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172.ホッピング神父

「がかっ……かっ」


呪いの波に飲み込まれた機械人形たちは、皆呪いの支配下に置かれ、弓矢や遠距離用武器を下げてその場で停止をする。


「キン……キンカ……カネェ……オカネェ」


同時に巻き添え被害を喰らい、ものの見事に浸食されて操られてしまったシンプソンは、

その場にぼうっとした目で立ち尽くし、奇怪な言葉を発しながら白目をむいている。


怖すぎる。


「カルラ、シンプソンあれじゃ人様の前に出たら捕まっちゃうよ」


確かに呪いの一つでもかけてやりたいような生臭僧侶だけど……。


「ご、ごめんなさい……あそこでずっと暴れてるので、その、罠をとりあえず止めないとと……そう思ったんです」


カルラはしょんぼりとした表情で僕に謝罪をいれるが。


「まぁそれなら仕方ないね」


実に合理的な理由があったので僕はカルラにそう笑みをこぼす。


止めるためなら仕方ない。


とりあえずは死んでないみたいだし、しばらくは静かにそこでおとなしくしていてもらおう。


「さて、と。とりあえずは危機は一応は去ったみたいだけど」


シンプソンのことは置いておき、僕はあたりを見回して現状を把握する。


集めも集めたり、カルラの呪いの波に飲み込まれて支配下に堕ちたのはぱっと見でも100は優に超える機械人形たち。


この迷宮三階層のどこに収納されているのかと疑問に思ってしまうほど、この入り口前の一本の大きな道に押すな押すなのすし詰め状態で集まってきている。


罠の多い三階層でどうして機械人形たちはこんなに一つ所に集まっているのかという疑問があったが、すぐに理解する。


機械人形たちが集まっていた場所は、もともとモンスターハウスの罠が踏まれたときに、遠距離攻撃で冒険者を仕留めるようにセッティングされている場所なのだ。


持っている武器が弓矢ばかりなのもそれなら納得がいく。


幾多の罠に囲まれ、逃げ場がなくなったところで、機械人形がモンスターハウスを踏んだ人間にとどめを刺す。


そういう空間だからこそ、機械人形たちは罠を警戒せずに――もともとあの場所には罠はないとインプットされているのかもしれないが――ああやってすし詰め状態でシンプソンへと襲い掛かっていたのだろう。


「とりあえずカルラ、あの部屋まで行って落ち着こう……」


「分かりました、罠を解除していきます」


それはつまりあそこの広場には罠は仕掛けられていないという事であり、僕はカルラに指示を出すと、カルラは短くそういうと、機械兵士たちを一斉に動かす。


「オカネ……オカネ」

もちろんシンプソンはその場で待機だ。


「がかかかかかか!」


支配された機械人形は、カルラの命令により雄たけびの様なものを上げ、行動を開始する。

「わ、罠を解除しちゃいますね……危ないので」


「解除?」


「ええ……し、忍は、盗賊ほどではないですが、罠を解除できるんですよ?」


――――――カチリ――――――カチカチカチカチ。


罠を踏むたびに串刺し槍や弓矢が機械人形を打つが。


槍は一体が貫かれた後に後から来た機械人形がそれを掴んでへし折り、弓矢に貫かれた機械人形は、そのまま発射口へと歩んでいき、発射口に指を突っ込み詰まらせる。


爆発床は一度踏めばもう起動しないし、高圧電線は呪いで感電しないようにコーティングをしてから引きちぎる。


先ほどの特攻とは違い、数にものを言わせてカルラは丁寧に丁寧に罠を一つ一つ解除していく。


「安全ルートだけ確保してくれればいいのに」


「ま、万が一呪いが効かない敵が出てきたときに、罠があちこちにあったのでは……た、戦えません。そ、それに、ウイル君が怪我したら……た、大変ですから」


「そっか、ありがとうカルラ」


どちらかというと君に傷が増えないように気を遣ってほしかったのだが。


結果は同じなので僕はとりあえず黙っておくことにし、手際よく罠を解除していく機械人形に僕は少し感心をする。


「すごい手際がいいね……罠解除がこんなに早いなんて」


「自分が傷ついてもいい……前提ですから……罠の解除は……発動しないようにするのが……い、一番大変なんです……だ、だから、一度発動させちゃえば……対処法はその……すごく簡単で」


「さすがはシノビってところだね」


レベル一の時、罠で死にかけたので僕は素直にカルラに感心をする。


「そそ、そんな……盗賊……の方なら……だれでも、できます」


褒められ慣れていないのか、カルラは顔を真っ赤にしておどおどとする。


そんな表情もとてもかわいくて、そんなカルラをこんな近くで見られる幸運に僕は神に感謝をし……。


「で、できました」


神への感謝が終わるころには、僕たちのいる場所から安全地帯までの道は確保されていた。


辺りには破壊されて転がる機械人形の素材と、破壊され動作を停止した罠。


「罠も敵も排除出来て、さらには素材も手に入る。まさに一石三鳥だね」


「ええ、この調子ならほかの罠も解除できそうです」


カルラは嬉しそうにそう語り、僕は安全となった道を歩き、安全地帯まで歩を進める。


機械人形は数を減らしていたが、まだ残っており、道を作るように二列に別れ整列をしている。


「な、なな、なんだか、バージンロード……見たいですね」


ふと、そんなことをカルラがこぼし、僕は自分の現状を見てみると。


機械人形に見守られながら、少女をお姫様抱っこをして悠々と歩く僕。


確かに言われてみればそう見えなくもないが。


「こんな殺伐としたバージンロードがあっていいものだろうか」


辺りには機械人形の残骸に、結婚式場には似つかわしくない凶器が散らばっている。


「えへへ、バージンロードー」


聞いてないか……まぁ嬉しそうだからそっとしておこう。


「……とりあえず安全地帯まで来たけど、三手に分かれてるね」


安全地帯となった先は三手に分かれており、僕は少し考える。


「カルラ」


「はい?」


「カルラの支配下に置いた機械人形って、どこまで操れるの? 例えば、目の届かないところに支配下に置いた機械人形が言ったら?」


「支配下に、置いたものは基本的に視界を共有します……」


「じゃあ、呪いの触手を伸ばす距離には限度はあるけど」


「ええ、一度、あ、操ってしまえば……どこまでも」


その言葉に僕は一つうなずき。


「じゃあ……」


「機械人形……達に……手術室を探させる……ですね?」


「正解」


カルラは微笑みながら、機械兵士に命令を下し、先ほどと同じように罠にかかりながら一つ一つ丁寧に解除をしていく。


……これだけの量の人形の視界を共有しながら、同時並行作業で罠を解除していく……その人の限度を超えている技術に僕は今更ながらカルラの力に感心をし……。


そっと頭を撫でてみる。


「ひゅあい!?」


機械人形が数体爆発をする。


何もしていないのに。


「え? あ? え? う、うう、ウイル君?」


顔が茹で蛸のように真っ赤に染まり、カルラはフルフルと涙目になって震えている。


「わっ……ご、ごめ……驚かすつもりはなかったんだけど……頑張ってるから、嫌だった?」


「いいい、いいえ!……ちょちょっ……ちょっとびっくりしちゃって……そそ……その、いきなり、でしたから」


そういえばそうだ……なぜ僕はいきなり女の子の頭を撫でるなんて血迷ったことをしてしまったのか。


反省をし、自分の行動を思い出して僕まで顔を赤くしてしまう。


「そ、そういえばそうだね……ごめん、なんか、あれ? なんでこんなことしたんだろう……ごめん」


どきどきと心臓が跳ね、僕は恥ずかしそうにこちらを上目遣いでちらちらと見てくるカルラにさらに心臓の鼓動を早くさせる。


先ほどまでカルラを助けることに必死で意識していなかったが……思えばこうして昼間からずっとカルラを抱きしめっぱなしの状態だ。


「え、えと……その、あ、謝らないでください……ウイル君……その、わたし、頭なでられたの……初めてなんです……びっくりしただけなんです……で、でも……えへへ、いいですね……あったかくて……とっても嬉しいです。も、もしよければ……その……もう少し……」


「そ、そう?」


聖女の微笑みがそこにはあり、僕はそれならと顔を赤くしたまま彼女の頭を撫でる。


「安心する……」


カルラはそう表情を柔らかくしながら……それでいて作業の手は休めることなく、機械人形を操っていく。


と。


「あ……人形が少し足りなくなってきました」


カルラはそう呟き、僕はそれにつられてあたりを見回してみると確かに、迷宮の探索は続いているが、人形の数はあっという間に一桁になってしまっている。


だが……それは問題にはならない。 なぜなら。


「大丈夫大丈夫……シンプソン! ジャンプ!」


「……ジャンプ……ブロックから……キンカ」


「出ないけどジャンプ!」


「デナイケドジャンプ」


変な呪文は相変わらずに、カルラではなく僕の命令に従い飛び跳ねる神父。

同時に、モンスターハウスのトラップがけたたましく鳴り響き、あたりから新たな罠処理班が呼び出しに応じて現れては、カルラの呪いに侵食をされていく。


「たぶんシンプソンの一番の有効活用だね」


「そ、それはひどいんじゃ……」


僕の発言にカルラが控えめに突っ込むが、僕はとくに返事を返すことはなく、そのまま迷宮三階層の罠の解除をカルラに続けさせる。


罠の作動音と機械の動き続ける音が鳴り響き、迷宮三階層の相変わらずの駆動音と不思議なハーモニーを奏でながらも、僕はカルラの頭を撫でながら楽して迷宮三階層の攻略を続ける。

完全に他人任せな迷宮攻略……こんな楽な作業があっていいのか……僕はそんなことを考えながらも、迷宮三階層が攻略されえていくのを見届ける。


隠し扉の様な所から次々と送られてくる機械人形を捕まえては罠解除に当て、現れては解除に出てを繰り返す機械人形……侵入者の排除を命令されている彼らも気が付けば侵入者の侵入を全力で行っており、彼らの本当の存在理由を忘れかけたその時。


「あ、しゅ、手術室……見つけました!」


シンプソンが提供してくれた情報の通り、この迷宮三階層東側に、手術室を発見するのであった。


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