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138.ムラマサブレード

「はぁ、一時はどうなることかと思ったけど、何とかなって助かったよ」


「本当本当、迷惑な話よまったく」


「君は寝ていただけだろうティズ」


その後、サリアとシオンはさっそく魔法の修行へと出かけていき、リリムさんをうちまで送ることになった。


「ふふふ、でも良かった……サリアさんの顔見た? 子供みたいにはしゃいじゃって」


「仕方ないよ、サリアにとっては悲願だから」


「でも、シオンも筋肉エルフが魔法を使えるようにできるんだったら初めからそうしてあげればいいのに! そうすれば、ガドックも全治三か月で寺院に運ばれなくたって済んだじゃないの」


「さぁ、それはわからないけどさ、シオンの口ぶりだと、何か危険が伴うんじゃないかな?」


「危ないから黙ってたんだよきっと。 だけど、今日のあの姿を見るに見かねて……そんな感じじゃないかなぁ……」


「爆発娘のくせに優しいところもあるじゃない」


「何を言っているんだいティズ……シオンは残念だけど、とっても優しい子なんだよ?」


「そうなのね。 まぁどうでもいいけど」


ティズは二日酔いがまだ残っているのか、僕の頭の上でグダグダしている。

昨日の今日ということもあり、日が高く昇っているというのに街の様子は静かそのもの、まるでまだ眠っているかのようである。


「……毎年、こうなんですか?」


「そうだよ? 生誕祭の次の日は国民の休日。 冒険者の道も迷宮も繁栄者の道も全員がお休みになる……あぁもちろん、クリハバタイ商店はやってるけどね」


にこにこと笑いながらリリムはそう言い、僕は初めて体験する静寂に包まれた冒険者の道に感心しながらリリムを送っていく。


時刻はもう十二時を回っているというのに、人はまばらで、時には家の中からいびきさえも聞こえてくる。


と。


「ありがとう、ここまででいいよ」


リリムはそう言い、クリハバタイ商店の前で振り返る。


「そうですか」


「ふふ、せっかくだから家でお茶会でもするのもいいかもって思ったんだけど……」


「ええ……そうですね」


クリハバタイ商店の隣にある寮は、商店の裏手に立っている大きな建物であり、


ここにみんなが下宿しているらしい。


そしてその寮のとなりにひっそりと建っているのが。


「あれ、あれがもしかして」


「そう私の家……鍛治道具一式がそろっていて防音も対火もばっちりな私のサンクチュアリだよ」


聖域という言葉に僕は少しだけ想像を膨らませ、提案通り少し家を覗いていきたい気持ちも同時に膨らむが。


「……あん?」


頭の上で鬼がぎろりとにらみつけてきているのでそれはかないそうにない。


僕とリリムは苦笑をしてここでお別れすることにする。


「じゃあリリムさん、また明日」


「うん……あ、そうだ忘れてた!」


「え?」


別れ際、リリムは何か思い出したように手をポンとたたき、工房付きの自宅へと入っていき。


「げっ!? リリム!? ちがっ俺はその、娘同然のお前の帰りが遅いから心配でってぎゃああああ!? ほん、本当に心配でおあああああ、ごめ、ごめんなさい!?ぎゃあああ」


…………………近くで鈍い深い音が響いた。


「お待たせ~」


何事もなかったかのようにリリムが笑顔で戻ってくる。


その手からは煙が立ち上っていた。


「一体何があったの!?」


「私の部屋に害虫トチノキが上がりこんでたから駆除したの」


「エロ爺、セクハラで騎士団に突き出したら次期店長になれるわよアンタ」


「まぁ、そういう目的じゃないのはわかるからそこまではしないけど、いつも勝手に入るなって言ってるんだけどねぇ……心配なのはわかるんだけど……少し過保護が過ぎちゃって……まぁそれがわかってるから、私もたしなめる程度で済ましてるんだけどね」


すごい音響いてましたよ?


「そんなことより、何を持ってきたのよ」


「あ、そうだった ハイこれ」


「ん?」


リリムはそういうと、僕に一本の刀を渡してくる。


「これは、サリアの剣? あれでも、まだできてないって」


「うん、サリアさんの妖刀はまだできてないよ。 それは代用品。 昨日剣が折れちゃったって言ってたの思い出したから、前に作った奴渡しておこうと思って」


抜いていると、白銀に光る刀身がその姿をあらわにする。


刀身の反りは少し大きく、波紋は乱れ刃……柄には龍が描かれており、その唾にはススキと満月がかたどられている。


それだけでも印象的な刀であったが。 もっとも惹かれるのは、光を浴びたその刀身が、うっすらと紫色に怪しく光りを放つところだ。


「これは」


「サリアちゃんの刀を作る前に私が作った試作品。 名前はムラマサっていうの」


「随分と豪華な試作品ね、これだけでも相当な業物じゃない」


「うん、切れ味はホークウインドにも引けを取らない……でもその刀は、未完成なの」


「未完成?」


「うん、使用した魔鉱石がグロウストーンって言ってね、経験値を蓄えることができる魔鉱石を使用して作っているの、紫色に光るのはグロウストーンの影響ね……そしてその刀に埋め込んんだエンチャントは、経験値を切れ味に変換する魔法……~重ねる刃~本来なら自分のレベルを下げて味方の戦士を大幅に強化する剣なんだけど」


「それを応用して、成長する剣を作り上げたのね、あんた」


「そういうこと」


ティズはため息を漏らす。


「あんたは本当に天才だわ……世界広しと言えどもこんなバカみたいな変態刀作りあげる鍛冶師なんていないわよ」

「そんなことないと思うけど……」


「もうこれでいいじゃない。 サリアなら迷宮の化け物枯らせる勢いで切って切って切りまくるわよ?」


「いや、まぁ確かにそうなんだけど……それはサリアさんが望む形じゃないから」


「?」


「もっとサリアさんには特別な剣を用意してあるから、今はそれで我慢してください。

多分本気でふるっても折れないから……ついでに、ある程度レベル上げもしといてもらえると助かるなぁなんて」


「やれやれ、一躍有名になったサリアを使った宣伝と刀の品質向上に一役買ってもらおうと……そういうことね、相変わらず抜け目ないんだから」


「ふふふ、狼ですから」


「まぁ、あの筋肉エルフが素手で迷宮攻略をするのもどうかと思ってたし、ちょうどいいじゃないウイル……リリムにも思惑があってのことなんだから遠慮することもないわ」


僕はなんだかリリムに気を使われているような気もしたが……どちらにせよ断る理由はないのでムラマサを受け取り、背負う。


「そういうことなら、喜んで使わせてもらうよ、リリム」


「よろしくね、ウイル君」


天使のような微笑みを僕に向けた後、リリムは手を振ってくれ。


そんなリリムの笑顔を僕は名残惜しく思いながらも振り返ると……。


「下の名前で呼び捨てにしてくれるようになった次は……恋人みたいにリリィって呼んでくれてもいいんだよ? ウ・イ・ル・くん」


甘い声が響く。


「ふえっ!? り、り、リリム!?」


「なんてね」


リリムはほほを少し赤らめてはにかみながら、いたずらっぽく舌を出す。


すげえかわいい。


というか、そういえば僕いつからリリムのこと呼び捨てにし始めたんだろう……。


思えばすごいことだ!? うわ、今更だけどすごい嬉しい。


「くおぉおおらああこの狼がああああ!? なああにいってやがんだくおらああ!

とび膝蹴り喰らえええええってか、恋人おおおお! 許すか!ずえぇったい許すかああ!むっきいいいいいいい!?」


突然の不意打ちのせいか、ティズも困惑しているのか、もはや言葉になっていない激昂状態でリリムに飛び蹴りを放つが。


「あっはははは~ティズさんったら~……冗談だよ冗談~本気にしないで―」


リリムは笑顔でティズをいなす。


「……このおおおお、やっぱり狼じゃないのあんた!? 絶対にウイルは渡さないんだからねこのおおおお!」


「うっふふふふ、それはウイル君が決めることだもん」


「ちょっとばかしウイルとデートしたからって調子に乗るんじゃないわよ!!」


何が原因なのかはわからないが、とりあえずエンシェントドラゴンゾンビ―よりも恐ろしいオーラを放ちながら行われた女の戦いは、僕の心臓の鼓動が通常運転に戻るまでの間つづけられ……僕は女性の恐ろしさを一つ学んだのであった。



                   ◇


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