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114. 死霊騎士アンデッドハント


「ん~? 何ですかあの集団は、薄気味悪いですね」


「ちょっと、もしかしなくてもやばそうよあれ」


シンプソンはヴァンパイアワームへの追撃をやめ、新たに現れた六人のぼろぼろのフードつきのローブをまとった騎士たちを見やる。


その独特な文様の入ったローブは、薄気味悪く、その中の顔が見えず、人なのかゴーストなのかも判別できない。


認識疎外の魔法がかけられているのか、それとももともと顔などないのか……。


「下がりましょうか」

「そうしましょ」


どちらにせよ危険を感じたシンプソンとティズは、気が付けば第四部隊長のもとまで後退をする。


こういう時の身のこなしについては、この二人は通じるところがある。


「あんた、あれ何かわかる?」


ティズの質問に対し、第四部隊長は困ったような表情を見せて言葉を選ぶように

返答をする。


「アンデッドハント、おとぎ話の存在ですが死霊騎士の一種で夜な夜な人をさらい眷属にするというアンデッドの騎士たちのはず……このタイミングで出てくるということはアンドリューの手下なのでしょうが……」


「はあーーーっはっはっは! なるほどね、死霊騎士ですか! ならば恐れるに足らず!アンデッドだろうがヴァンパイアだろうが何だろうが! 私の力の前には無意味ですからね! ささっと倒して終わりにしましょう!」


「あんたそれ完全に死亡描写のおぜん立てになってるけど大丈夫かしら?」


ティズがジト目でそう突っ込みを入れるが、神父の耳には入っていない。


「これで終わりです!」


もはや神父は有頂天と言った感じであり、目前の死霊騎士、アンデッドハントに対して

最大級の一撃を準備する。


【我は高貴なる神に寵愛された神の使徒……ゆりかごから墓場まで、大神クレイドルの名のもとに死を冒涜する愚かな魂を許し、天へと地へと導きたまえ……】


膨大な奇跡の魔力に、アンデッドハントは目前を見やる。


【あれは】


【神父シンプソン……クレイドル寺院の最高責任者だ】


【なるほど、大した魔力だ……ヴァンパイアワームを一撃でここまで衰弱させるだけはある】


【だが……】


死霊騎士たちはそういうと、神父へと向かって走る。


「がっ」


「ぎゃあああ!?」


立ちふさがる兵士たちは剣の一振りでなぎ倒されて行き、死霊騎士は王国騎士団をまるで

無きがごとく速力でシンプソンへと走り寄る。


「ちょっとアンタ! 早くしなさいよ! 詠唱が終わる前に切りかかろうって腹よ!」


「大丈夫ですよティズさん! もう何もかもが手遅れです!」


しかし、いかに早くとも、距離に差がありすぎた。


シンプソンは勝利を確信した表情のまま、天に手をかざし、最大級の対アンデッド奇跡を発動する。


【光さす天空】


光り輝く浄化の光、ターンアンデッドの光などとはくらぶべくもないその暖かで穏やかなる光に触れたアンデッドたちは、一瞬のうちに浄化される。


「ぷふっぎゅいいいいいいい!?」

先ほどのたうち回っていたヴァンパイアワームは、光に触れた部分が焼けただれ、光に包まれた部分はすでに消失をしている。


そして。


「なっ……」


「あれ? 傷が……」


この第十階位奇跡魔法……光さす天空は 光に触れた生あるものを蘇生、回復をする特殊効果も持っている。 まさに攻防一体の奇跡である。


が。


「ふえ?」


死霊騎士たちは、その中でも速度を落とすことなく迫りよる。


回復をした騎士たちに剣を突き立て、死霊のようにローブをはためかせながら、足音もなく、癒しの光が差し込む中で、狂気の声を掻きあげながら騎士たちをたったの六人で絶命させていく。


おそろしいのは、アンデッドハントは魔法を使わず、死霊特有のブレスも、金切り声も上げないことだ。


無口、無音……音も何もなく其れは騎士団を刈り取り、響き渡る音は肉を貫き切り裂く音のみ。


その戦いは、そこにいるのに認識ができなくなってしまうほど不確かでおぼろげで……。


存在感が薄く、仲間が切り裂かれていることにすら現実感がわかない……それほど己を隠匿することにたけた集団なのだ。


神父たちは死霊騎士という言葉の意味を理解する。


「ちょっとどういうことよあほ神父! あいつら全然効いてないわよ! ってか少し気分ようさそうじゃない! なにしたのよあんた!」


「そ、そんな馬鹿な!? またですか、またこのパターンですか!?」


効いている様子もなく、むしろ回復をしているようにも見て取れるその目前の光景に。


ティズはキーキー騒ぎながら神父にそう問い詰めるも、神父はどうすることもできずに魔法を放ち続けている。


現に迷宮八階層のアンデッドはこの最大級の浄化呪文に浄化され滅却された。


だというのに、この死霊騎士にはダメージが与えられている素振りすらも見られない。


しかし疑問符を浮かべる間もなく、死霊騎士三人が先陣して神父へと走る。


「ぐっ! させるかぁ!」


剣を構えた死霊騎士……それに対し、第四部隊長は剣を掲げて敵へと刃を振るう。


全身全霊の一撃、国より賜った対頂角である高級なミスリルの剣をもってして迎撃する。


「おおおおおおぉ!」


【遅い……軽い……つまらない】


しかし……それでも死霊騎士には届かず。


「ぐっはぁあ!?」


死霊騎士の攻撃により一瞬にして気吹き飛ばされる。

 

「まずい!? まずいまずいまずいですよ!? ティズさん早くなんとかしてください!? 神父死にたくない! まだ死にたくないよおおおぉ!」


「どうにかしろってどうしようもないわよ! 私ができるのは光るだけなのよ!

ただでさえ今の魔法であんたに存在意義を奪われたんだから!」


最大呪文が途切れても、魔法の発動後の硬直により動けない神父。


そして光ることしかできない妖精。


騎士団はいともたやすく蹴散らされ、部隊長はすでに敗北している。


もはや、神父を守るものは何もなく……目前にアンデッドハントが迫りくる。


「いやあああ!?」


情けない声をあげて泣き出す神父。


【騎士団として、敬意を表し、一撃でその首を刎ねよう!】


ゆらりと、やはり音もなく一歩、ひときわ大きな姿の死霊騎士が踏み出し、神父の前へと踏み込み、剣を振り上げる。


もはや神父には動くことも回避をする余力もなく。


「あ、ああ、だ、誰か助けてえええ!?」


命乞いに近い情けない言葉を漏らすが、もはや騎士団も何もかもがすべて瓦解している。


気が付けばアンデッドも騎士団もほとんどが倒れており、ここに残るのはアンデッドハントとシンプソン、そしてうるさい妖精だけとなっていた。


【さらばだ……神の使徒よ……メイドの土産に教えておくが、私たちは死霊騎士とは呼ばれているが、全員デミゴッド【半神】だ……】


詐欺じゃん……。


そう神父は心の中で叫び、生き残りその光景を見ていた兵士たちは、神父が神に愛されている理由が少しわかった気がした。


【さらば】


振り下ろされる刃はおそらく神父をきれいに一刀両断にしてくれるだろう。


神父はもはや叫ぶ元気もなく、ただただその白刃を絶望にまみれながら見つめていた。


が。


「やーっと見つけたぞ……アンデッドハント」


不意に、低い声の黒いクマが一頭……二人の間に躍り出て、その刃を担いだ斧で防ぐ。


【ぬっ】


両断の一閃……しかもその手に握られている剣は迷宮最下層の宝剣……その一撃をたやすく防いだ斧と、その男に対し、アンデッドハントは声を漏らす。


【貴様……何者だ】


予期せぬ来訪者に、アンデッドハントは苛立たし気にそう問いかけると、それとは対照的に、そのクマは口元を緩め。


「俺の名はアルフ……しがない冒険者さ」


そう言い放ち、斧を振り上げる。


【ぐっ……】


飛ばされるように剣を弾かれたアンデッドハントは、一度他の騎士たちのもとまで下がり、警戒するように陣形をとってアルフの様子を見る。


……自らの剣激を止めるものを侮るほど、彼らは馬鹿ではなく、目前の男が歴戦の戦士であることは一目で理解し。


アンデッドハントは、アルフを障害と認識した。


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