125. 地獄遊戯・エンシェントドラゴンゾンビー
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
レオンハルトの咆哮は勝利を示す雄たけびであり。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
その咆哮に呼応するかのように、騎士団、冒険者すべてのものが歓声を上げる。
倒れし古龍は動く気配はなく、敵影は完全に沈黙をした。
被害は麒麟とユニコーンのみであり騎士団は無傷……。
リザードマン、ドラゴニュート、そして古龍を退け……王国騎士団は今ここに完全勝利を……
「得たとかおもいまっしたーーー?」
レオンハルトの背後……その陰から道化が入場をする。
その表情は悪辣かつ醜悪で……何よりも怒りに燃えており。
背後からの奇襲によりレオンハルトへと持っていた杖で強襲をする。
「がっ!?」
勝利に油断をしていたせいか、それとも怒りに燃えながらもフランクの隠密行動がレオンハルトの互換すべてを上回ったのか……そのどちらかなのかは定かではないが、結果としてフランクによるその強襲は見事成功に終わり、レオンハルトはこれから始まる道化のステージから杖の一振りによりたたき出される。
そう、古龍が殺されるこのタイミングこそ、フランクが待ち望んだ仕掛けであったのだ。
「騎士団長!?」
「あれは……」
「おやおや、さすがは王国騎士団長レオンハルト、わたくしの一撃程度では大したダメージにはなーりませんか……それもまたおろかなる人間のちっぽけな努力と勤勉な鍛錬のたまものでございますねぇ、ですがですが、それであるならば、これまた人間特有の根性というものであなたは耐えるべきだった、下に降りて態勢を立て直すのは愚策でしたねぇ、あなたはこの舞台に死んでもしがみつくべきでした……ええ、そうすれば……五分の価値くらいはあなたには与えられたのに……おっと、自己紹介が遅れました。 わたくし、名前をフランクと申します……この戦争を仕掛けた張本人にございます」
「なっ……貴様」
レオンハルトは思わぬ敵の入場に剣を再度構えるが。
その瞬間にフランクは古龍に仕掛けてあった魔法を発動させる。
「時すでに遅し……わたし、現在無様な敗走中でございますが……ここで、形勢逆転……ってやつだなあああああ!」
道化は笑う……それは歓喜か怒りか狂気か……。
古龍の死体の上で、大声で笑うその姿はもはや騎士団を恐怖のどん底に叩き落すには十分であり……その次に発動された魔法によって、騎士団はすべての希望をはく奪される。
どの階位魔法にも当てはまらない膨大な魔力と古龍すべてを覆うように浮かび上がる魔法の術式。
【地獄遊戯】
そしてその莫大なる魔力は一瞬にして編み込まれ、そのすべてが目前の巨竜へと注ぎ込まれる。
「さぁ……さぁさぁさぁ! 王都襲撃の始まりだああああ! 止めてみろよシオン! 止めてみろよ伝説の騎士いいいいいいい!」
破壊された頭蓋が再生し、死して動くはずのない死体が動く。
「や……やりやがった」
冒険者が、僧侶が……レオンハルトが絶望をする。
古龍が、その魔法によりよみがえり……再度目前に立ちふさがったのだ。
◇
古龍がよみがえってから数分が経過した。
一瞬にして灰塵と化すかと思われた王都。
しかしそのブレスが放たれるよりも、幾多の魔法が放たれるよりも早くに、そのみを絶命させることにより、レオンハルトは古龍を何とかその場に食い止めていた。
【獅子王剣! ニャンコオオオオオォ!】
レオンハルトの一撃はもはやこれで何度目であろうか……すべての力を注ぎ込み、
たった一人古龍と戦うその戦士は、無駄とわかっていながら古龍を一歩も動かすことなく、
ひたすらに龍を絶命させる。
【あんぎゃあああ!?】
放たれた斬撃は的確によみがえりし古龍の心臓をえぐり、絶命をさせたはずだった。
しかし。
「あっはははははは! 無駄無駄無駄無駄無駄! この古龍を絶命させる、その力は確かに4分の価値があります! ありますがそれでもなお届かない! 届かないです!」
その心臓ごと、再生し古龍はよみがえる。
「くっ……」
レオンハルトは苦笑を漏らしながら、技の反動により膝をつく。
「団長!」
騎士団はすぐさまレオンハルトに駆け寄るが、そんなことは何も意味はなく、レオンハルトは目前の敵に対し絶望をする。
「ふっふふふふ! この地獄遊戯は、死体の欠損を修復してからネクロマンスを行う私のオリジナルスペル! アンデッドは頭をつぶされれば死にますが、すぐにその欠損を直してしまえばまた同じように操ることができる!! いかがですかこの素晴らしい芸術を……そうですね、この古龍……腐敗古龍(エンシェントドラゴンゾンビ―)とでも名付けましょうか、その肉体は不滅であり強靭であり……」
「いまだ! ターンアンデッド!」
饒舌に語るフランクに対し、僧侶たちはいっせいにターンアンデッドを放つ。
が。
「加えて」
その魔法をすべてフランクがレジストをする。
「この私の魔術障壁により、魔法はすべてレジストされる! この障壁を破ろうにも腐敗古龍の爪・牙すべてを避けなければここまでたどり着けない! そう! そうそうそう!あの小娘の速度も魔法も、この古龍の力でねじ伏せてやりますよ!」
「だったら!」
「!?」
レオンハルトは腐敗古龍の上で踊るフランクに向かい、最大速力をもってして爆ぜる。
それは、フランク本体を狙った不意打ちであり、その速度は人族の最大速力を超えた。
レオニン族の有する高速移動……。
しかし。
「はい、今四分経過です」
その速度に、腐敗古龍は対応した。
そう、レオンハルトが奮闘したために古龍は動きを止めていたのではなく。
レオンハルトの健闘に四分間の価値をフランクが見出しただけであったのだ。
「なっ!?」
「古龍は、意外と早いんだよねぇ……傲慢でなかなか本気で動かないけど、まぁ、アンデッドになってたらもう関係はないからね! 今までご苦労さん! さようなら子猫ちゃぁん!」
放たれるは古龍の持つ深く濃厚な魔力から放たれる。
【古代魔法……アイスエイジ】
階位魔法が生まれるよりも前に存在した原初の魔法……アイスエイジ。
「猫は寒いのが苦手だったね?」
「ぐ、ぐああああおああ!?」
その凍てつく波動により太陽剣は陰り、絶対零度によりレオンハルトの両腕は凍り……砕かれる。
「レオンハルト様!!」
「ぐっ」
太陽剣は落ち、腕を失ったレオンハルトはそのまま全身を砕かれるはずであったが。
「ぬおおおおお!」
その足で腐敗古龍の顔面をけり、その場から離脱する。
足が凍り付き、すぐに崩れるが……それでもレオンハルトは死ぬことはなく
部下たちのもとへと突っ込み生還する。
「騎士団長!」
「ぐっ……あっ……油断……した」
「すぐに治療を!」
苦しそうにレオンハルトはもがき、騎士団員と僧侶はすぐさま治療を開始しようとするが。
「ば……か、逃げろ」
レオンハルトの声もむなしく、腐敗古龍は呼吸の不要となった体で大きく空気をその体に流し込む。
ブレスだ。
「……美しい人間のなれ合いに三秒ほど胸糞悪い思いをしたので……フリーズエンドドラーイ! みんな焼き殺されてハッピーエンドとまいりましょうかー」
そう、フランクは古龍に皆殺しを命令する。
が。
「……おやぁ?」
誰もが、死して感情、理性をすべて失った古龍でさえも、その存在に動きを止めた。
響き渡る進軍の音。
その先頭に立つは、闇よりも深き鎧をまとった英雄。
その姿に背後をみやった騎士団の誰もが、希望の色をその瞳にともし始める。
伝説の騎士と誰かがつぶやき、勝利を得たと誰もが笑う。
その行進は威風堂々。
一歩一歩が人々の希望であり、一歩一歩がフランクへの死の宣告。
フランクは息をのむ。
あれが伝説の騎士。




