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195.雨漏り

「本当に大丈夫なんですよね!?」


未だにシンプソンいじりを続けている二人。


飽きないのはわかるがそろそろ話をもとに戻さないと……。


「まったく、シオン、サリア……あんまりシンプソンをいじめるんじゃないぞ?」


「はーい」


「え? しかし……」


「はいはい、アンタの作戦は失敗するからもうそこらへんにしときましょうねー」


「むぅ」


……何やらサリアの反応に不穏なものを感じたが、僕はとりあえずスルーをして話を続けることにする。


「とりあえず家を焼かれて拠点を失ったけれど、やることは変わらないね……王国騎士団に協力を仰いで、迷宮教会をつぶしてもらう……伝説の騎士が動くとなると、少なからず妨害はあるかもしれないけれども……サリアがいればそこはカバーできるしね」


「ふぅむ……」


一瞬考える様な素振りをサリアは見せ、うなる。


「どうしたのサリア?」


「え? あぁいえ……その方向で動くのが、一番良いと思うのですが」


「何かが引っかかるのかい?」


「ええ……迷宮教会はなぜ……家を焼いたのでしょうか?」


「そんなの、あいつらがいかれてるからに決まってるじゃない」


「……そう、ですよね」


「あ、あの……さ、差し出がましいのですが……ぶ、ブリューゲル司祭は呪われた狂人ですが……その、頭は、切れる人間です……な、何か……考えがあってと思っていたほうが……」


「あのいかれ野郎に考えが?」


「ええ、と、特に情報収集能力に関しては……あ、アンデッドハントを除けばこの国で最高の諜報機関だと思います……この王都には約四百人の諜報部員がいて、迷宮教会の人間の狂信ぶりはパフォーマンスで、日常に隠れている諜報部員を目立たなくさせる狙いもあるんです……」


「四百……そんなに迷宮教会の人間が王都で諜報活動を?」


「私も全員の顔を把握しているわけではありませんが……か、彼らは一時間単位でブリューゲル司祭に報告を行っていて……有事の際は人の記憶を盗み見てでも……情報収集を行います……例えば、今回の王都襲撃の時も……」


「誰かが頭の中覗かれてるってわけね! まったくとんだ馬鹿者だわ、私だったらそんなへましないけどね」


「全くですね」


「…………」


「なるほどー。狂ってはいるけれども頭は正常に働いてるってことだねー……質が悪いねーそれは」


『はぁ』


一同はため息をつき、話はそこで止まってしまう……。


僕は何となしにシオンの方を見てみると、シオンは困ったような表情をしつつ、とぐろを巻いてシオンに甘えるナーガラージャを撫でている。


呪いの生物のくせに、気持ちがよかったのかくあっと大きく欠伸なんかしている。


「し、シオン……シオン! 私にも撫でさせてください!」


意外とかわいい者には目がないサリアは、ナーガラージャに先ほどから少し興味があったらしく、辛抱たまらんと言った様子で両手を伸ばして瞳を輝かせて催促をする。


「いいよー、はい!」


シオンはそういうとそっとナーガラージャをサリアの方へと渡すと。


「おおお! で、では遠慮なく、なでなでしてあげましょう!」


ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッド


という効果音を鳴らしながら、サリアはそう嬉しそうに手を伸ばすと。


「!!」


ナーガラージャはその手を避けるようにしてシオンの後ろに隠れてしまう。


「な、なんでですか!?」


「……怖かったみたいだね~」


「こわっ! 怖くない! 私は怖くないですよー!?」


「マスターウイル……あの蛇なんなんです?」


「なんか、寄生型の呪いを一つにまとめたらできたみたいだよ?」


「のろっ!? なんちゅーもん寺院に持ち込んでるんですか!?」


「ナーガはいい子だよ! 勝手に人を呪わないようにもしつけてあるし―!」


「いやいや! 神父として寺院にやはり呪いを持ち込むのは……」


そう、神父がご高説を垂れようと口を開くと。


「神父様―! なんか雨漏りしちゃってるみたいなんですけどー! 見てもらってもいいですかー!?」


不意にクーラさんの声が響き、シンプソンは口をパクパクさせた後ため息をついて立ち上がる。


「えーと、ちょっとその生物をどうするかは後でしっかりとお話しさせていただきますよマスターウイル……さすがに呪いはまずいですって」


そういうとシンプソンは慌てて立ち上がり、足早に雨漏りの状態を確認しに、クーラさんの元へと掛けていく。


「シンプソンもいろいろ大変なんだね……シオン、シンプソンの家だから、戻ってきたらシンプソンの指示に従ってね」


「最悪呪っちゃえばいいのー?」


「できれば平和的解決でお願いします」


「ナーガはいい子だからきっと気に入るよー」


「あー……はぁ。まぁいいや……」


シンプソンが帰って来てから交渉をしよう。


「ナーガちゃんって……いうんですね……ふふっ……かわいい」


「でしょー! カルランはやっぱり見どころあるねー!」


「わ、私も、な、撫でていいですか?」


シオンはそういうと、カルラの元へナーガラージャを連れていき、カルラはそっと手を伸ばすと。


「……ツチャー」


ナーガラージャは低くうなると逃げるようにシオンの中へと戻っていってしまう。


「あ、あれれ……わ、私もき、嫌われちゃいました? 怖かったかな?」



「あー、意外と繊細なんだなこの子―。 ごめんねカルラン、多分この子も一応呪いの一つだから、ほかの呪いを持ってる子にはなつかないみたい。 カルランは怖くなかったよ」


「あうぅ……」


少し残念そうに肩をおとすカルラであったが。


「早く呪いを解いて、ナーガを撫でまわせるようにしなきゃね」


「シオンちゃん……はい!」

何やら奇妙な友情が二人の間に生まれたらしく、シオンとカルラは楽しそうに笑いあいながら談笑を始める。

どうやらカルラの初めての女の子の友達は、シオンになりそうだ。


「くすん……つまり私には見込みはないってことですね……いいですよもう、あちらの邪魔をするのは野暮と言うものなので、こちらはこちらで話を続けましょうか」


「災難だったねサリア……」


「まぁ、それは置いといて、とりあえずブリューゲルの奴だけど」


「家を焼いた理由があるとしたら何があるか……ですね」


家を焼くことによって彼らに何かメリットがあると言えば……。


「証拠隠滅かしら?」


「そもそも襲撃した時点で出会っているんですから……証拠も何もないのでは?」


「んー……」


「結果だけ見てみれば、迷宮教会が民家を襲撃して街に呪いをばらまいた……騎士団も動き出すし、街の人間からもすくなからず排除しろと言う声も上がるはずよ? 何もいいことなんてないと思うんだけど?」


「もし、仮にだけど……カルラのいうことを総合するとだけど……」


「だけど?」


「人込みを作りたかったとか?」


「!!」


「そうか……民間人に紛れて……私たちを」


「尾行はありませんでした……しかし、油断をしていました……会話の内容から……クレイドル寺院に私たちがいまいることを気取られた可能性は高い」


「呪いをばらまいたのは?」


「呪いに対処できる人間がいるか否かを調べるためでは?」


「……私たちの情報を得る為に、家を丸ごと焼いたっての?」


「通常ありえないリスクの大きいやり方ですが……困ったことに今の我々には痛いほど刺さっています。 恐らくこの居場所もばれ、シオンが呪いを解呪できる人間であることも、使用した魔法からおおよそのレベルまで割り出されているかと……」


「まんまとしてやられたってわけね……でも、シオンの情報が分かったくらいじゃ……そう簡単にせめては来ないはずよ……その間に拠点を移せば……」


「そこで気になってたんだけど……それだけ仕掛けてくるんだ、シオンだけじゃなくてサリアの情報も調べようと思えば調べられたわけだよね? それに、カルラのいうブリューゲルの人物像の通りなら、昨日の襲撃だって……万全の状態だと思ったから攻めてきたとも考えられる……ある程度の情報が……相手にあったって考えられないかな?」


「情報が知られていた? ですか?」


「どういう事よ」


「いや……襲撃の話だけど、彼らはなんで僕たちの家の場所を知っていたんだろう?」


「!!」


サリアは目を見開き、まさかと言葉を漏らす……。


そのまさかである。


「彼らと敵対してからか、それとももっと前からかもしれないけど……ブリューゲルに僕たちの情報はわたっている可能性がある……。 下手をしたら、伝説の騎士であることも」


「……つまり、家を焼いてシオンの情報を得ようとした……ではなく、想定外の力を見せたシオンの情報を補完するために家を焼いた? と言う事ですか?」


言葉にすると小さな違いかもしれないが、これがもし正しいとなると……状況はまったく違ってくる。


シオンの炎武に関しては、僕たちもあまり詳しくないし、呪いの知識も仲間である僕たちだってノータッチだ。


記憶を読み取って情報収集をしていても……罠の存在も、呪いを感知できる方法を習得していることも知ることは出来なかっただろう。


だから、シオンの情報だけ集めようとした。


「そう……そして……ぼくが伝説の騎士であることがブリューゲルに知られているとしたら……ぼくが最初にやろうとしていたことは、見事に妨害されたことになる」


王国騎士団長……レオンハルトへの面会。


騎士団員たちにすでに伝えてしまったことにより……僕たちは再度レオンハルトへ面会することをためらってしまった。


しかし……先ほども言った通り……騎士団員から上へ報告が上がるまでには、タイムラグが生まれる。


もしかしたらまだ、レオンハルトには情報が行っていないかもしれない……。


もし、家を焼くことに……王国騎士団が動き出すのを、遅らせる目的があったのだとしたら?


「情報も万全で、王国騎士団も動かない……今この時間こそ」


「襲撃の……機会? ま、まさかそんな……」


ティズがそう困惑したような表情で僕の言葉を否定する。


「そうですよマスター……現に我々の情報が完璧であるなら、メルトウエイブを持つシオン相手に襲い掛かってなど来るはずがありません……」


「そ、そうだけど」


サリアのいうことももっともだ……。 でももし、何か隠し玉があったのだとしたら。


「少し、疑心暗鬼になっているようです……シンプソンにお酒でも貰ってリラックスしましょうマスター……」


「そういえば、あのあほ神父遅いわね、雨漏り見に行ったついでに自分で治しちゃうつもりかしら……経費削減っていって」


「ふふっ、ありえそうですね、少し見に行ってみましょう……」


そう緊張した空気を和らげるように、サリアとティズは冗談を漏らし、サリアは様子を見に扉の前へと向かい……。


僕はふと気づく。



「ねぇ、外、雨なんて降ってないよね……どうして雨漏りなんてするんだろう?」



その言葉と同時に……


「おめでとう……正解です」


「えっ……」


白銀の刃が扉を突き破って伸び……サリアをさし貫いた。


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