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179.カルラ語り

カルラの言葉に、僕は一度息を飲む。


「迷宮で生まれた?」


「え……ええ……私は、迷宮で生まれた迷宮の子……だ、だから……昔、その、い、いろんなところから忌み嫌われていて」


「迷宮で生まれたって? どういうこと? 本当に迷宮で?」


「わかりません……本当は迷宮で捨てられた捨て子だったのかも……しれません……でも、魔物蠢く迷宮で……わ、私は拾われた……襲われることも……死ぬこともなく……無傷で冒険者の方に拾われて……孤児院にお世話になることになりました」


僕は伏し目がちに語るカルラの手が少しだけ震えていることに気が付き、そっと握る力を強めて話の続きを聞く。


「私の生まれた国にある迷宮は、とても凶暴な魔物が多いことで有名で……だから無傷で生還する赤子など奇跡に近くて……私が物心つくころには……すっかり……私は忌み嫌われ恐れられる存在でした」


反論も何もできない赤子……そんなカルラが、物心ついて初めて触れた視線は……軽蔑と畏怖の目。


そんな状況を考えて……僕は背筋が凍る。


人は誰しも、愛情を知って生まれてくる……子供は常に自らが世界中のすべてから愛されていると勘違いをしながら成長をする……。


そうして、人を愛し、人に愛されることを学ぶのだ。


だが、カルラにはその時間がなく……生まれた時から~忌み~のみを押し付けられ続けてきた。


それがどれだけ苦痛で、絶望的だったのか……僕は想像すらできない。


始めて人の感情に触れた時……彼女はどれだけ恐怖と絶望を味わったのか……それを共有することも何も……祝福されて生まれたぼくには許されないのだ。


「孤児院ではずっといじめられて……院長は私のスープに砂をいつもいれていました。

パンに石が入っていて……一本歯が折れたこともあります……でも、私はそういうものなんだって……受け入れて、15になる日が来たら、私はここを出てずっと一人で生きていく……迷宮で生まれたから、私はここにいてはいけない人間なんだってなんとなくわかっていたんです」


そんなことはないという言葉を飲み込み、僕は静かに続きの言葉を待った。


「でも、ある日です……私が10歳の時……私を訪ねてくれる人がいた」


「それが」


「ええ、それが、ブリューゲルアンダーソン司祭です」


「なんで君を?」


「迷宮で生まれた少女……という話をどこかで聞いてきたのでしょう……迷宮教会の聖女として、私を引き取りたいと孤児院を訪ねてきたんです。迷宮で生まれ、魔物に襲われることなく帰還した私は……ラビの寵愛を受けた聖女だから、迷宮教会の象徴として引き取りたいと」


仰々しい一礼をしながらそう語るブリューゲルは容易に想像できた。


「わ、私……はじめは嬉しかったんです……迷宮で生まれたことを忌み嫌う人しか知らなかったから……こ、子供ながらに……迷宮で生まれたことを喜ぶ人もいるんだって……だ、だから、私……聖女として……生きることを……受け入れたんです」


「でも、拷問が待っていた」


「………………………はい……」


カルラは長い沈黙のあと、短くうなずく。


「迷宮教会の聖女は、誰よりも痛みを受け入れ……常に生と死のはざまを生きなければならない存在……。 そう叩きこまれながら……死んでは生き返りを繰り返しました……」


「ひどい話だ」


「でも……ここが私の……私の居場所だから……。 だから痛くてもつらくても……きっと必要なことだって自分に言い聞かせて耐えてきたんです。きっと聖女として頑張れば……ブリューゲル司祭も喜んでくれる……そう信じて……もしかしたら、愛してくれているのかも……そんなふうに……期待、していたんです」


くっと、唇を噛んで、カルラは瞳を閉じ、一拍を開けて。


「でも、違った」


そう絞り出すようにつぶやいた。


「……司祭は、ラビが……ラビが欲しかっただけ、迷宮教会の象徴と、ラビの……体の封印を解く……その器が欲しかっただけ……それに気づいたのは……すでにラビの封印を解いた後でした」


「何があったの?」


「……ブリューゲル司祭は、わ、私を……ラビにしようとしたんです」


「は? カルラを、ラビに?」


カルラの言葉に、僕は一度疑問符を浮かべて聞き返す。


「……ラ、ラビはアンドリューに封印されて……に、肉体と魂を別離させられています。

ただ、十年も経過したラビの肉体はほぼ死に絶え……司祭の予想では使い物にならない状態になっているとのことで……そ、その……膨大な力と記憶と人格、そしてラビが常に振りまき続けていたというの、呪いを……私に取り込み……そ、そのあと……ラビの記憶……じ、人格を移植しようと……していたんです……幸い、か、完全に人格が取り込まれる前に逃げ出せたんですけど……わ、私が呪いを発動すると……ラビの人格が表に出てくるのは、それが原因で……」


「なっ……人格を移植?」


「え、ええ……迷宮第五階層でラビの力の封印を解いた際……ぶ、ブリューゲル神父は呪いと力のみを私に預け……残りを最高純度の魔鉱石に封じました……」


「なぜ?」


「ひ、一つの器に二つの魂を無理やり投入すれば……その人格は破壊されてしまいます……。 だ、だからその……司祭は、じ、人格を少しずつなじませ……私がラビになったところで、カルラの記憶を消去し、ラビの記憶とすり替えることで……ら、ラビの復活をもくろんでいました。 わ、私のユニークスキルさえあれば……の、残りの封印は……解除ができるので」


「そういえば以前、ブリューゲルが言っていたね……君は、人に力を分け与えることができるユニークスキルを持っているって」


「ええ、生と死を繰り返し、その狭間に浸ったものだけが覚えるスキル……幽体化……。

私は、自らの意思で 魂だけを表に出すことができるんです……も、もちろん普通の人にはみ、見えないんですけれども……そ、そして……その少し後に習得した【形質変化】と【形与え】でラビの封印を解除したんです」


「形与え?」


「た、魂はそのままでは基本……ひ、人に触れることは出来ません……ゴーストも魂ですが、あれは高濃度の魔力が形を作っているだけで、魂そのものは人に害を与えることもものに触れることもできません……ですが、私のスキル、形与え。 本来は魂の様な触れられないものに形を与え触れられるようにするという不思議なスキルなのですが、それの応用で、幽体化の力で表に出した魂に形を与え……魂のみで物理的な干渉を可能にしています。

そして、形質変化……これは元々、何かの形を簡単に変えられるというスキルなのですが……私は本来人型にしかなりえないはずの自らの魂の形を……自在に変えて操ることができるんです……」


「つまり?」


「う、ウイル君やサリアさんに防がれた……不可視の呪いの触手の誕生です」


「……あぁ、なるほど……ブリューゲルの触手に比べて、カルラのは見えないからどういう仕組みなのかと思っていたけど……」


「司祭の呪いは……一から呪いを作りだして……相手にぶつける技です……で、ですが、私にかけられている呪いは元々侵食性の呪い……私の魂に触れるだけで……呪いは蔓延します……まぁ、侵食する意思がなければ浸食はしませんが……。名前や効果は同じですが……や、やっていることは全く違うんです……また、形与えの力で……この不可視の呪いを、地面や壁に固定することもできるんです」


「固定?」


「え、絵や文字を書くみたいに……の、呪いに形を与えて……壁や、床に塗るんです。

そ、そうすると薄く延ばされ、人に害を加えない、感知もできないくらい程度の呪いが……私以外には見えはしませんが……壁に残るんです……こ、こうすることで、目に見えない魔法陣が……か、完成します。 ご、ごめんなさい……王都襲撃の時に使用された……不可視の魔法陣の正体はこ、これなんです」


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