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228.王都発狂

【マッピラ ポメンダ パヨウナラ!】



ブリューゲルの元を去った僕たちは、マッピラ爺さんの力を使って迷宮からエンキドゥの酒場前まで戻ってくる。


少しの浮遊感とテレポートの魔法による頭のふらつきを僕は二三度頭を振って正常に戻す。


「日は上り始めていますが……」


時間を確認すると、時刻は朝の三時……まだ迷宮教会強襲には時間がある。


サリアの傷も、ティズの薬で止血をしているとはいえ、少しつらそうだ……。


「クレイドル寺院へ急ごう……」


「了解だよ~……」


「そうね……カルラの具合も心配だし」


「申し訳ありませんマスター……私も少し……眩暈が」


「サリアちゃん、私の肩につかまって」


「ありがとうございます」

疲労困憊……迷宮教会の戦力を大きくカルラが削いでくれたとはいえ……最初予定していたブリューゲル攻略のための布陣はこうして瓦解したと言っていい……。


サリアの出血量に弱り方から、早朝の迷宮教会襲撃は不可能だからだ。


「レオンハルトと一緒に……作戦を練り直さないと」


「ふん、あの変態が何をたくらんでようと、一気に叩き潰しちゃえば問題はないわよね」


「そうだよそうだよー! このお手てが治ったら! 私の炎武見せてあげるんだから!」


頼もしいシオンたちの発言に僕は苦笑を漏らし。


クレイドル寺院へと僕は歩を進め始める。


と。


「あれ? こんな朝早くから人だかり?」


クレイドル寺院へ向かう途中にあるそこまで大きくもない広場に集まる人だかりに目がいった。


朝三時にこの辺りを歩くことが少ないため今まで気づかなかったが、そこには冒険者ギルドで何度か見たことのある冒険者たちが集まって集会の様なものを開いているところが見えた。


「……この辺りもこっぴどくやられたから、ギルドもギルドで何かたくらんでんじゃないの? ほら、あそこにいるのムーア・アンゴルとガドックじゃない」


「あ、本当だ―」


皆が皆整列をする皆を見下ろすように、台にたって皆を見回しているギルドマスターと店主。


「何か様子がおかしいですね……マスター、少し近づいてみましょう」


僕はその不思議な光景に首をかしげて、何をしているのか少し様子を見に立ち寄ると……。


「……ああああああああああああ!! 素晴らしい! 素晴らしいぜ素晴らしすぎる!! 今日この時俺たちははラビにラビにラビに! 愛されたことを感じられる! 今までの愚かな自分と決別し! 今ここにラビへの愛を叫ぶとき! 宣言しよう! 宣誓しよう! 大きな声で高らかに! 地獄の沙汰もラビ次第!!ああああぁ! ラビ万歳! ラビ万歳!ラビ万歳! ラビ万歳!」


「「「お~~~お! マイラーー―ビリンス!」」」」


そこには……現実とは思えない光景が広がっていた。


迷宮教会と敵対してたガドック。 そして、先日王都襲撃でともに戦った冒険者たち。


そして。


「ラビ万歳!ラビ万歳!」


「ラビ万歳! ラビ万歳!」


「ラビ! ラビ! ラビ万歳!」


一人……二人と冒険者の道、そしてそのほかの家から、その万歳三唱に呼応するように

人々が集まってくる。


一般人も冒険者も……中には王国騎士団の人間もいた。


「これは……」


昨日まで、迷宮教会へ、ラビへの憎悪で包まれていた王都リルガルム。


しかし……。


たった一夜でその憎悪や怒りは……ラビへの信仰へと姿を変えた。


「一体何が……」


困惑するようにサリアは目を見開いてそう驚愕の声を漏らす。


気が付けばラビへの万歳三唱は広場をあふれ出て冒険者の道に溢れ出す。


その光景は冒涜的であり、その合唱は僕たちに向けられた脅迫に聞こえる。


「迷宮教会……」


この状況が自然にできる……なんてことはありえず、間違いなくこれは迷宮教会の仕業である。


この行動は恐らく見せしめであり、ブリューゲルの言っていた自らラビの力を返しに来るという発言の真意がこれなのだ。


「悪趣味だよ……ほんと悪趣味」


そう……ブリューゲル・アンダーソンは、この王都リルガルムの国民を……人質に取ったのだ。


「ふざけやがって……」


怒りに僕は唇を噛みながら……自然とそうつぶやいていた。

                     ◇

ラビへの万歳三唱が鳴り響く王都リルガルムをとおり、僕たちは耳をふさぎたくなるような狂気にまみれながら、吐き気を押さえてクレイドル寺院へとたどり着く。


「……本当、最悪」


ここからもラビの万歳三唱の声が聞こえたらどうしようかとも不安であったが……クレイドル寺院は迷宮教会と対立はしていないためか、クラミスの契約は生きているらしく出てきたときと変わらない静寂が寺院を包みこんでいた。


「まず、怪我の治療をして状況を整理しましょう」


そうサリアは呟き、寺院の扉を開く……と。


「ひゅい!?」


「何者だ……」


白銀の刃がシオンとサリアののど元に突き付けられる。


「っ!サリア! シオン!」


僕は慌ててそのメイズイーターを構え、迎撃をしようとするが……。


「……っ遅い!」


サリアが突き付けられた刃を上段蹴りで弾き飛ばす。


「ぬっ、迷宮教会が!……ってあれ?」


怯んだ胴体に朧狼を引き抜き叩き込もうとしたところで。


「むっ?……あなたは」


両者の動きが停止する。


「サリア殿?」


「レオンハルト?」


中から僕たちへ剣を突きつけたのはレオンハルトであり……。


「おおおおおお! 帰ってきましたか! 帰ってきましたか皆さん! 寂しかったです、心細かったですよぉ! なんか街の方がおかしいし! 起きたらみんないないしぃ! こんな状況で、神父を一人にするなんてやめてください本当に!」


剣をサリアの頭上で静止させたレオンハルトの横から、半泣き状態で神父シンプソンが顔をのぞかせた。


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