101. 今何でもするって言ったよね? にかいめ
=二時間前=
「いきなりどこに向かうかと思えば……王城で王国騎士団長を呼び出すとは……お前さんも大概無鉄砲だよなぁ、下手したら捕まっとるぞ」
王城前にて、レオンハルトさんに王都襲撃に関する情報を与えたのち、僕たちは冒険者の道へと戻っていく。
アルフの軽口に僕も軽口を返して笑いあいたいところだが、時間が足りない今はそれどころではない。
「仕方ない、これしか方法がないんだから」
僕はそうアルフに短く返す。
速足で歩いているため少しばかり息が乱れ気味だが、そんなことで歩みを止めている暇はない。
僕にできることを今しがた一つ終わらせた、生誕祭が始まるまでまだ時間はあるとはいえ、急がなければ王都防衛を十分に行うための準備をする時間が無くなってしまう。
「……お前さん、一体何を企んどるんだ? もう王都防衛なんて王国の騎士団に任せておけばいいだろうに?」
「それだけじゃきっと足りないよ。 ギルドに協力を仰がないと」
冒険者ギルドは報酬を用意することで、依頼をすることができると聞いた。
王都の守護をギルドに頼めば、祭りに参加する予定だった冒険者たちが防衛に協力をしてくれるかもしれない。
それに。
「あとは、クレイドル寺院にも」
怪我人は必至、街の一般人に死人が出るかもしれない……兵士のケガの治癒が可能な人間を配置することは継続戦闘可能時間を大幅に上昇させる。
この二つが王都防衛に協力をしてくれれば、大幅に王都防衛の成功率が上がるはず。
行き当たりばったりの作戦であり、具体的な防衛作戦等々はすべて王国騎士団長であるレオンハルトさんに丸投げをするという何ともお粗末な作戦であり、僕は自らの無能さに呆れてため息をつきたくなるが、それでも自分にできることは全力でやろうと考えてまた一つ歩く速度を上げる。
王城から近いのはクレイドル寺院であり、あそこの神父であればギルドに協力を仰ぐよりも早く話がまとまるだろう。
そう考えて、僕はまたもや惰眠をむさぼる検問の兵士のおじさんを素通りして
クレイドル寺院へと向かう。
「しっかし、いくらお前が命助けたからって、あの守銭奴が快く協力をしてくれるとは到底おもえんが」
アルフはついてきながらそう僕に言うが、僕だってあの神父が借りの一つや二つで
命を懸けた戦いに参加をしてくれるとは思っていない。
「大丈夫、何も考えなしに行くわけじゃないから」
「そうか、それなら結構だが」
アルフは一つうなずくと、簡単に僕を信じてくれた。
ティズやシオンやサリアもそうだが、みんななんでこんなに僕の言葉をこうも簡単に信じてしまうのか? 成功する自信がないことはないのだが、こうもあっさり信じられてしまうと僕も緊張をしてしまう。
「さてはてそれじゃあ、その交渉術、お手並み拝見と行こうかウイル」
アルフはそう意地悪な笑みを浮かべて僕にそういい、僕はそれにやれやれとため息を一つ漏らしてクレイドル寺院の門戸を叩く。
「ようこそ迷える子羊よ、今宵はどのようなって、はああぁ!?」
相も変わらず誰にでも開かれるこの門戸、見た目等で人を判断しないところはこのクレイドル寺院の唯一といっていい利点であろう。
深夜だというのにこのクレイドル寺院は簡単にその扉をいつも通りに開き、同時に聞きなれた声と驚愕の声が寺院から零れ落ちる。
中から現れたのはいつも通りクレイドル寺院神父であり、僕の魔王の鎧をみるなりシンプソンは驚いた表情で大げさに後ずさる。
「あまり来てほしくなかったみたいだね、神父さん」
「そそ、そんなことはないですよマスターウイル!? 」
ぎこちない笑顔を見せながら神父はそう僕に挨拶をかわす。
思えば彼は、この鎧を着ていても僕を僕と認識できる数少ない人間だ。
「本日はいかがなされました? けがの治療? それとも状態異常の回復?」
その表情からは早く終われと書いてあったが、僕は努めて冷静に神父にここで交渉を投げかける。
「今日は健康体だから回復は必要ないんだけど……あの大穴ってもう、処理は済んだの?」
ぼそりと僕はそう神父に向かってこぼすと、神父は冷や汗を垂らしながら首を小さく、本当に小さく横に振る。
「そっか、だろうと思った」
僕はわざとあきれるようなそぶりを見せて大きなため息をついて見せる。
当然のこと、アルフはなんの話か分からず、きょとんとした表情でこちらを見ており、神父はそんなアルフにこのことが知られるのではないかとはらはらした様子で僕とアルフを見比べている。
本当、ここまでうろたえるならなんであんな大穴に死体を放置するなんてことしたのだろうか。
「あ、ああああのマスターウイル! そのですね、大穴の処理はまだ時間がえとそのかかるのですけれども……でも作業はしっかりと続けてるのでだから」
そのことを国にあげられたり発覚すれば、クレイドル寺院はおしまいだ。
少なくとも1万人以上の人間をだまして、埋葬費用をせしめていたのだ。
国が不干渉を貫いたとしても今度は冒険者たちによりクレイドル寺院の襲撃が開始されるだろう。
そうなれば、確実にマリオネッターの時の襲撃などとは比べ物にならない大襲撃が予想される。
だからこそ。
「その穴、埋めてあげようか?」
「だからその処理の方は……はい?」
神父がきょとんとした表情でこちらを見る。
「今、なんとおっしゃりました?」
目が点になっており、新しい魔物とも思えるようなシュールな顔になっている。
「だから、僕がその大穴を埋めてあげようかって言ったんだよ?」
「そ、そんなことが? いや、信じていないわけでは決してないのですが! しかしあれだけの大穴を……」
「メイク」
作り上げるのは一本の石柱。
メイズイーターは何か壁や大地の代わりになるものに触れていればいいので、クレイドル寺院の床の上からでも平然と壁を作り出すことができる。
今まで地上では目立つから使用することはなかったが、早朝で患者はいないし、神父になら見せても大丈夫だろうと判断する。
まぁそれに、信じられないのも無理はない話なので、実際のものを見せれば納得するだろうし。
大きさも、天井の梁に届かんばかりの特大のものだ……。
念のためにと、もはや必要のなくなったフォッグフロッグがいた迷宮の部屋の壁をすべて保管しておいて正解だった。
あれだけの大部屋の壁をすべて取り込んだのだ、あの大穴をふさぐことぐらいわけはないだろう。
「ななな……なんじゃこりゃああ!?」
「ウイル……お前」
驚愕の声を上げる神父とアルフ。
アルフにこの力を見せることは初めてであったが、アルフにだけ黙っているのは
少しばかり水臭いような気がしてたので、少し肩の荷が下りたような気がする。
「僕が伝説の騎士だってことと同じく、このスキルのことも内密でおねがいするね」
驚愕に声が出ないのか、神父は突如として現れた迷宮の壁に驚きながらペタペタと壁を触りながら無言でうなずき。
「あ、あぁ」
アルフも困ったような表情を浮かべながら頷いてくれる。
「……この能力で、君の心配の種である、迷宮地下の大穴を、この壁で埋めてあげようかなって思ってここにいたんだけど……」
「ほっ!? 本当ですか!」
「うん、本当……ただし、条件があるんだ」
「やります! ぜひやります何でもやります!」
「ん? いま、なんでもやるって言ったよね?」




