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115.アンデッドハントvsアルフ

「神父の坊主……おい、こら坊主……」


腰を抜かしその場に倒れた神父に、アルフは声をかけるが。


「うーん……金貨……ほしい……神よ、神よぉ」


「あ、ダメだこりゃ」


すっかり伸びてしまった神父にアルフは諦めてそのまま放置をする……と。


「アルフ! アンタ来る予定だったんならもっと早く来なさいよ馬鹿ぁ!」


不意にアルフの頭にドロップキックが命中し、アルフは誰が来たのかをすぐさま理解する。


「おぉティズ、無事だったか」

「無事だったかじゃないわよ! やっぱりアンタここの担当だったのね! おかしいと思ったのよ! ウイルがこんな危ないところにこんなヘタレ神父と二人きりになんて!するわけないもん!」


「いやすまんすまん、ウイルの奴にお前さんを守ってくれとは言われてたんだが、まっさかこんなにピンチになってるとはな……」


「ごまかすんじゃないわよ馬鹿クマ! クマバカ! どうせ道に迷ってたんでしょ! 原始人!」


「おいおい、助けてやりに来たんだからもう少し優しくしてくれたっていいだろうが、いや確かに道には迷ったがよ」


「むっきいいいいい!そんな髭生やしてるから前が見えなくて道に迷うのよ! 剃れ!いやむしろ後で剃ってやる!」


【いつまで話している】


不意に、アンデッドハント三人がアルフを取り囲み、攻撃を仕掛ける。


彼らの勘から、今のこの敵の力は三人分だとそう判断したためだ。


他の三人は、敵の動きの観察とばかりにこちらの様子を静観している。


「ぎゃあああ、きたああ!? アルフ、何とかしなさいよあんた!」


「はいはい」


ティズは叫びながらアルフの首元に隠れると、そのまま大き目なアルフの兜の空洞にその身を潜ませる。


そんな逃げ足の速さにアルフは呆れたようなため息を一つ漏らして斧を構える。


攻撃を弾くか、よけるか……それを値踏みするためだ。

【余裕ダナ】

三人の息は分身体かと見間違うほどであり、

振り下ろす剣も上段、横薙ぎ、そして逆袈裟と別れていなければ鏡写しと誰もが錯覚を起こすだろう。


【逃げ場はないぞ】


【防げぬぞ】


防御を不能とする三位一体の一撃……どこによけようとも鳥かごのように剣激がその身を包み込む。


回避も防御も不可能。


そう判断したアルフは口元をゆるめ。


【!?】



「どぅおおらあああああああああああああああ!」


大斧を振り回し、アンデッドハントを吹き飛ばす。


技巧でも何でもないただの力技、しかしそれを可能とするだけの力が、この男にはあり、アンデッドハントは後退を余儀なくされる。


【ぬっ!】


【チカラが……アガッタ?】


もし直前にとっさに斧を防がなければ、両断されていた。


それだけの一閃が放たれたことを死霊騎士たちは静観していた者たちも含めて理解し、


自らが導き出した答えと異なる結果に、死霊騎士たちは動揺を隠せず、体勢を慌て立て直す。


【馬鹿な。 我らはすべてマスタークラスで構成された騎士団……その三人の攻撃を平然と弾き飛ばすなど……】


「そうなのか? 随分と軽い一撃だったが」


【きっ貴様!】


アルフの挑発は耐えがたかったのか、騎士団長のように見えるアンデッドハントは更に攻撃を仕掛けていく。


【ナラバ六人ナラドウダ?】


今度は六身一体……マスタークラス、このすべてが歴史に名を刻んでもおかしくはない英雄たちの一撃は、己の誇りを傷つけた男へ怒りをはらみながら攻撃を仕掛ける。


が。


「ちょうど面白くなってきたじゃねえか」


そういうと斧を振り上げて、敵へとたたきつける。



【ぐっ】


その破壊力は凄まじく、狙われた死霊騎士はその攻撃を刃で受けるも、斧から伝わる衝撃に全身が悲鳴を上げ、アンデッドハントの周りのタイルがはじけ飛び、防いだ宝剣にひびが入っている。


驚愕の色を隠せないアンデッドハント。


当然だ……彼らはマスタークラスの冒険者と同じ強さを持っている。


だというのに、たかがドワーフの冒険者の一撃に押し負け。


迷宮最下層の宝剣にひびさえも入れさせられたのだ……。


だが、その程度で動揺し動きを乱すことなどアンデッドハントは愚かではない。


剣にひびが入ったとはいえ、やられたわけでもなく、しっかりと攻撃は防ぎ切った。


ならば残った5人がしっかりと命を刈り取ればよいだけである。


この男は見るからに鈍重脳筋なパワータイプ。


ならば速度と技巧で攻めればたやすい。


そう全員が当然のように同じ思考にたどり着き、アンデッドハントはそれを実行する。


初撃は両側からの横薙ぎ。


そして取り囲むように背後から刺突が入り。


首を刎ねた瞬間その体を一刀両断とする。


この行程を、初撃を放ってから体が崩れる前に終了させる。


【大型魔物を刈り取るときの手順であるが、凶暴なクマならば問題はない】


口元を緩めて初撃を担う騎士二人ははそうつばぜり合いを続けるアルフへと踏み込み。


【もらうぞ】

【クマ男!】


二つの閃きがアルフの胴体を両断せんと走る。


が。


「ほっ!」

アルフはその刃を上空に飛び跳ねて回避する。


【っ!? ドワーフのくせに猿みたいに!】


刃に空を切らせ、いら立ったように死霊騎士はアルフへと言葉を漏らすが。


「誰が猿じゃ!」


アルフはアンデッドハントの頭近くまで飛ぶと、持っていた斧の柄で二人の騎士の顔面を

殴りつける。


【ぐっ】


【きさまっ】


ダメージこそないが、衝撃によりアンデッドハントはひるみ、続いてくる刃へ対処する時間を与えてしまう。


次に迫るは背後からの刺突。


バックアタックによる隠密スキルであるが。


アルフはその攻撃を斧の刃で受け止める。


甲高い音が響き、死霊騎士は舌打ちを漏らす。


完全に不意打ちを読まれていたこともそうだが、何よりも腹立たしいのは


この攻撃に対処をするのに、このアルフという男がこちらを一度も確認しないということだ。 マスタークラスまで上り詰めた騎士にとってそれは耐えがたい屈辱であったが。


【よそ見をしている場合か……なっ!!】


その怒りを行動に移すよりも早く、仲間の刃がさらに背後から襲い掛かる。


だが。


目前のドワーフはそれを意に会する様子もなく、刺突を防いだ斧でその刃を今度は柄で防ぎ。


目前より迫る一刀両断を装備していた兜で防ぎきる。


【……この六身一体の攻撃を……止めただと?】


だれも止めたことのないこの一撃。


マスタークラスの騎士六人による波状攻撃は敗れ去り、兜に剣を打ち付けられている状態で、アルフは口元を緩める。


「単純な話さ……お前らと俺じゃ、格が違うのさ」


そういうと、アルフは斧を両手で持ち直し。



「大・回・転」


弧を描くように大きく振るう。


【ぐっ!?】


【コノチカラ……マダアガルノカ!?】


明らかに、先の一閃とこの一閃では力も速度も何もかもが桁違い……。


死霊騎士たちは吹き飛ばされながらも体勢を立て直し、同時に敵のからくりを探る。


【身体能力強化系魔法の痕跡は認められない】


【マジックアイテムも該当なし、そもそも魔力の流れがない】


【衣服も靴にも異常はない】


【エンチャント・薬品ハミウケラレン】


【となれば】


小さな作戦会議は即決で答えを導き出す。

その答えは。


【……あの武器に答えがあると見た、おそらくは、戦いが長引くほどステータスを向上させる魔法アイテム】


『同意見』


死霊騎士は結果を導き出すと、またもやアルフを囲むように攻撃を仕掛ける。


「こらーっ!? アンタ今私が兜の中に入ってるって忘れてただろー馬鹿クマ!」


「うるさいな本当にお前は、切れてないからいいだろうが」


「切れてたらぶち殺してるわよあんたの事! むかしっからアンタのそういうところ治ってないのね!」


「お前さんのキーキー声が治るころには治ってるだろーよ! そんなことより早く隠れんと、お前だけ開きになるぞ!」


「ぎゃっ、それはごめんよ!」


そういうと、まだ文句の言い足りなさそうなティズをアルフは指で兜の空洞の中へと押し込める。


【貴様にかまっている暇はない! この一撃で決める!】


そういうと、アンデッドハントたちは散会し、再度全方向からの攻撃を仕掛ける。


「こっちも時間がねぇんでな」


ちらりと自らの腕を見る……。


斧からは煙が上がり始めている。


彼にとっての時間が迫っているのだ。


だからこそ次の一撃で決めないと……そうアルフは心に決めて斧を構える……が。


【その斧に力の秘密があることは分かっている!】


剣による攻撃が来ると油断していたアルフは、一際大きいアンデッドハントから放たれた攻撃に意表を突かれる。


【不自然な絡み取り!】(アンナチュラルエントゥイン)


「なっ!? クイックスペル!?」


放たれた魔法は第四階位魔法不自然な絡み取り。


敵に絡みつく魔法の鎖を放つ拘束用の魔法であるが……その魔法を

アンデッドハントはアルフの斧に放ってきた。


予想外の出来事にアルフは戸惑ったのか、奪われまいと腕に力を籠めるよりも先にアンデッドハントはその斧を奪い去る。


【もらったああ!】


渾身の力で引き揚げられたその斧は、まるで怪魚の一本釣りのように宙を舞い、アルフは

斧を失う。


「しまっ……」


【その首もらった】


迫りくる五人の影。


斧を失ったアルフはなすすべもなく。


「あ~あ」


そんな言葉を漏らしながら、刃をその身に受け入れる。


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