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126.ラストバトル 伝説と道化

「伝説の騎士……」

鎧から放たれるオーラはかつての魔王を彷彿とさせ、フランクの目をもってしてもその深淵はのぞきこめない。


ただ一つわかることは、この戦い、この男を殺すことさえできれば勝利は目前であるということ。


だが、それは何よりも難しいことだと……フランクは肌で理解する。


ステータスや魔法、知識や戦術……そんな力の差ではない……もっと残酷かつ明確な根本原理によってフランクはその者が己など足元にも及ばないほどの絶対強者であることを感じとる。


敗北と死のイメージがフランクを支配する。


【ぎゃ……か……】


フランクだけではない、その威圧に、死した古龍も動きを止める。


かつて生あるものであった残滓……恐怖が一瞬全身を支配したのだ。


「レオンハルト……」


「騎士殿……」


短い会話により、互いの思いをくみ取ったのか、レオンハルトは小さくうなだれると、

伝説の騎士は両手足を失ったレオンハルトに小さくうなずき、そっと螺旋剣を引き抜く。


「リリム、レオンハルトをお願い……」


「かしこまりました……ご主人様」


リリム、と呼ばれた少女はすぐさまレオンハルトのもとまで駆け寄ると、術式を展開しレオンハルトに治癒呪文をかける。


「フランク……もう許さないぞ」


ぞわりと、フランクを含めたすべてのものが恐怖を感じる。


むき出しになった怒りという感情が、今この空間を包み込んでいる。


もはや衝突は避けられず。


「ひっ……やってやる」


フランクは二度とない好機を手にしたことを自らの主に感謝をする。


「構うことはありません!ぶっ殺せええええ! その灼熱の炎で!皆殺しだああああ!」


伝説の騎士がこちらがひるんでいると油断している今がチャンス。


「しょせんは人間、 やれ!腐敗古龍!」


【ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!】


放たれるは古龍種が誇る最大の攻撃手段……その温度はアルティメットスペルにも匹敵し、

生きとし生けるものすべてを灰塵と化す災害に近しく、よけようが防ごうが街ごとすべてを灰塵にするほどの火力をもってして、フランクは殲滅を図る。


「ま、まずい!? 伝説の騎士……逃げ……」


騎士団もレオンハルトもその強大な炎にうろたえ、騎士の背後にいたリリムと呼ばれた人狼の少女も治癒魔法を中断して何かを唱えようとするが……。


「大丈夫……これでいい」


冷静に伝説の騎士は手を伸ばし。


「メイク!!」


その場に巨大な壁を構築する。


「んなっ!?」

灼熱の劫火はその壁をうがち消失させんとしきりに壁を焼くがその壁は解けるどころか形一つ傷一つ炎によりつけられることはなく、結果、防ぎ切られる。


その場にいた騎士団全員と背後の街を守るように作られたその壁に跳ね返り、ロイヤルガーデンの半分は灰塵と化すが、壁には傷一つ付くことなくその背後にいた騎士団には

熱を持った風さえも触れることはなく。


「ブレイク」


無傷の伝説の騎士は崩れ消えていく壁の中を優雅に一人古龍のもとまで歩いていく。


「耐えただと……」


フランクは驚愕をするが、取り乱しはしない……相手は伝説の騎士、たった一人でこの王都襲撃を防ぎきる男である。


古龍のブレスを防ぎきることも視野に入れていたためだ。


だからこそ、フランクはこの場にやってきたのだ。


伝説の騎士の情報から、この男は基本武器のみで戦い魔法は使用しない。


不死であるエンシェントドラゴンゾンビとの相性は最悪。


原初の魔法もブレスも効かないのであれば……この不死の古龍の肉体をもって

攻撃を仕掛け続けるほかに勝機はない。

いや、そこにこそ勝機はある。


「ご主人様! 前に出すぎです!?」


敏捷も重量も人間をはるかに超えるエンシェントドラゴンゾンビ―。 いかに伝説の騎士と言えどもそう簡単に殺すことはできず、人間である以上疲労は必ず現れる。


疲労を知らず死ぬことを知らないこのドラゴンゾンビ―による攻撃を受け続ければ……いずれ必ず限界は来る……。


(とった!)


心の中でほくそえみ、フランクはドラゴンゾンビに攻撃を命ずる。


「いっけえええええ! 食らいつくせええ!」


ドラゴンの首が命令により伸び、その牙が伝説の騎士を貫かんと走る。


しかし。


「メイク」


腐敗古龍の真下より壁が大地より形成され槍のように伸び、ドラゴンゾンビの顎を打ち抜く。


先端が鋭利でなかったため、串刺しになることはなかったが、その一撃によりドラゴンゾンビは顎を打ち抜かれ大きく首を上にあげてのけぞるような体制になり、その心臓部をさらけ出す。


「なっ!? あの巨体を打ち抜いた!?」


驚愕をしてももはや間に合わない。


打ち抜かれさらけ出された心臓部……先ほどレオンハルトの全力をたたきつけてなお心臓を傷つけるのみだったその部位に……伝説の騎士は螺旋剣を突き立てる。


【螺旋剣! ホイッパアアアアァ!】


剣の先による超速回転……その一撃はすべてを削り取り、その破壊は神をも喰らいつくす。


それが、地に落ちた鍛治の神により作られた名剣・螺旋剣ホイッパ―。


その一撃は、たやすく腐敗古龍の体を貫き、



風穴を開けた。



横倒しになる古龍、それを見守る伝説の騎士。


その様子に夢でも見ているのではないかと口を開けて傍観する騎士団たち。


そして……笑みを浮かべるフランク。


その場にいた人間すべてが三者三様の表情のままその倒れる腐敗古龍を眺め。


「ふはああああっはははははは!見事見事です伝説の騎士!華麗なる手際、その力はまさに5分の価値があるでしょう! ですが、ですがですがですがああ! その力をもってしてもあなたは敗北するのです! 不死の力……死なない古龍!! 伝説の騎士、あなたでさえもこの不死の化け物をどうすることにはできないのです! さぁ、さぁさぁさぁ!

本当の恐怖に絶望しなさい! 恐ろしさに感涙し、絶望にその身を落としなさい!

よみがえれええ! エンシェントドラゴンゾンビいいいい!」


………………………おおっと?


「……あれ?」


フランクはきょとんとした表情で、自らの足元に倒れているエンシェントドラゴンゾンビを見つめる。


しかし返事がない、ただの屍のようだ。


「え? え? どうなってんのこれ……なんで? なんで!?」


フランクは困惑のあまり何度も魔法を試すが……もはやエンシェントドラゴンは消失していた。


「……悪いが、私に殺されたものは戻ってこれない」


「な……に……蘇生不能のスキルだと!? そんなものたかが人間に習得できるわけが……」


「さぁな……ならおまえ自身が試すといい」


本来蘇生不能を有するのは生あるものではありえず、もしあり得るとすればそれは……魔界の……。


瞬間フランクは目前の存在に絶望する……魔王の装備に螺旋剣……自分が一体何と戦っていたのかということを理解する。—―正解かどうかは置いといて——


「な、なぜあのお方が……」


理由も意味も原因も発端も何もかもが不明であるが……今わかることを整理すると。


つまりはあの発言は、はったりでも冗談でもない……その言葉は本気であるという答えが導き出され。


逃走しなければ消滅するという答えのみが導き出される。



「いやああああああああああ!?」


二度目のフランクの逃走は、自らも心の中で驚くほどあっさりと羞恥心も何もかもを投げ出したものとなった。


「いやだ、いやあああいやだああああ!? 勝てるわけない! こんなの勝てるわけない、もうおうちかえりゅううう!」


切り札も何もかもを切り崩され、もはや手の内はない……無様に、泣きじゃくりながら逃げることしかできないフランク。


しかし、こんな無計画な逃走を許すほど、伝説の騎士は甘くはない。


「シオン!」


「はいさー! やっと出番だよー!」


「ひゅいぃいい!?」


伝説の騎士の怒号とともに、一人の少女が目前に現れる。


忘れるわけも見間違うこともない、フランクにとって死神のような存在の少女は


とても楽しそうにいたずらっぽい笑みを浮かべ。


「言ったでしょ! 私の炎武からは! 逃げられないって!」


「ひっ! お願いおうちに!?」


フランクの命ごいも聞かず、魔法を叩き込む。


「ライトニングボルト!」


放たれる魔法は至近距離からのライトニングボルト……。


「がああああああああ!?」


その一撃を正面から魔法障壁も何もかもが存在しない状態で食らい、フランクは無様にも伝説の騎士のもとまで吹き飛ばされる。


「騎士さまー! 最後はびしっと決めちゃってー!」


「はいはい」


吹き飛ばされるフランクに対し、少女は杖を振りながらそう気さくに伝説の騎士に向かいそう叫ぶと、伝説の騎士はため息をつきながらホークウインドを引き抜き。


「さよならフランク……」


フランクの体を一刀両断し、消滅をさせる。


「あ……アンドリュー……さま」


断末魔の声は上がらず、ただ己の主人の名を一つ呼び、地獄道化フランクは消える。


残る音はなく、伝説の騎士が刃を鞘に収めたことにより、立ち尽くすことしかできなかった王国騎士団はようやく戦いの終結を知る。


ここに、王都防衛戦は当然のように伝説の騎士の勝利と言う形で……幕を閉じたのだ。


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