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176.アルフとデウスエクスマキナ・レプリカ

アルフサイド……。

「はぁ~あ……アンデッドハントが王城を襲撃、忍がウイルと共に脱走ねぇ……レオンハルトの奴、随分と嬉しそうだったがどうしちまったんだか」


一階層の魔物を蹴散らし、獣王をその威圧で引かせ……無限頑強のアルフレッドことアルフは大斧を揺らしながら一人迷宮第三階層へと続く道を歩く。


迷宮教会からの情報を頼りに、聖女を引き取りに王城に向かったところ、王城ではアンデッドハントの襲撃があったと大騒ぎ、レオンハルトは嬉々とした表情で逃がしてしまったと語っている始末。


「本当にあいつなんであんなに嬉しそうだったんだ?」


マスタークラスのアンドリューの隠密部隊が襲撃したとはいえ、王都を襲撃した人間が一人脱走をし、しかもその忍を助けに来た人間とアンデッドハントが衝突し、避難区域が氷漬けになったという報告を聞いても、レオンハルトも王城内の兵士も、特に王城の外を捜索する気配もなく、皆が皆任務を無事に達成したかのような満ち足りた笑顔で怪我人と呪いにかけられた人間の手当てをしていた……あの異様な表情にアルフは疑問符が頭から離れない。

てっきり忍を助けたウイルも同罪で追われるのかと心配もしたが、そんなことする気配すらなかった。


まぁ、その原因というのは当然のことながらいつも通り勘違いであり、レオンハルトはあの忍の脱走も、アンデッドハントの襲撃も、全て伝説の騎士の策の内ととらえているためだ。


牢獄の内装を気にしたり、忍が呪うための人間を用意するようにとあらかじめ人員配置をさりげなく命令していたり……そもそもこの王城に脱出ルートを王都襲撃の際に作っていたりと……思い返せば伝説の騎士とそのパーティーは、この時の為に布石を何度も打っており、思い返せば思い返すほど鮮やかな、その手際の良さに部下ともども感激をし、それゆえに皆が皆満ち足りたような表情をしていたのだが……まぁそんなことアルフが知る由もなく、仲間想いのアルフに心配の種が一つ増えてしまうだけであった。


「とうとうおかしくなったか? ロバートの奴酷使しすぎなんだよなぁ……最近じゃ、野良ネコを愛してるとかのたまってるみたいだし……ヒューイの奴もあれじゃあ報われねぇなぁ……っと……」


いつもの癖でぶつぶつと独り言をつぶやきながら迷宮三階層へと到達したアルフは、なんとなく予想をしていた事態に一つため息を漏らす。


「やっぱりデウスエクスマキナかよ……」


僧侶からウイルとシンプソンと忍が三階層に向かったと聞いた時から嫌な予感はしていたが、言うまでもなくしっかりとちゃっかりとデウスエクスマキナが起動していることに気が付く。


「……はぁ、ったくマキナの奴ぁ……」


アルフはそう一人つぶやくと、斧を手放してジャイアントグロウスを発動し、その生物の物理法則を超越する一撃を……第三階層入り口の壁に叩き込み。


「くおおおおおらぁ! マキナぁああ! 出て来い!!」


起動する迷宮三階層に向かい、そんな怒号を響かせる。


と。


しばらくすると叩いた壁がもぞもぞと動き出し、急に迷宮三階層の壁が動き。

中から褐色肌の金髪の少女が顔を覗かせる。


その見た目はノームのようで、少しばかり垂れた耳が印象的だ。


その少女は、はじめ驚いたかのようにあたりを見回して、何事かと今起こった出来事に慌てふためいていたが、しばらくしてアルフに気が付くと。


「おおおお! アルフ! アルフだ―! ひっさしぶりー!」


「よぉマキナ……随分とひさっびさな起床だな」


「本当だねー! ほんとー!」


「迷宮の試練が稼働しているからまさかとは思ったが……」


「メイズイーターが試練受けに来たから! マキナ眠いけど頑張った! えらい!マキナえらいー! 褒めろー!頭なでろアルフ!」


「はいはい……」


アルフは飛び跳ねながら褒美を要求する少女にため息を漏らし、頭を少し乱暴に撫でる。


「えへへー」

しかし少女は満足が行ったようで、ほほを赤らめながらにこにこと満面の笑みを振りまく。

「やれやれ、本物のデウスエクスマキナに比べると、本当にバカっぽいなぁ」


「実際バカだよー! 本体の方が、ここの管理にそんな完璧な複製体はいらないって、少し馬鹿に作ったから……ほんの少しだけね!」


「開き直るな……だいたい、お前試練を受けに来たっていうが、本当にそいつは試験を受けに来たのか?」


「うん! 間違いない! 試練の壁にメイズイーター放った! 試練開始の合図に間違いない!」


「じゃあ直接試練を受けるとは聞いていないんだよな?」


「そだけど」


「けが人背負ってなかったか?」


「けが人……あー」


「いたのか」


「いた、だいじーにだいじーに抱えていた。 結婚するのかと思った!」


「結婚はしねぇと思うが、多分そいつら、ここの手術室に用があっただけだと思うぞ」


「結婚じゃない?」


驚いたような表情でマキナは首を傾げ、おろおろとする。


「結婚でも試練は受けねーだろ」


「愛の試練は?」


「そりゃ別の試練だ、メイズイーターの試練とは別」

マキナの表情が青ざめ、顔には冷や汗が流れる。

「あー……でもでも、固定砲台、まじめくん一号二号両方破壊された」


「そりゃ、お前の試練がへなちょこだからだろう」


「そ、そんなことない! そんなことないけど……でも、アルフのおかげでわかった! 

マキナ間違い侵した! よく考えた、女の子抱きかかえながら試験は受けない!」


「気づいてくれてよかったよ」


「マキナ反省! 試験中断する!」


「そうしてくれ」


「そうする!」


そういうと、デウスエクスマキナと呼ばれた少女は一度目をつむり、両手を掲げ。


「デウスエクスマキナ……停止。 通常運転モードに切り替えます」


迷宮から再度声が響き渡り、先ほどまでなり響いていた金属音は音を止める。


「ふぅ、一仕事終わった。 ところでアルフ、なにしにここへきた?」


「まぁ、先も言った通り、メイズイーターに用があってな」


「メイズイーターに?」


「あぁ、正確にはそいつが大事に抱えていた女に用があるんだけどな」


「略奪愛?」


「ちげーよ」


「アルフ悪い顔してる。 何する気? 悪戯? 悪戯はワクワクする! 悪いことは好奇心をそそる!」


「別に悪いことするわけじゃあ……たぶんねぇよ。 ただの仕事の時間さ」


「仕事?」


「おうとも……ただの冒険者の仕事さ」


 そういうとアルフはため息を一つだけ漏らし、不思議そうな表情を浮かべるデウスエクスマキナ・レプリカの頭をもう一度撫でて罠が解除され散らかった迷宮三階層を悠々と歩いていくのであった。


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