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225.第十二階位魔法 オーバードライブ

「魔法が使えるエルフなら! こんなことにならなかったのにね!」


そういわれ、私はバインドを解くことへの集中を鈍らせる。


魔法が使えないエルフ……。 


そうあるように父と母に望まれた私……。


私はマスターに言った……魔法が無くても大丈夫だと。


だけどそれは……心のどこかで、亡き父と母が……そっちの方が喜ぶからと思ったからなのではないだろうか……と私は自分の導き出した答えを疑ってしまったからだ。


剣で切られ、私は膝をつく。


傷は致命傷であり、どくどくと赤いものが流れ落ちる。


……勝てない。


久しく見ることのなかった強敵……。


自らと互角以上に戦うカルラに……私は心高ぶった……そして、これだけの高揚を剣の道だけでも得られるのだから……魔法を望むなど強欲だと、そう思った。


だけど……最後の最後……。


私は……ラビの言葉に心を乱されてしまったのだ……。


「はぁ……はぁ……はぁ……親に望まれたんでしょう? 魔法も使えない愚かで醜い姿のまま死に絶えなさいって……その通りに、ここで野たれ死になさい」


胸への傷も重症であり、その一撃はもはや致命傷に近い……。


「サリアっ!!」


「はぁ……はぁ……これで……これで私は全部手に入れるのさんざん苦労してきたのよ……今度は私が報われなきゃ嘘じゃない……あなたはもう十分手に入れてきた……もう十分でしょう……今度は……今度は私の番よ」


彼女の言う通りだ……私は一体どれほど魔法を手に入れるために頑張ってきたのだろう……。


そしてその百年以上の頑張りを……たった一つの、こんなお腹の紋章の為に無に帰してもいいのだろうか?


私は問う。


強欲ではいけないのだろうか魔法を望んではいけないのだろうか?


私は問う。


……私を呪う者たちの意思を本当に叶えなければならないのだろうか?


私は問う……そして、そんなくだらないことの為に……カルラを、仲間を諦めていいのだろうか?


その答えを教えてくれたのが……ラビという敵なのだから……皮肉なものである。


答える必要もないくらいそれは当たり前のことなのだ。


私は一人笑みをこぼし……背を向けマスターへ向かうラビを引き留める。


「まだ……私の心は……折れていませんよ」


第一に……私はマスターの剣であり盾だ……私が用いるすべてを使用せずにどうして敗北が出来ようか……。


「な……あんた……まだ生きてるなんて……本当にしぶとい……」


膝をつき……立てもしない状況……しかし。


「ふっ……っふふっ」


「何がおかしいの? 頭でも打ったの?」


「いえ……あなたの言う通りだなと思ったのです、ラビ」


「はぁ?」


「貴方には、今の私では勝てません…・・・」


「諦めるの? ふふ、それは賢明な」


「いいえ、……諦めるつもりなど……ありませんよ……ただ、気づいたのです」


「はぁ?」


「私は……マスターに出会い、マスターに触れて……マスターと一緒ならば、魔法などなくとも大丈夫だと思っていました」



「何を……」



そもそも……私はエルフだ……その本能が、その種族の誇りが……私を形成するすべてが……全身全霊をもって魔法を渇望するのは当然のことで……抑え込むなどできるわけがない。

確かに、私はマスターを見下した……心のどこかであざ笑った。


恥ずべきことであり、傲慢であった。


だが……魔法を求めたことは……間違いなどではなかったはずだ。


始めは、幻想であった父と母の願いを叶えるためだったのかもしれない……村の人間を見返すためだったのかもしれない。


でも……今はどうだ……願いは幻想であったと分かった後でも、マスタークラスの聖騎士となった後でも……私は未だに魔法を渇望している。


それを押さえつけることは正しいのだろうか? 


違う。


これだけの強さを得ておきながら、魔法を求めるのは傲慢か?


違う。


父と母の願いの通り……愚かな少女として死ぬべきか?


違う。


私はもう、両親の願いなんてかなえる必要はない。


私は……私なのだから。



「……あなたに言われて目が覚めました……そうですよ、奪われて、蔑まれて……ずっと苦労をしてきたのです……私は、報われなければ嘘なんです……呪われて魔力が使えない? 親の本当の望んだのは……魔法が使えない愚かな私? そんなことどうでもいい!! その程度で私が抱いてきた……内にいる獣(魔法への渇望)は止まらない!!」


「何をごちゃごちゃわけのわからないことを!!」


ラビの困惑したような言葉に……私は心の中に閉じ込めていた獣を放り出す……。


「……今度は私の番だ!!」


そうして……私はやっと……魔法を手に入れるのだ。


私は……己の内側の魔力を力へ変貌させる。


胸が苦しく……心の高ぶりで暑い…………力が膨れ上がり、体の傷が急激に再生をする。


もはや邪魔になった胸当てを手で掴み……引きはがすと同時にその魔法の名前を呼ぶ……。



【オーバードライブ!!】


それが、唯一使える……私の魔法である。


                    ◇



「オーバードライブ!!」


その言葉と共に、サリアの周りに衝撃が走り、迷宮が震える。


それはラビが何かをしたわけでも、サリアが何かをしたわけでもない。


ただ、サリアは己の持つ魔法を解放し……形にしただけ。

たったそれだけだというのに、サリアを中心に大気が震え……誰もがその姿に圧倒される。


「あれは……」


驚愕に息を飲み、僕はそうつぶやくと。


「第十二階位……オーバードライブ……身体能力強化系で最も高位な魔法だね……本当サリアちゃんってば、ビルドアップを覚えただけで……最高位の身体強化呪文まで応用で覚えちゃうんだもん……嫉妬されるのも分かるよ~」


解説をしながら先ほどまで磔にされていたシオンが僕の隣にまでやって来てそう語る。


「シオン……無事だったの……って、シオン、その手!?」


シオンの手を見てみると、その左手にはサリアの陽狼が握られており右手は、右手首より先になければならないものがなくなっており、その断面は焦げたように黒ずんでいる。


「……まさか、アンタ自分で」


「えへへー、なかなか抜けないから、迷宮教会のレンガごと焼いちゃったー」


小さく舌を出してそう笑うシオンであったが、その表情は完全に強がりであり、激痛に耐えていることが容易に見て取れる……。


「本当に無茶して……馬鹿シオン」


「カルランを助けるためだし……サリアちゃんがあんなにボロボロになってるのに、私だけのんびりしているわけにはいかないからねぇ~」


「馬鹿……ありがとうシオン」


無理をして笑うシオンに僕はそっと感謝の言葉を漏らす。


「いいってことだよー! 見たらすぐに、寺院で傷治してもらえそうだしねー」


「え?」


シオンの発言がよく理解できず、僕は首をかしげるが。


「強いよ……今のサリアちゃん」


シオンはそれだけつぶやいて。


「サリアちゃん! やっちゃえ!」


左腕で陽狼をサリアの元へと放る。


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