206. シオンとの仲直りとうるさいティズ
「すっきりした?」
「……はい……ぐすっ」
「じゃあ、離れるよ」
「ええ……その……ありがとうございました」
泣き声が響き渡った礼拝堂は今は静まり返り、僕はそっとサリアを胸から離す。
べったりと服がサリアの涙でぬれてしまっており、サリアは顔を胸から離すと一瞬ぎょっとした顔をして、ばつが悪そうな表情で。
「……あ……そのえと……ごめんなさい」」
小さく、絞り出すように顔を真っ赤にして謝罪の言葉を述べる。
「あーまぁ……少しすれば乾くよ……たぶん」
僕は乾いた笑いを浮かべて自分を見てみる……なんだろう、母乳でもあふれてしまったかのような濡れ具合だ。
男の子なのに。
「すみません……本当にすみません」
「まぁまぁ……今回ばかりは仕方ないよ……もう大丈夫そうかい?」
謝るサリアの肩をそっと叩き、僕はサリアにそう問うと。
「ええ……ありがとうございます」
サリアはすんと鼻を鳴らして僕をいつもの凛とした――目が赤く腫れあがっていて、可愛らしさが出ているが――表情で僕を見つめかえす。
その瞳には曇りがなく、僕はもう大丈夫そうだと一人判断をして胸をなでおろす。
「じゃあ、早くシオンに顔を見せてあげよう……今頃きっと気が気じゃないだろうし」
「あうぅ……シオンには悪いことをしてしまいました」
「随分と一人で抱え込んでたみたいだからね……ちゃんと仲直り……というか、お礼を言うんだよ? 結構大変だったみたいだし……あと、グリモワールを盗んだことは」
「ええ、分かっていますよ、マスター……すべて私の為にやってくれたことです……」
僕はそうシオンの頑張りをサリアに伝えてみるが、サリアは委細承知といった様子で首を横に振って僕の言葉をやめさせる。
どうやら何も心配はいらないらしい……。
そう判断をして、とりあえず僕は服を着替えるために、サリアと共にシオンの待つ客室へと戻ることにするのであった。
◇
「ごめんなさあああああああああああああああああい!」
部屋に戻ると、先ほどまでのサリアよりも大粒の涙をこぼして泣きじゃくりながら、シオンが僕たちの元へ走り寄り、そのままダイビング土下座をしてのける。
その飛び込みから土下座までの一連の動作は、まるで今の今まで練習をしていたかの如く洗練されており、その土下座を止めるいとまも与えられずに、完璧なるDOGEZAが僕たちの前に完成する。
「ごめんね、本当にごめんなさいサリアちゃん! 嘘ついてごめんなさい! 大切な物盗んでごめんなさい! ちゃんと言えなくて! 全部全部かくして……怖かったの、サリアちゃんが、サリアちゃんが傷つちゃうって思って……でもでも……結局余計に傷ついたよね……ごめんね、本当にごめんねサリアちゃん……」
涙を流しながらシオンはそうサリアに謝罪を続け、大声で泣きじゃくる。
そんなシオンにサリアはそっとしゃがみ、土下座をするシオンの肩をそっと叩く。
「頭を上げてシオン……あなたは何も悪くないで……たった一人で、私に気づかせまいと色々頑張ってくれたんですね……ありがとうシオン……本当にありがとう」
優しい声をかけられたシオンは、びくりと体を大きく震わせ……恐る恐る上目遣いで顔を上げ……。
「……サリアちゃん……おこってない?」
そんな子犬の様な表情でサリアに問いかける。
「なんで怒るのですか……?」
「まだ……お友達でいてくれるの?」
「もちろんです……あなたは私の為に必死に頑張ってくれた……あなたの様な親友をもてて私は幸せ者です」
サリアは天然で言っているのだろうが、シオンにとってはその言葉はあまりにも嬉しい言葉であったらしく。
「さりあちゃあああああああん」
シオンはまたもやおいおいと泣き出してサリアへと抱き着く。
「な、なんでまた泣くんですかシオン!?」
「うええええぇ……それはとってもうれしいからだよぉおおおぉ……」
「よしよし……これからも魔法……教えてくださいね」
「まかせてよぉおおぉ! 世界最強のばあーさぁーかぁーにしてあげるからぁああ」
「それはちょっと……」
泣きじゃくるシオンにそれを優しく抱き留めて頭を撫でてあげるサリア。
まるで姉妹みたいな二人に僕はくすりと微笑を漏らし、そんな花のある二人のツーショットを邪魔しないようにそっと扉を開けて、外へと出る。
放っておけば涙は乾くだろうし……邪魔をするのも野暮というものだろう。
ぱたり。 と、扉を閉めるとさすがはお金をかけているだけあり、シオンの泣き声は廊下までは聞こえてこなかった。
「そういえば……カルラは大丈夫だろうか?」
客室に戻っていないということは……まだどこかを出歩いているということだが……。
心配するほどではないが、僕は少し気になったので、一人クレイドル寺院をふらふらとカルラを探して歩くことにするのであった。
◇
「あら、ウイルじゃない? しまらない顔してるわね、シャキッとしなさいよ」
一人散歩がてら、カルラを求めてふらついていると、曲がり角でちょうどティズと鉢合わせになり、開口一番にそう表情にダメ出しをされる。
「いきなりご挨拶だなティズ……まぁいいけれども。 そういえばカルラを知らないかい?」
「ちょっと、私を前にして他の女の話を開口一番にするってどういう了見よ……あれか? 美乳か? 美乳にやられたのか!? 」
「まぁ、カルラは開口一番に人の顔にダメ出ししないからね……」
そんなことよりも、カルラって美乳なんだ……嬉しい。
「むきー! アンタだんだん口が達者になってきたわよね……まったく、どこでそんな減らず口覚えてくるってのよ」
「僕の目前のお方からだと思うのですが」
「?……後ろには誰もいないじゃない」
「ティズ、君だよ君……」
「アンですって!? そんな私いつの間にそんなトークスキルを?」
「あ、そう取るんですね。 流石ティズさん……前向きだなぁ」
「あによ、今日は良く褒めるわね、妖精はいつだって前向きなのよ? ところでアンタその胸どうしたの? 片側の胸から母乳が出る病気にでもかかった?」
そんな病気発症したなら、カルラじゃなくてシンプソン探してるよ……。
そう僕は心の中で突っ込むが、口に出すのは面倒なので黙ってティズをつまみあげて頭の上に乗せる。
「むー……」
ジョークをする―されたのが気に食わなかったらしく、ティズはむくれたような声を出して不機嫌そうに羽で僕の頭をぺちぺち叩くが……まんざらでもないようでそのまま頭の上に座り込む。
「……これなら満足だろう? で、カルラはどこにいるの?」
「ふーんだ、あの子なら今あんたとは別の男にあってるわよ、残念だったわね」
「シンプソンの所か……ありがとう、ついでに病気も治してもらうよ」
僕はティズの皮肉を軽く回避して、変わらずのんびりとシンプソンの部屋を目指す。
「ちょっと! 少しは反応しなさいよ寂しいじゃないのバカ!!」
「したでしょちゃんと……」
「妖精は常にフレッシュな話題の方に反応してほしいのよ! すぐに忘れるから!」
「えー、面倒くさー」
僕はそうかまってちゃんな妖精にため息を漏らし、ティズの情報の通り、シンプソンの元へと向かうのであった。




