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156. レオンハルトはヨーカンがお好き?

王都リルガルム・王城。


僕は昨日と同じように、レオンハルトを訪ねカルラの様子を見に行くことにした。


王城の門番に声をかけると、レオンハルトは話をつけていてくれたらしく、立って待たされていた昨日とは異なり、休憩室に案内され、お構いなくといったのに衛兵により高級そうなブドウのジュースとお菓子の差し入れが出てきた。


おいしかった。


「お待たせいたしました……ウイル殿」


そして、僕が用意されたお菓子の一つ、タイガー羊羹と書かれた物珍しいお菓子を食べようか食べまいか迷っていると、そこにレオンハルトがやってきた。


「毎日すみません、レオンハルトさん」


僕はすぐに立ち上がり、レオンハルトの所に駆け寄る。


「いえいえ、ウイルさんも毎日お疲れ様です……今日も、忍の訪問ということで……」


物腰柔らかに笑みをこぼしながら、レオンハルトはそういい。


一瞬だけ、僕から視線を外し背後……恐らく僕の座っていたところを見やる。


恐らくあそこには……手を付けかけたタイガー羊羹があるはずだ。


というか僕の背後にはそれくらいしかないはず。


御茶受け皿に置いてあった袋からつまんで、御茶受け皿にしまうのを忘れていた。


レオンハルトそういうところ細かそうだし……少し気に障ったのだろうか。


「あぁ……すみません。 ちょっとどうしようかなぁって思ってたところにレオンハルトさんが来ちゃって……」


「なるほど、そういう事でしたか……まぁ、今のところは放っておいても大丈夫でしょう」


レオンハルトはそうにこりと笑う。


「今のところ? やっぱり片づけましょうか?」


袋をもとの位置に戻すだけだ、あとで問題がでるようなら――例えば掃除担当の兵士が怒られるとか――せっかくよくしてくれた兵士さんたちに悪いし……。


「いえいえ、客人に手間を取らせるわけにはいきませんので……今日は忍の訪問だと思いますが……まだ彼女は目を覚ましていません……それでもかまいませんか?」


しかしレオンハルトはそう話の続きをかみ始めた。


「ええ、大丈夫です、お願いします」


じゃあそんな険しい表情しなくてもよかったのでは? と僕はレオンハルトにそう思いながらも、その言葉を飲み込んでレオンハルトへついていく。



「分かりました、ではこちらへ」


そうレオンハルトは言うと、休憩室の扉の鍵は閉めずにカルラのいる地下牢へと案内してくれるのであった。


昨日と同じように、僕とレオンハルトは地下へと続く階段を下り、カルラの眠る場所へと向かう。


道中、昨日と同じ光景が続くため、特に感想の浮かばない僕は、呑気にも食べ損ねたタイガーヨーカンなるものについて夢想をする。


触ってみた感触は弾力があったみたいだけど……一体どんな色でどんな味なのだろうか。


レオンハルトに頼めば、帰りに一個もらえるだろうか……。


僕はそんな考えを浮かべ、一度ちらりと振り返ってみると。


「気になりますか?」

レオンハルトに、いやしくもタイガーヨーカンが気になっていることがばれてしまったようだ。


「お恥ずかしい」


「いえいえ、お気になさらず……仕方ないですよ」


苦笑を漏らすレオンハルト……その言い草からするとタイガーヨーカンなるものは相当おいしいものらしい……。


「まだ中身も見ていないんですよ……どんな感じなんですか?」


「おや、まだ見れていないのですか……そうですね、色は真っ黒で少し艶がありますね。

 それで球形です。 本来ならばもう少し引き締まっているのですが……あれは少し甘いですねぇ」


……いろいろヨーカンにもあるんだな。 タイガーヨーカンは少し甘めなのか。

しかしなんでさっきからレオンハルトは内緒話をするようなこそこそ声なのだろう。


僕はそこに疑問を持っていると。


「よろしければ私の方で処分をいたしますが? いかがいたしましょう?」


そんなことをレオンハルトは言ってきた。


客に出したものを自分で処分したがるほどレオンハルトはヨーカンが大好きらしい。


「え、まぁ構いませんけど……それなら僕も持ちかえりたいんですけど」


「申し訳ありませんが、あれを王城の外に出すわけにはいかないのですよ」


門外不出品? お菓子なのに?


あぁでも、レオンハルトさんが急いで処分したいってことは……すぐに悪くなっちゃうものなのかな……だとすれば、外に出して食あたりを起こされても困るということか。


「生もの……なんですか?」


「生? ええまぁ、生き物といえば生き物です」


レオンハルトは僕の表現にいぶかし気にそうこたえる。

しかしそんな微妙な齟齬に気づかずに僕は。


「え、あれ生き物なの? こわっ!?」


タイガーヨーカンなる生き物に戦慄を覚えた。


「え? 魔法の構築物だと思ってたんですか?」

「いや、そうじゃないけど……その、さすがに生きたままとかじゃないですよね」


「え? いや、死んでしまっていては意味がないでしょう?」


「うっそ!?」


い、生きたナマモノを袋詰め!? じゃあ、あれ開けると黒光りした球形の甘い味をした何かが蠢きまわるっていうの!? こわっ! ヨーカンこわっ!?


「ごめんなさいレオンハルトさん……やはり僕には無理そうです、レオンハルトさんにあげます」


「???はぁ……無理というほどのものでもないと思いますが、分かりました。 すぐに終わりますので、ウイル殿はごゆるりと面会をしてください……」


「いいの? 僕もついていこうか? さすがにあれだけの重要人物と一対一で面会をさせるのはまずいんじゃないの?」


一応A級の犯罪者なのだ、いくら信頼をしているとはいえ、誰かが一人見張っているべきなのではないだろうか?


しかしレオンハルトはにこりと笑って。


「なぁに、大丈夫ですよ。私これでも、人を見る目はある方なので」


まだあちらは二度しかあっていないはずなのに心より信頼しているとレオンハルトにそういわれ、僕はそのヨーカン好きに苦笑を漏らして。


「ふふっわかりました。 いい子で待ってますよ」


そう軽口を漏らすと。


「そうしていてください……すぐに戻ります」


レオンハルトは踵を返して、早足で地下牢の外へと出ていくのであった。


「本当に、好きなんだなぁ……ヨーカン」


僕はそんなお茶目な一面のあるレオンハルトにあきれつつもどこか愛くるしさを覚えながらも、カルラの牢へと向かうのであった。



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