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203.200話突破記念お風呂回! 後編 女の子だけでお風呂

「もう……シオンには困ったものです……」


その後、のぼせて気を失ってしまったマスターを部屋まで運んだあと、今度はゆっくり温泉に浸かることにする。


現在このお風呂に使っているのは私とティズとカルラだけ、事件を起こしたシオンは反省としてマスターが目を覚ますまで看病をすることを命じた。


「は、はだ……裸……裸見られちゃいました」


カルラは少しショックが強かったようで、顔を真っ赤に染めながら顔を押さえている。

「むっ……お、思い出させないでくださいカルラ……思い出したら、なんだか恥ずかしくなってくるじゃないですか……お、お師匠以外で初めてです……男の人に裸を見られるなんて」


「……アンタ、いしのなかから出てきたときに湯気なしもろで全裸見られてるし」


「……そうでした」


忘れていたほうが幸せだった。


「裸……」


顔を赤くしながら、ブクブクと口元を湯船に沈めて泡を立てているカルラ。


可愛らしい。


「まぁまぁ、過ぎたことを言ってもしょうがないわよ……うん、しょうがない。 元気出しなさいカルラ。 裸の一つや二つ減るもんじゃないんだから」


そうティズはカルラの頭の上にとまって、優しく髪を撫でてあげる。

今気づいたがティズはなにやらカルラには甘い傾向にある。


「い、いえ……その、見られたのは確かに恥ずかしいんですけど、そうじゃなくて……私………体中傷だらけだから……う、ウイル君……気分悪くしたり……してないかなって……た、倒れちゃったのも私の体が……傷だらけで汚かったから……そんなわけないってわかってるのに……そんな、そんなことばっかり考えちゃって」


「……カルラ」


迷宮教会の聖女として活動していた時、ブリューゲルによる聖女の仕事という名目で行われていた拷問……何度も殺され何度もいたぶられた少女の体は、既に傷だらけであり、傷跡ややけど跡が生々しく体中に刻印のように刻まれてしまっており、シンプソンが渡した止血帯の部分だけが、そのままの普通の肌のように見える。


確かに、女性にとってこれだけの傷を見せるというのは、大変な辱めに近い。


しかし。


「大丈夫ですよカルラ……マスターは人の心の清らかさを見る方です……素性や偏見を気にせず、常に中立な立場で人を愛し人を守る……そんな正義な人なのです。 あなたが傷だらけであろうと、マスターはきっと態度を変えることなどありません。 お約束します」


マスターにはそんなことは些末事である。


愚かな私を笑って許してくれ、さらには道まで指し示してくれるようなお方だ……。


「そ、そうですか?」


「そうですとも! ね、ティズ!」


「そーよそーなのよ! ウイルはいつだって正しいことしかしないのよ! ちょっとエッチだけど! 困ってるやつは絶対放っておかないの! 見ず知らずのこんな騒がしい妖精の為に命簡単に投げ出すような素敵なお人よしだからね!」


「てぃ……ティズさんあんまり叩かないでください……」


ティズは興奮気味に鼻息を荒くしながらカルラの頭をぺしぺし叩きながら熱弁をする。


いつもマスターの前では悪たれているが、マスターがいなくなるとこの調子のティズは、素直になれない童女に見えて、いよいよマスターの妹という称号がしっくりくるようになる。


「み、皆さん……う、ウイル君に助けられたんですね……」


カルラは少し嬉しそうに、浮かび上がる。


「そ、ここにいるやつはみーんなウイルを中心に回ってるの。 あいつは気付いてないけどね……私達には、ウイルがいないとだめなのよ」


ティズは一度飛び上がると、幸せそうに空中で旋回をしてそうはにかむ。


私はそういわれて初めて、その通りだと気づく。


本当に不思議なお方だ。


「マスターに出会えて本当によかったです……少しおかしな話ですが、魔法が使えない体に生まれて……正解だったのかもしれませんね……あ、いややっぱ魔法は使いたいです……あーでも……うー」


「いつもは竹を手刀でぶった切ったような性格してるのに……魔法が絡むとおかしくなるわねアンタ……内にいる獣とはよく言ったものだわ」


「うちにいる?」


「北の地方に伝わる慣用表現ですよ……人は皆誰しも心に獣を飼っていて、いつもはおとなしいのですが、その琴線に触れると急に怒ったり大泣きしたりする……そんな瞬間がある。 それが内にいる獣が暴れだすっていうんです」


「へぇ~」


「アンタの呪いもその一種なんじゃないの?」


そうティズが冗談めかしてカルラへというと。


「あ、あーなるほどー!」


ティズの冗談にカルラは納得いったというように手をポンと打つ。


「今まで、急に性格がおかしくなっちゃうのはとっても変で……は、恥ずかしいと思ってたんですけど……だ、誰でもあるもの、なんですね……何でしょう、す、少し安心します」


「いや……あーまぁそういう事よ。 アンタなんかより、変な奴なんてこの世にいっぱいいるんだから……急におかしくなったりしたくらいじゃ驚いてなんかやらないんだから」


「え、えへへ……あ、ありがとうございます」


楽しそうにカルラは笑い、そっと頭を私の肩に乗せてくる。


「カルラ?」


「ふ、ふあっ! ごごご、ごめんなさい! え、えと! ささ、サリアさんお姉ちゃんみたいで……自然にというか……なんというか!?」


お姉ちゃん……。


私の耳を、なんとも心地よい言葉が駆け抜けていく。


「いいんですよ、カルラ……」


私の中の、何かが目覚め、そっとカルラの頭を抱きよせ、方へと乗せる。


「ふ……さ、サリアさん!?」


「スキンシップも大切ですからね……」


「………ぅん……」


そう抱き寄せた手でカルラの頭をそっと撫でると、カルラは小さく声を漏らして頷く。


「どうですか?」


「すっごい……お、落ち着く……」


「なんかすごい絵面ね……」


ティズはそう突っ込むと、花を加えるように私の頭に座り、しばらくそんな時間をすごしていると。


「そ、そういえば……すこし、気になったことがあったんですけど……一つ聞いてもいいですか?」


カルラは私の肩に頭をのせながら、思い出したかのように呟く。


「いいですよ? どうしました?」


私がそう聞くと、カルラは一度こちらを見ると。


「サリアさんのお腹にあるこれって……」


視線を下に移し、そっと私のお腹の紋章を撫でる。


「これ? あぁ珍しいですよね、私の故郷であるエルフの里にある刻印でして、魔法の力の一部を受け継がせることができるんです……ふつうはもっと小さいんですけど、私は生まれつき魔法が使えなかったので、父と母が二度……私に魔法が使えるように刻んでくれたのです……」


「随分と泣ける話よね」


「……ええ、落ちこぼれと笑われた私を常に守ってくれた……笑っていてくれた、そんな父と母の為に……私は魔法を求め続けてきたのです……きっと、それが二人の願いだったから」


「え……でも……」


そう語る私に……カルラはそう驚いたような表情を私に向けて。


                      ◇


目が覚める。


「目が覚めた?」


隣を見やるとそこにはシオンが座っていた。


「どうやら倒れちゃったみたいだね」


「少しだけだったけどねー、私のせいでごめんなさい」


シオンはそう軽く謝罪をする。


その表情は少しくぐもっており……。


「どうしたの?」


いつもとは違う……王都襲撃後、月の夜に見せたあの表情を僕に見せた。


「……えとね……相談があって……いいかな?」


「相談?」


二人きりになった客室のベッドの上……シオンはいつもの明るい表情ではなく、瞳を曇らせた状態で僕を見つめ。


「うん……サリアちゃんの……呪いについてなんだけど」


                 ◇


「でも……それ……呪い……ですよ?」


カルラはそう、私の現実を侵食した。


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