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110.へ~んしん!

「なっ!?」


サリアは生まれつき、魔力を感じることなく生きてきた。


そのため、今までも大きな魔力や駄々もれな魔力であれば気づいたが、少しでも隠匿をされるとエルフでありながらまったくもって認識できない。


ゆえに、フランクが詠唱破棄で第八階位魔法を放つために魔力をためていたことに気づくことなく、たやすくフランクの術中にはまってしまったのだ。


「しまっ」


後悔してももはや遅い……襲い掛かる石の槍の速度は速く、揺れる足場に足を取られて回避も間に合わない……。


「いよっしゃぶっ殺せえええええ!」


(ここまでか)


己のふがいなさと未熟さを公開しながら、サリアは迫る石柱を受け入れる。


が。


「火炎の一撃!!」


瞬間、斧の形をした炎が石柱へと走り、粉々に粉砕する。


「きゃっ」


サリアは突如消えた石柱に対処することができずに、可愛らしい声をあげて尻餅をつく。


「馬鹿な……あの一撃を受けてなぜ」


「ああーーー痛った!? 死んじゃうところだったーー! 生命力5なんだよ! 死んだらもう生き返れないかもしれないんだから!」


「シオン……思ったよりも元気そうですね」


サリアは呆れたような声を漏らして立ち上がり、がれきから現れたシオンに安堵のため息を漏らす。


「あったりまえだよー! 生命力5でも、自分の命の守り方くらいはちゃんと覚えてるんだから―!」


シオンはにこりと笑みをこぼした後、ブイサインをサリアに送る。


「さーて、あの道化師に踊ってもらいましょうか!」


杖を構え、シオンは不敵な笑みを浮かべてそうフランクへと宣言をする。


が。


「くっくく……どうやら悪運だけは強いようですねぇ……まったく、あなた方は伝説の騎士含め私をイラつかせる……私も騎士狩りに早く参加したいというのに……早く……死んでくれませんかねぇ……」


フランクの形相はもはや悪鬼羅刹と相違ないほど歪み、あちこちの血管が音を立ててちぎれていくのが分かる。


「……あらーサリアちゃん私が気絶してる間になにしたの? やっこさんゆでだこみたいだよー?」


シオンは苦笑を漏らしながらそう敵の形相についてサリアに訪ねるが……。


サリアはフランクが発した捨て置けない発言に動揺をする。


「今なんといったフランク……騎士狩りだと?」


「ええ、アンドリュー様の幹部である私とマスタークラスのシノビ……そして死霊騎士アンデッドハントが今伝説の騎士の首へと向かっている……あの騎士こそアンドリュー様の最大の障害となりますからねぇ……」


どくんとサリアの心臓がはね、シオンもその話に顔を青くする。


迷宮最下層の魔物が、自らの主へと向かっている。


その最悪な状況に、サリアが冷静でいられるはずもない。


だれもが伝説の騎士を最強と疑わないが、ウイルはレベル4の冒険者でしかないのだ。


サリアの息が上がり、その表情に恐怖の色が浮かび上がる。


マスタークラスになって、これ

が彼女が久方ぶりに感じた恐怖であり、自らのあってはならない想像にサリアはその手を震わせる。


「サリアちゃん」


そんなサリアの様子に、優しくシオンは声をかけ。


「わかっている……今すぐにあの道化師を殺して……」


「ここは私に任せて、ウイル君をお願い」


「え?」


そうサリアの前に出る。


「な、なにを言っているのですかシオン!? あなたさっき吹き飛ばされて!?」


「大丈夫大丈夫―! なんか次はいける気がするから!」


「何をのんきなことを!」


「それに」


「えっ?」


「……ウイル君はみんなの要だから、お願い」


そうシオンは笑顔を作る。


それはいつものふざけ半分の笑顔ではなく……覚悟を決めたほほえみであり、サリアはその覚悟を前に返す言葉を見つけることができなかった。


「……わかりました」


「おやおや……作戦ターイムですかぁ? どうするつもり? どうするつもりですぅ?

おふたがたの弱点はもはや完全に覚えました……もはや私は超えられないよぉ?」


「私が隙を作るから……あとはよしなに!」


瞬間、シオンは杖を振り上げ。


フランクへと魔法を放つ。


「晦まし灯!!」

「なっ!」


第三階位魔法晦まし灯……。


ただの目くらましにしかならない魔法であったが、攻撃魔法と身構えていたフランクには

完全なる不意打ちとなった。


「ぐっ!?」


「はあああああああああああ!」


視界をふさがれた中、聖騎士の攻撃が迫る。


「なめるな! 来なさい!」


しかし、眩む視界の中でもフランクはなお敵を認識し攻撃に備え防御の体勢をとるが。


「…………」


「………」


サリアはそのまま、フランクの横を抜けて全速力で走り抜ける。


「え?」


魔法が切れ、視界が戻ったと同時にフランクはそんな間の抜けた声をこぼしてしまう。


「……ふっふっふ、サリアちゃんはあなたにかまっていられるほどお暇じゃないのだー!」


シオンはそうできる限りいやらしい表情で相手にそういうと、杖を再度構える。


「ふっふふふ、それであなたは見捨てられたと……別に構いません……あなたを先ほどのように瞬殺して、あとを追えばいいだけなのですから」


「何を勘違いしてるのかな~?」


「なに?」


「言った筈だよ、私の炎武……見せてあげるって」


そういうとシオンは自らの服に手をかけ。


「へーんしん!!」


その衣服を自らの手ではぎ取った。


「変身?」


ふざけているのか? それとも馬鹿なのか?


フランクは一瞬その判断に迷い、敵のその服を一気に脱ぐという行動を阻止することはできなかった。


というよりも阻止する必要がなかった。


そもそも、魔術師がローブを脱いだところで、何かが変わるわけでもない。


ただでさえ高いアーマークラスをさらに高く……つまりは死にやすくなるだけだ。


だからこそ同時に興味深くもあった。


魔術師でありながら自らの一撃に耐えて抗ってくる……そんな人間の姿に、フランクは少しばかり興味をいだいたのだ。


あがく姿を、それでいて絶望する姿を見るのは、地獄道化最大の楽しみだから。


ふわりと浮いた洋服。


フリルの多い可愛らしいドレスのような赤と白の服は脱ぎ捨てられ無残にも地に落ち。


タイルを砕く。


「なっ!?」


鈍い音がし、レンガで作られているはずの道を砕き、あろうことかたかが洋服が地面に深くめり込んだのだ。


魔法? それとも呪い? あらゆる可能性やその意味を模索するフランクだったが、いくら難しく考えようとも、導き出される結果はシンプルで、ただ単に服が重いだけという答えにしか行きつかない。


……地面にめり込むほどの重さを持つ服の持ち主。


フランクは嫌な予感とともに、観察を取りやめにして今度はシオンの首を狙ってその杖を振るう。


先と同じ速力、マスタークラスの聖騎士と互角に打ち合ったその一撃を……ローブを脱ぎ去り、赤い薄く露出の多く腹部が出ている服になった少女へと攻撃を仕掛ける。


長年の勘が、あの変身とやらを終了させてはいけないとそう告げていた。


しかし。


もはや手遅れであった。


中断に構え、刺し貫くように放たれたフランクの杖による一撃。


しかし少女は、その杖をいともたやすく体の向きを変えただけで回避をし。


【ファイアーボール】


攻撃を回避され無防備となったその体へとトネリコの杖を触れさせ……ゼロ距離で魔法を放つ。


いかに魔法障壁と言えども、懐に潜られては何の意味もなさず。


「がああああああああああっ!?」


フランクはいともたやすく第一階位魔法に吹き飛ばされた。


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