」


「うん……街にお買い物だね、誰かサリアを呼んできてくれないかい?」


「お任せを!」


「君たちも、準備しておいで」


「うん、わかったよー!」


「あ、じゃあアンタも、迷宮に戻るんだったらステータス見ておかないとじゃない……たぶんなんか増えてるはずよ?」


「あーそうだね、お願いするよティズ」


元気よくかけていくカルラを僕たちは見送り、各々が外に出かける準備をするために散る。


やることは山積みであるが、不思議と心にのしかかる重圧や、気苦労もない……。


ティズと軽口をたたき合い、そんな素晴らしい冒険者ライフに戻ってきたことを痛感しながらも、僕は町へ繰り出す準備を進めるのであった。


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